彼女の瞳を曇らせたい 作:Momochoco
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・オリ主の名前は「青年」で通す
・オリ主は千冬に拾われた実験体
・テーマはツンデレ
千冬に死ぬほど嫌われている話 Part1
人間には一年に一度特別な日というものが存在する。
誰にでも訪れるもの、そう誕生日のことである。子供達には嬉しい、そして大人たちは加齢の悲しみにくれるそんな特別な日。
そしてここ日本にあるIS学園でもある一人の女性が誕生日を迎えようとしていた。彼女の名前は織斑千冬。IS学園の教師であり、最強のIS操縦者である。そして祝おうとしているのは千冬の二人の弟。現在、教室で飾りつけしている兄の「一夏」と調理室でケーキを焼いている弟の「青年」の二人である。
他にも複数の生徒が教室の一室を貸し切ってサプライズパーティーの準備をしている。
それほどまでに織斑千冬という人物の影響と人気はすさまじいものであった。
そんなお祭り騒ぎともいえる状況の中で暗い顔をしている者がいた。調理室でエプロンをつけて姉千冬に送るためのケーキを作っている「青年」の方であった。
そこに別の料理を作っていたシャルロット・デュノアが心配そうな声で話しかけてくる。
「浮かない顔をしてどうかしたの?やっぱり織斑先生のことが心配?」
「……そうだね。僕は一夏兄さんと違って姉さんに嫌われているから……」
シャルロットの言葉につい手が止まってしまう青年。
そう弟である「青年」と姉である千冬の間には決して埋まることのない溝のようなものが出来ているのである。
まず第一に「青年」は千冬とは血の一滴も繋がってはいなかった。詳しいことについては知らない、というか教えてもらえない。物心ついた時から自分の面倒を見てくれているから姉と呼んではいる。ただ、見た目が似ている一夏と千冬と違い、青年だけは明らかに見た目が違うことから血のつながりはないと踏んでいた。
そのためか、ことあるごとに千冬は一夏のことばかりを可愛がっており、青年に対して辛辣な態度を通している。
「どうして織斑先生はキミにだけ辛くあたるんだろう?姉弟なんだからもっと仲良くすればいいのに……」
そう言うシャルロットの顔は影があり寂しそうであった。シャルロットも家族との関係でで少し拗れているところがある。そのせいか青年と千冬の不仲を何とかしてあげたいと思ったのかもしれない。
「僕も本当はもっと仲良くしたいんだけど、僕は千冬姉さんや一夏兄さんみたく要領もよくないし、体も強い方じゃないから……。だから、きっと見限られているんじゃないかな?」
青年は自分で言っていて悲しくなったのか少しだけ目から涙が零れた。
青年は決して勉強ができないわけでも、運動音痴という訳でもない。ただ天才の千冬と、才能持ちの一夏と比べた際にはどうしても見劣りしてしまうのも事実である。
そして物心ついた時からずっと比べられていたことで心には深い傷がついていた。
シャルロットは必死に青年を励ます。
「……そんなことないよ!キミが頑張っているのは僕だけじゃなく皆が見てる!それなのに織斑先生は酷い事ばかりする!」
「落ち着いてシャルロット……僕なら大丈夫だから……」
再びケーキの作成に取り掛かる二人の表情は暗かった。
そんな辛気臭い場所となった調理室に飾りつけに一段落着いた織斑一夏が様子を見に来た。
「よっ!進んでるか?」
「一夏兄さん……うん、ほとんど出来てるよ、あとは盛り付けるだけ」
「一夏も折角来たんだから手伝ってね」
「よし!じゃあ、一気に終わらせるか!」
三人は談笑しながら盛り付けていく。
織斑一夏は千冬と違い青年のことを決して差別するようなことはしない。いつだって可愛げのある弟で大切な家族だと思っているからだ。だからこそ千冬の青年に対する横暴な行為や態度には我慢がならなかった。だがいくら止めさせようとしても……
『一夏、お前が気にするようなことじゃない』
『こいつの出来が悪いのがいけないんだ』
