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【社会】

重要な憲法裁判記録 規定では保存義務づけ

<解説> 戦後日本社会のルールを作ってきた民事憲法訴訟の記録が多数、廃棄されていた。判決文は残されていても、その結論がどう導かれたのか、当事者たちの訴えを裁判所は正しく受け止めたか検証するには、審理過程の記録が不可欠だ。それが永遠に失われた。損失はあまりに大きい。

 こうした記録は米国などでは永久保存される。日本でも裁判所自身が作った規定が、重要な憲法判断や判例、世相を反映したり社会の耳目を集めたりした裁判など「史料または参考資料となるべき記録」は保存するよう義務づける。

 にもかかわらず、日本を代表する憲法判例集に掲載された裁判の八割以上で記録が捨てられていた。廃棄が適切だったかという共同通信の質問に、最高裁は「各裁判所の判断」として回答を避けたが、見解を示すべきだ。

 最高裁は同時に、学術研究者の保存要望が少なかったことを挙げている。裁判記録の保存や活用への関心が希薄なことは背景にあろう。ただ裁判所の保存への責任から話をそらすようにも聞こえる。一方、文書保存を求める「社会の変化」を踏まえるとも述べた。保存重視にかじを切ることを期待させる。

 憲法裁判は市民が政府や大企業を相手に起こし、市民の基本的権利を決めていく裁判だ。男女平等、人間らしい労働条件、平和、表現の自由などを求め、原告らが勇気を奮って訴えた内容が、裁判記録に刻まれる。記録を捨てることは、この人々の声を捨てることでもある。 (共同・沢康臣)

 

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