社説クールに矛を収めよ 週のはじめに考える日韓関係が最悪期を迎えています。国内総生産(GDP)が世界三位と十二位の対立に各国は困惑気味です。不毛な争いの終わり方を考えてみました。 一九九九年、米国を軸とする北大西洋条約機構(NATO)軍は旧ユーゴスラビアを空爆しました。その時、取材で約二カ月間首都ベオグラードに滞在しました。 空爆で多くの人が死傷し官公庁や工場が破壊されました。市民の反米感情は高まる一方でした。 ある日、怒った若者たちが米国系ハンバーガーショップなどを襲撃。一部の店の窓ガラスは割れテーブルや椅子がひっくり返り惨たんたるありさまでした。 無意味な不買運動ところが数日後、営業を再開した店もありました。ただ看板をよく見ると、「M」と「c」の間に「e」が加えられ、「メック」になっていました。 ユーゴ人の助手は「ハンバーガーの味が恋しくて我慢できなくなった若者側から、店に開けてくれと頼んだらしい。反米感情に配慮して名前を少し変えたのだろう」と苦笑気味に説明してくれた。 今、韓国内で日本製品の不買運動が一部で起きています。市民グループが日本企業のロゴが入った箱を踏み付けたり、観光をやめるよう呼び掛けています。 正直、無意味な行動と思います。消費の原点ともいえる経済合理性に反するからです。同じ値段でも韓国製より日本製の方が質が良ければ韓国の消費者は一時的に離れても結局は戻ります。それはどの国の消費者も同じです。 関係が悪くなっても防弾少年団やシャイニー、東方神起などK-POPグループの音源は日本で売れます。エンターテインメントとして質が高いからです。 今回の対立劇を通じ改めて分かったことがある。それは両国の経済関係が根深いことです。 断ち切れない関係財務省などの統計によると、二〇一八年、日本にとって韓国は輸出先として中国、米国に次いで三位。韓国側からみると輸入先として日本は中国に次いで二位(一七年)です。一九九八年に二百六十七万人だった両国の往来者数は昨年一千万人を突破しました。断ち切れるレベルではありません。 輸出規制について「急所を突いた」との指摘があります。それは「概(おおむ)ねその通り」と言えます。 韓国はGDPの四割近くを輸出に頼る。さらに輸出の二割程度を半導体が占めています。その半導体の製造に欠かせない製品に規制がかかったので韓国側はパニック気味になっているのです。 韓国企業は半導体のほか自動車や電化製品を世界中で生産・販売しています。ただ製品の部品や製造装置、素材の多くを日本から輸入しています。消費者の目に触れにくい貿易の姿です。 韓国は看板品が日本に依存している現実を目の当たりにしてショックを受けました。日本からみれば最も効果的な部分を鋭く突いたクールな戦略ともいえます。 韓国の金融分野の現状についても指摘せねばなりません。米中摩擦の激化など経済的な問題が起きた際、リスク回避のため円は買われます。一方、ウォンが買われるケースはほぼないでしょう。それは両通貨の信用の差を如実に表しています。 輸出規制により韓国企業の生産力が落ちると、投機の動きが強まり急激なウォン安が起きる恐れがある。それは海外での資金調達を困難にし韓国経済に大きな打撃を与えかねません。韓国の人々の心にさらなる傷を負わせることになるでしょう。 貿易はお互いの産業の足りない部分を補う「ウィンウィン」の関係を築くことが理想です。相互にもうかると分かれば、感情的なしこりをある程度棚上げできるのも貿易の良いところです。 世界貿易機関(WTO)で日韓が輸出規制について訴えた際、各国は中立を保ちました。ただ中には植民地主義に苦しんだ国の代表もいたはずです。日本が「弱い者いじめをしている」と映った恐れも否定できません。その日本が米国に対しては腰砕けになるといういびつな現実も横たわります。 怒りは分かるものの新幹線の建設費には世界銀行の融資が入っていました。戦敗国日本の潜在能力に対し、米国などかつての敵国が投資という形で尊敬の念を表した証しでもあります。 「国際法や経済原則を軽視した韓国の振る舞いは目に余る」。こうした怒りも分かる。ただ経済の基盤分野で両国には依然差があり、これ以上追い詰めると不測の事態が起きかねません。 静かに矛を収め協議に応じるべきではないか。経済大国としてのクールな行動はより世界の尊敬を集めるはずです。 今、あなたにオススメ Recommended by PR情報 | |
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