「僕は…………僕はまだ決めることはできません……」
シャルロットがやっとの思いで絞り出した言葉は肯定でも否定でもなかった。青年を遠ざけることへの覚悟は出来ていない、かと言ってこの場で千冬の意見を無碍にすることも出来ない。その思いがシャルロットから漏れ出た一言に詰まっていた。
一方の千冬はその答えに対して音を立てない姿勢を貫く。すぐに答えを出すことが出来ないことを千冬自身も分かっているためだ。それでも決めてもらわなくてはならない、いや正確には理解してもらわなければならない、それしか残された道はないのだから。
「ダメだ、デュノア。お前にはこの場で決心してもらわないといけない……あいつが覚醒してしまっらもう誰も止めることはできない。必要なんだ、あいつを守るためにも、世界を守るためにもな……」
納得できるわけがない。きっと彼を傷つけずに済む他の道もあるはず。そう思ったシャルロットは自分の考えを口にする。
「……誰もいない所で静かにと暮らすことは出来なかったんですか?」
「最初は私もそう考えていた。だが思わぬアクシデントが起きてしまった。それが一夏のIS起動だ。その結果、弟であるあいつにも白羽の矢が立ちこの学園に入れられてしまった。表舞台に立った以上、もはや逃げることは許されない」
「それじゃあ、これから先も……」
「これから先も変わらない。あいつに取っては辛い現実であったとしても、私達にとっては最善の未来なんだ。理解はしなくていい、ただ受け入れるんだ」
「僕は……」
もう一度だけ青年の顔を思い浮かべる。一夏や千冬に比べて覇気がなく柔和な雰囲気を纏った顔。そしてシャルロット自身はその顔が大好きだった。自分のためにデュノア社から守ると誓ってくれた時も、ラウラの暴走に怯えていた時も、シャルロットを安心させるために向けてくれるその顔が大好きだ。
シャルロット自身は気づいていないが、間違いなく青年に対して親友以上の感情を抱いていた。しかもそれは一般的な価値観では測れないほどに歪んでいて、献身を通り越し自分の全てを捧げても良いと思っている。
だとすれば答えることは一つしかない。
「僕は、彼と距離を置きたいと思います」
言葉にすることで決心する。
だが千冬はその言葉を信じる。
いや、信じることしか出来ないからだ。
「ありがとうデュノア。お前にはこれからも苦労を掛けることになるがよろしく頼む」
「いいんです。彼にとってこの判断がもっとも正しい事ですから」
「そうだな……私もそう思いたいよ」
そう話す千冬の顔は悲しそうであった。
◆
昨日の体調不良が嘘のような清々しい目覚めであった。
頭痛や眩暈、気怠さは一切なく、体が軽かった。
軽い体を楽しむように、ベッドから降り顔を洗う。眠気は水と共に洗い流され感覚が研ぎ澄まされる。
その後身だしなみを整え制服に着替える。
青年は袖に腕を通しながら、昨日のことを思い返す。体調不良の自分の元にシャルロットと千冬姉さんがきてくれた。シャルロットはいつもどおりこんな自分にも優しくしてくれた。問題は姉である千冬の方である。いつもは青年に対して冷たい態度を取る千冬が今回ばかりは優しかった。千冬本人には夢だと思えと言われたが、そう簡単に忘れることは出来ない。
「どちらにしても後でお礼言わなきゃな」
青年の人生は常に孤独と共にあった。千冬には蔑まされ、クラスメイトからは疎まれ、友達もおらず、唯一の話し相手と言えば兄であるいちかぐらいだった。ただ、それも千冬の前では口をきいてはいけないという暗黙の了解がある。だから青年はひとりぼっちでだった。
転機が訪れたのは数か月前に転校生が来たことであった。名前はシャルロット・デュノア。二人目の男性操縦者だという彼は青年と偶然にも同室になった。同性の友達が出来たというのでとても嬉しかったのを青年は今でも覚えている。シャルロットが実は女性でスパイであるとバレた時もシャルロットの思いを聞き青年は力を貸すと約束した。
それ以来、青年とシャルロットは親友になったのだ。
出会って短い間だが青年にとってシャルロットという存在は気軽に話し合える唯一の友人である。
(シャルロットには感謝してもしきれないな)
着替えながらシャルロットとの思い出を振り返った。
その後は食堂で食事を済ませ、教室に向かうのであった。
