第十話:回復術士は帰還する
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世界会議が終わった。
いくつか会議の流れは想定していたが、その中でも一番成果がでかいものになった。
「バカなやつだ」
聖帝にもう少し理性があり、かしこければここまでコケにされることも権力を失うこともなかっただろうに。
俺が司会をするようになってからは順調に会議は進んだ。
俺が提案した魔族と人間の和平はつつがなく結ばれる……そう思わせるだけの手応えがあった。
会議終了後、俺たちは速やかにあの国から出た。
こんな胸糞悪い国、長居するつもりはない。
馬車で揺られながら、今後のプランについてエレンが説明している。
「以上です。おそらく、聖帝は名誉回復と権力の奪還をするため、ファラン教を国教にしている国々に働きかけるはずです。事前に芽を潰すことは不可能です。宗教は理屈ではなく感情ですから」
「それならそれで構わないさ。大義名分はこちらにある。反乱を起こせば叩き潰してやればいい……それに、ふと思ったんだがな、宗教というのは便利だ。俺たちで宗教を作らないか? 幸い、こちらには本物の神様がいる」
膝の上で自分の尻尾を枕にして眠る、通称きつ寝を続けているグレンを撫でる。
こう見えて、こいつは正真正銘の神獣だ。
「それはいいの。愚民どもがグレンを敬うの! そしたら、肉をたっぷり献上させるの。毎日美味しいお肉……じゅるり。やってあげるの。神獣の奇跡ははんぱないの」
肉の匂いを嗅ぎつけて、小ぎつねが起きた。
肉の山を思い浮かべて尻尾をぶんぶんと振る。
「神獣の奇跡って何をする気だ? おまえが見せた神獣らしい力は【浄化】以外記憶にないんだが。すごい力だが民にありがたがれる類のものじゃない」
「【浄化】はべつにくっさいのを焼くだけじゃないの、悪い運気だとか、病気とか、怨霊とか、全部焼けるの! グレンに焼いてもらうと、肩こりしなくなったり、体が軽くなったり、運が良くなったりするの」
地味ではあるが、悪くはない。
「そんな力があるのなら、俺たちに使ってくれても良かったんじゃないか?」
「とっくにご主人さまたちには使ってるの!」
意外だ。
マイペースなグレンがそんな気配りをするなんて。
「べっ、別にご主人さまたちのためじゃないの! お肉のためだし、グレンのお世話をしてもらえないと困るから元気でいてほしいの!」
ツンデレのように見えて紛れもない本心だろう。
エレンたちが顔を見合わせる。
「そう言われてみればそんな気が。私って基本運がわるいのに最近はそういう実感がないです。いつも、いくつか未来を想定するのですが、割とましな想定が選ばれている気がします」
「セツナも言われてみれば肩が軽くなった気がする」
「私は実感がないですね」
「フレイアの場合は細かいことを気にしてないからよ。調子が良い気はずっとしてたわ」
俺自身、思うことがある。
たしかに運がいいと感じる事が多い。
「そういう力があるなら、ファラン教なんて一蹴できるな。向こうの偽物と違って、本物の奇跡だ」
「ですね。ちゃんとした筋書きと仕込みがあれば、いくらでもやりようがあります。っていうか、もともとケアルガ兄様のとんでも【
「ご主人さまとグレンの力で、奇跡の大安売りなの!」
想像してみたら、笑えてきた。
あっという間に俺たちの作り上げた宗教は広まりそうだ。
英雄と神獣の求心力は、作り物の神を凌駕する。
さきほども言った通り、宗教というのは民の心をまとめあげ、操るのに非常に便利であり、面白おかしく世界を演出できる。
……やりようによっては、自国の民だけでなく他国の民すら操り人形に変えてしまえるのだ。
「エレン、任せていいか?」
「はい、シナリオと仕込み、どちらもお任せください。私たちに都合がいい思想をたっぷり盛り込んだ教義を作っておきますね」
エレンが作るのだから、えげつなくないものができるだろう。
表面上はとても綺麗で、その実、巧妙にやばいのが盛り込まれている。エレンの得意分野だ。
「これで俺たちの国がより盤石になるな」
「英雄の国というだけだと、弱いと思っていたところです。人というのは恩はすぐに忘れるようにできているんですよ。自分が受けた仕打ちとか恨みとかは、生命を守るために必須でなかなか忘れないんですが、恩なんて覚えていてもあんまり役に立たないのであっさり忘れちゃいます」
相変わらずエレンの言葉はドライだ。
しかし、それは間違ってはいない。
人間の本能的な部分でそうなっている。
だからこそ、恩を忘れない人間というのは大事にしたい。本能じゃなく、心で生きている人間だ。
「ぐふふふ、グレンもいっぱい協力するから良きに計らうの。毎日、たくさんのお肉、お肉風呂に飛び込むの!」
