■他人の風に身も心も寒く
昔、夏のオフィスは寒かった。省エネなど言わない時代だから、会議室はがんがんに冷房が効いている。スーツを着込んだ男性陣は当然という顔をしていたが、涼やかな半袖スーツなどを着て行こうものなら、会議が終わるころには“冷凍マグロ”になっていた。
昨今は男性もクールビズ。冷房温度は高めに設定されているから、こんな難行苦行はなくなった……と思っていたらそうでもないらしい。「このままでは病気になりそう」。近くの会社に勤める友人が、忍耐の限界という顔でやってきた。原因は隣の席の男性が持ち込んでいる簡易型の扇風機だという。
彼はかなりの暑がりらしく、職場に着くなり扇風機を回す。それも簡易型とは思えない力強さ。その風が直接吹き付ける。それとなく言ってみたが、今のところ効果はない。「暑いのはわかるし文句も言いたくないけれど、1日風に当たっている身にもなってほしい」。長袖を着込んだ彼女は、寒そうに話す。
そういえば私も夫が寝入ったころを見計らい、そっと冷房を切っている。夫が夜中に窓を開けているのは知っているけれど、冷風の直撃はやっぱりイヤ。
■暑さ対策じゃなかったの?
エアコンの設定温度は28度。夕方に電源を切るのは当然。節電の夏も3年目になると、オフィスが暑くても誰も文句は言わない。
でも、同僚の女性たちを見ているとなんだか不公平な感じがする。肩を出したワンピースや、ひらひらのスカート。とても涼しげでうらやましい。男は半袖、ノーネクタイが限界。うちの会社でハーフパンツをはこうものなら、次の日に机がなくなっているだろう。
その代わりというわけではないが、僕は机に小型扇風機を置いている。パソコンにつないで電源を得るタイプで、節電に悪影響はなさそう。意外と風が強いので気に入っている。
ところが周りの女性からは冷たい視線。「風が当たって寒いのよ」と言いたげだ。薄着なのに寒がりなんて難しい人たちだ。それに女性にも扇風機を用意している人はいる。目的は暑さ対策だけでなく、汗まみれの男たちがふりまく嫌な臭いを吹き飛ばすためだとか。失礼な話だ。
風呂上がりに扇風機を「強」にして涼んでいると、妻に「私に向けないで」と叱られた。「くさい」と風を向けられるよりはまし。静かにスイッチを切った。