教室に行くとシャルロットと一夏が談笑している姿を見つける。自分も混ざろうと挨拶がてら近寄る。
「おはよう、兄さん、シャルロット」
「おっす、おはよう」
「………………」
挨拶を無視してシャルロットはその場から離れ自分の席へと帰ってしまう。
シャルロットの急な無視に、不信感を覚える青年。一夏も納得がいっていないようだった。
「なあ、シャルロットに何かしたのか?」
「え?さあ、昨日までは普通だったし心当たりは何も……、後でもう一度話しかけてみるよ」
その後HRが始まりそして、授業に入っていく。
その間も青年の心は落ち着かず、考えもどこか上の空であった。
自分がシャルロットに何かしてしまったのか?だが心当たりは一切ない……どうすれば。
授業に集中できないまま時間だけが過ぎていく。
気づくと授業終了のチャイムが鳴り響き現実に意識が戻ってくる。いつの間にか昼休みに入っていた。
青年は一目散にシャルロットの元へ向かう。理由は勿論、もう一度話して何故怒っているのかを聞くためだ。
シャルロットの席に近寄り話しかける。
「シャルロット、あの、良かったらお昼一緒に食べない」
「……食べない」
小さく呟かれた言葉に息を呑む。
やっぱり怒っているのか?いや、この感じは怒っているというよりも……
「シャルロット……僕が何かしたのなら謝る、けどなんで怒っているのかだけは教えてくれない?」
「……分かった。それなら僕についてきて」
「う、うん」
そう言ってシャルロットは青年を連れて教室から出ていく。
ここでは話にくい内容なのであろうか。
着いたのは誰もいない空き教室であった。
「話してもらえる?」
「僕は……僕は、君の友人だと思ったことなんて一度もない。初めて助けられた時や、タッグマッチで命がけで守ってきてくれたことも含めてね。ずっと利用してきただけ。もう君とは関わりたくないんだ。その方が君にとっても、そして僕にとっても良い判断だと断言できる。だからもう出来るだけ話しかけてくれないでもらえるかな?」
「そんなの……、僕はシャルロットのことが――――」
「僕は君のことが嫌いだよ。気持ち悪くて、何も出来ない、無力な存在それが君だ」
「………………」
「用がないなら僕はもう戻るから。じゃあね、出来損ないくん」
静かな空き教室には青年だけが立っていた。
友達だと思っていた。
仲間だと思っていた。
そして何より信頼していた。
それがたった一日で崩壊した
何も考えられない。考えたくもない。
いつの間にか足は自室の寮に向かって歩いていて、気づいたらベッドの中で丸くなっていた。
不思議と涙は出ない。たぶんこのような経験を幾度となく繰り返してきたからだろうか。
箒も鈴音もラウラもシャルロットも結局はみんな自分から離れていった。
もしかしたらこれが一生続くのだろうか?そう考えると生きる活力がなくなっていくのを感じる。
「シャルロットに拒絶されたらしいな」
声がする方に顔を向けるといつの間にか自分の部屋に千冬が立っていた。
図星を突かれたことに少しだけ動揺する姿を見せてしまった。
「姉さんには関係ないこと……」
「もう沢山なんじゃないのか?誰にも愛されることがない人生を送るそれがお前の運命なんだ。もう足搔くのはやめろ。ただ傷つくだけだ」
「そんなこと……そんなこと…………」
「だが安心しろ。お前が無能な弟であったとしても私は見捨てない。いくらお前を殴ろうとも、蹴ろうとも、締めようとも私は決してお前を見捨てない。約束する。」
「千冬姉さん……千冬お姉ちゃん!」
そう言って千冬に抱き着く。千冬は歪んだ顔でそれを受け止める。
(何をしてでも『あいつ』から『お前』を守って見せる。たとえそれが苦しめることだと分かっていても!)
思いを固める千冬に反して、シャルロットは胸が押しつぶされそうだった
シャルロットは苦しんでいた。
人を拒絶するということの罪悪感に。
しかも相手は自分の恩人であるのだ。胸が締め付けられるように痛む。
それでもしなければならないことだ。
彼のために。
(これが彼にとって最善の選択、彼を天災なんかにはさせない。そのためなら僕は何だって)
彼は結局、だれにも理解されない人生を送る。
皮肉にも彼は、周囲の人間が自分のことを理解していたことを終ぞ知ることはなかった
エンディングBは書くかわかんないです