『こいつみたいなのが弟だというだけで虫唾が走る』
など毎日のように暴言と暴力を浴びせるばかりだった。一度、一夏が本気で怒った時もあったがそこは家庭を一人で支えている千冬。逆らったところで意見が通るはずもない。
一夏にできるのは千冬と青年を出来るだけ遠ざけることだけだった。
「なあ、今日の千冬姉の誕生日会……お前はどうする?」
「僕がいたらきっと空気を悪くしてしまうから、部屋で待ってるよ」
「そうか……」
「そんな顔しないで一夏兄さん。それと、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「あ、ああ。俺にできる事なら手伝うよ」
「きっと僕が作ったって言ったら、千冬姉さんに受け取ってもらえないから……。だから僕の代わりにこのケーキを渡してもらえないかな?」
そう言って小さな箱に入ったワンピースのショートケーキが慎ましく入っていた。
一夏は兄として情けない気持ちになった。弟と姉の不仲すら取り持つことのできない自分が恥ずかしく悲しかったのだ。
「わかった。約束する、必ず渡す」
「うん、よろしくね」
青年の姉に対する気持ちは報われるのだろうか。
◆
千冬の誕生日会は盛大に行われていた。
今日だけは皆が羽目を外していた。無論、千冬の受け持つ1-A組の生徒は一人を除き全員参加していた。
その一人、「青年」は一人ベッドの中でうずくまっていた。
目からとどまることを知らないほどに涙が溢れ枕を湿らせていく。口からは嗚咽が漏れ出ていて一目で泣いていることがわかる姿であった。
(うっ……うう……どうして僕ばかり……)
青年はずっっと寂しかった。ずっと、ずっと……
そんな泣き声だけが聞こえる部屋に突如インターホンの音が鳴り響く。
青年は慌てて涙をぬぐい扉に出ると、そこには今はパーティーに参加しているはずの織斑千冬が立っていたのだ。
「な、なんで……」
「何でだと?お前だろ私に一夏を通してこの『生ごみ』を渡したのは」
千冬に食べてもらいたい一心で作ったケーキを生ごみ呼ばわりされた。その事実はナイーブな状態になっていた青年に更なるストレスを与えることになる。
千冬の顔は苛立ちを全く隠そうともしない。
「お前が作ったものを私が食べるわけないだろ?何度、同じことをすれば気が済むんだ出来損ないが……」
青年はこれまでも千冬に感謝を示すために沢山のことをしてきた。だがそのすべてが今回のように拒絶され、否定され、打ちのめされていった。
再び泣き始める青年に追い打ちをかけるように千冬は箱からケーキを取り出し床にぶちまける。そしてその上をヒールで踏みグチャグチャの残飯、本当の生ごみに変えてしまった。
「お前みたいな屑の作る物はこうするのが一番似合う」
「……何で、何で、こんなことを!!」
「分かってないようだから教えてやる。お前は誰のおかげでここまで来た?誰のおかげで生きて普通の生活が出来ている?すべて私のおかげだよな?出来損ないのお前を養ってくれる奴は私以外にいないんだ。だから立場を弁えろ。お前はずっと私の醜い弟だということをな」
「……うう……クソっ!」
そう言って青年は部屋を飛び出していく。行く当てはない。ただ千冬の前から消えてなくなりたかったのだ
そして青年の部屋には生ごみと化したケーキと千冬だけが残されていた。
残された千冬はグチャグチャになったケーキを指ですくい口元に運ぶ。
甘くておいしいクリームの味とスポンジのふわふわの触感が口の中に残る。
(あいつにしては上手に作ったじゃないか……ふふ……それにしてもあいつの泣き顔。何度見ても素晴らしいな。濡れていくのを感じる。あいつの怒った顔も悲しんだ顔も全ては私の物だ……。誰にも渡さない。だから縛り付けて、牙を抜いておかなければ。私以外に頼る物がなく、一人ではなにも出来ないような男にさせるためにな)
千冬は弟の青年を愛していた。それこそ憎らしく独占したいほどに。
そしていつか千冬の与えるものが鞭から飴に変わった時、青年は一体どうなってしまうのだろうか?
ここからどうやってハッピーエンドに持っていくか……