別府署員が別府地区労働福祉会館の敷地内に無断で取り付けた隠しカメラ(左上)、同会館が設置した事件の経緯を伝える看板(左下)、県警が今年の参院選で立ち上げた選挙違反取締本部の看板(右)のコラージュ 別府署の隠しカメラ事件が表面化して3日で3年になった。2016年参院選の選挙違反捜査で起きた前代未聞の不祥事。秘匿撮影の捜査に関する具体的な基準は現在も作られておらず、大分県警が組織内部でビデオカメラ設置の妥当性を判断している実態は変わっていない。識者は「人権侵害を防ぐため、第三者機関がチェックできる仕組みが必要だ」と指摘している。 「今でも選挙違反の違法捜査といえば、大分県警の名前が挙がる」。今年の参院選の投開票が迫った7月中旬。50代の県警幹部は渋い表情を見せた。 全国の警察関係者が集まる会議で違法捜査の事例が紹介される際、不当な取り調べでえん罪を生んだ鹿児島県警の志布志事件(03年)と並び、隠しカメラ事件が取り上げられるという。 「それほどの過ちをしたということだ」。幹部は自戒を込めて語った。 事件の舞台となった別府地区労働福祉会館(別府市南荘園町)は、今回の参院選でも野党候補を支持する労組の選対事務所になった。 会館に入る連合大分東部地域協議会の矢須田士(ものぶ)事務局長は「今回の選挙で影響はなかったが…」と前置きした上で、「監視されていると思ったら選挙運動を控える人もいる。市民の自由が失われる社会にしてはいけない」と訴える。 県警は今もDVやストーカー、窃盗などの犯罪捜査でビデオカメラを活用している。機器の小型化、高画質化が年々進み、50代のベテラン捜査員は「昔は長時間、張り込みをしていたが、今はカメラを置けばいい。こんなに便利な道具はない」と語る。 刑事企画課によると、捜査用ビデオカメラはリースを合わせて211台を保有している。事件後、乱用を防ぐため、カメラを設置する場合は警察署と本部の主幹課が事前協議するよう義務付けた。 同課は「第三者の映り込みがないよう、慎重に使っている」。3カ月ごとに使用状況の報告を受ける岩本光生公安委員長(73)も「運用は適正」との見解だ。 一方、使用件数や具体的な事件内容は「捜査手法に関わる」(同課)として明らかにしない。依然、カメラ捜査の実態をうかがい知ることはできない。 県弁護士会刑事弁護センター所長の佐藤拓郎弁護士(41)は「県警自身が使用基準を判断しており、適正な手続きを踏んでいるか(国民は)確認できない。裁判所などが捜査手法を事前、事後に検証できる仕組みを設ける必要がある」と話している。