「……それは臭くなりそうだからやめとけ」
生臭坊主とは比喩表現で言われるが、比喩抜きでそうなってしまう。
「それはそれとして、イヴはこっちに来て良かったのか?」
この馬車には、こちらに来たときにはいないメンバーが増えていた。
そう、一躍時の人となった魔王イヴ・リース。
俺の恋人だ。
魔族領域からやってきた一団と別れて俺たちと合流している。
「あと二日ぐらいは大丈夫だよ。もともと人間との交渉にそれぐらい使うって予定だったんだ。……それに、星兎族のキャロルとラピスが留守を守ってくれてるしね。あの二人、私よりうまくやってくれてるよ」
「有能だが、頼りすぎるのはよくない」
「こんなときぐらいいいじゃん。いつもすっごく頑張ってるし」
かつて、星兎族の長であるキャロルは旧魔王と通じ、俺たちを裏切っていた。
娘のラピスが侵された病、その進行を抑える薬を得るために。
しかし、俺がラピスを救い、ラピスの病は旧魔王陣営が仕込んだものだとわかると、旧魔王の内通者という立場を利用して勝利に貢献してくれた。
そして、それが終わったあとは裏切りの罪を償うべく処刑された。
……表向きには。
真実は違う、キャロルの影武者を俺が【
理由はいくつかある。一つ、旧魔王に弄ばれ、復讐心に燃えていた彼にシンパシーを感じていた。二つ、ラピスは俺の可愛い愛人だ。あの子を喜ばせたかった。三つ、極めて優秀な男で使い道がある。
魔族領域で実質的に政を行っているのは、かつて迫害されていた種族の長たち。政治に疎いイヴは飾り物に成り下がり、良いように操られる危険性があった。
各種族の長たちは悪人ではないが自らの種族を第一に考える。
イヴの属する黒翼族の数は少なく、政治ができるものは生き残っていない。
だからこそ、権力を持つ種族に属さない優秀なものがイヴの補佐に必要だった。
キャロルは俺の【
それに気を利かせて、イヴの教師役まで行ってくれていた。
ラピスがイヴの従者となり、彼女をメンタル面で支えてくれているのも大きい。
あの親子の力があるからこそ、イヴは形だけではなく、正しい魔王として君臨できているのだ。
「ラピスもすっごく来たがってたんだけどね。ケアルガに惚れてる一人だし」
「俺も会いたかったよ。……いや、なんで居ないんだ? あの子はただの従者じゃなく護衛も兼ねていたはずだろう」
星兎の脚力、瞬発力、するどい聴覚は戦闘において極めて強力。
しかも病が回復したラピスはその天才性を発揮し始めた。おそらく魔族領域で十指に入る実力者だ。
「ラピスは私の影武者もしてるからね。変装したラピスがにこにこ笑って、横でキャロルがいい感じにしてるとばれないんだよね」
「……確かに背格好は似ているな」
特徴的な兎耳と黒い翼は隠したり、作り物でなんとかなったりする気はする。
「ふふん、私だってうまくやっているんだからね」
たしかに、イヴが動きやすいのはいいが、それは裏返せば、いつでもキャロルとラピスが玉座を奪えるということに気付いているだろうか?
もっとも、今のイヴは圧倒的に強い。殺すことはできないだろうし、魔王権限である絶対遵守の命令という最強のカードをイヴは持っている。
にこにこと笑って、俺たちを見ていたエレンが口を開いた。
「まあ、ちょうど良かったです。和平の調印、イヴさんにいろいろと話しておきたかったですし。キャロルさんからは、だいぶ政治のことわかるようになってきたと聞いているので手加減しませんよ」
「うっ、その、がんばる。でも、意思決定はしないよ。持ち帰ってキャロルと相談させて」
「その返事ができるだけでも成長しましたね。自分で返事をするのはまずいとわかるのは進歩です。……キャロルさんとは一度じっくり話したいんですよね。いろいろと面白い話ができそうです」
エレンが褒めるあたり、キャロルは相当だ。
何はともあれ。
「よく来たイヴ。またあえてうれしい。そうだな、こっちはなんとかなりそうだし、イヴが戻るときに俺も魔族領域に行こう。久々に黒騎士として振る舞うのも楽しそうだ」
「うん、歓迎する!」
「それから、今度から俺のことはケアルって呼べ。それが本当の名前だ」
「わかったよ。でも、言い間違えたらごめんね!」
「言い間違える度にエッチなお仕置きをしてやる」
俺がそう言った瞬間、イヴ以外の女たちもぴくりと反応した。
……一部の連中はエッチなお仕置きしてほしさにわざと間違える気かもしれない。
馬車は走る。
今の所、すべてが思い通りになっている。
人間の世界も、魔族世界も、俺の支配が進んでいく。
もうこの流れ、俺ですら止められない。それなら、この調子でよりよい未来を作っていくとしようか。
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