彼女の瞳を曇らせたい 作:Momochoco
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ただプロットの段階よりはかなりラウラに優しくなっています
部屋に戻ったラウラは制服が皴になるのもお構いなしにベッドに飛び込み布団の中に潜り込む。ラウラは千冬の言いつけ通り少し寝ることにしたのだった。さっきまでの絶望に染まった心はなくなり、今は穏やかそのものである。
ラウラは目を瞑り、意識を無意識の中へゆっくりと沈めていく。本来であれば今の時間はISの実習訓練であろうか。いつもは見学する青年に付き添う形で自分も見学ばかりしていた。だから最近はISに乗っていなかったなとぼんやりと考える。
そんなどうでもいいことにですら自分の黒い部分が出てくる
(私がいなくてもあいつは大丈夫だろうか……いや、シャルロットや織斑一夏もいるから問題はないとは思う…………だけど、だけど、どうして私の心はそれを受け入れられないんだ!他の奴が彼の手助けをすると考えただけで胸が痛くなる!……彼の足が治る前に、いずれこの気持ちとの決着をつけないとな……)
そしてラウラは心に闇を抱えたまま眠りについていく。
ラウラは夢を見ていた。
青年が歩けるようになり元の生活に戻る。
一夏とも仲直りすることが出来た。
そして自分の周りにも青年や千冬、鈴にセシリア、シャルロットがいてくれる
平和な毎日がいつまでも続く。
そんな充ち足りた夢であった。
だがそんな幸せな夢な筈なのにラウラ自身はどこか不服な思いがあった。
青年がどこかに行ってしまいそうな感覚に襲われたのである。自分の元から青年が去っていくと考えるだけでこれらの夢が悪夢へと変わっていく。
自分は青年から見返りなど望んでいなかった。それなのにいつの間にか気づかないうちにそれを望んでしまっている自分がいた。自己嫌悪に陥るラウラ。
夢とは一種の自己願望の投影であると言われている。
自らの心の歪みである嫉妬や欲望に思いがけぬ形で向かい合ってしまったのであった。
今まではラウラが事件を起こしてからほとんどまともな睡眠を取っていなかったため、夢を見ることがなかったから気づかなかったのかもしれない。
(あいつの足が治ってしまえば私は用無しになってしまうのか?……今までは私自身があいつの足となって一生を送ることだけを考えていた……だけど、罪を償い終わった私に何が残る?落ちこぼれの人形で、戦うことすらからも逃げた私に何が……)
幸福な夢は消え果て真っ暗な何もない世界に変貌する。
あるのは自分一人と誰も座っていない車いすが一つ。
いくら隠そうとも隠し切れない。欺こうとしても本心を変えることはできない。
つまりはラウラは……
(望んでいるのか?私はあいつの足が治らないことを……違う……違う!)
「私は違う!!」
叫び声と共に体を起こす。体からは汗が白い肌を流れ滴り落ち、頭は寝起きだというのに酷く覚醒していた。
困惑の色を隠せないラウラに部屋にいた同居人が心配して駆け寄る。
「大丈夫ラウラ!?すごい汗……待ってて!今、水持ってくるから!」
「はぁ、はぁ……夢だったのか?」
所詮は夢、されど夢。ラウラは自分の本当の望みを自覚してしまったことからは決して逃げることはできない。自分の顔を隠すようにベッドの上で足を抱えて体育座りの体勢を取る。
そんなラウラにミネラルウォーターを持ってきたシャルロットは優しく差し出す。
「飲んで」
「……ああ」
冷たい水を取り込んだことで汗が一気に引いていくような感じがした。
冷静になった頭で考える。自分がどうすべきか分からなくなってきたのだ。青年を助ける自分以外の者に嫉妬し、青年が自分を必要としなくなることに恐怖している。認めることは出来ないと思っていても実際には考えてしまう。
そんな思い悩むラウラを心配したシャルロットが声を掛ける。
「何か悩みがあるなら僕聞くよ?出来る事であれば力になりたいとも思っているから……」
「どうして……どうしてお前は私なんかにそんなに優しいんだ……。私は出来損ないのクローンでお前たちにも酷いことをしたというのに……それなのに……」
「友達だからだよ。僕だって決して人に誇れる生まれじゃない。それでも偶然IS学園に来れて彼や一夏に出会って、デュノア社と一応だけどケジメをつけることができた。ラウラも過去に囚われないで。前に進んでほしい。そして僕も君の手助けをしたいんだ!」
ラウラはその言葉に絆されていく。自分の醜い欲望をこのまま心の中にしまっておくことはできないと確信していた。シャルロットはこうした人の感情を読み、アドバイスを与えることが上手い。
もしかしたら話すことで何か変わるかもしれない。ラウラは全てを曝け出すことにした。ラウラは自分のベッドの横に座るとその隣にシャルロットを座らせる。
そしてポツリ、ポツリと話し始めるのだった
「実はあいつの足を治す方法が見つかったんだ」
「よかったじゃないか!」
「……だが、私は手放しには喜べないんだ。もしあいつが歩けるようになったら私はどうなってしまうんだろう、と考えてしまう。あいつにとっては私は足を奪った張本人だ。きっと役に立たず恨まれているだろうから見捨てられるに違いない。嫌なんだ、たとえ恨まれていようとも嫌われようとも側にいてあげたい。だけどそれは彼を不幸にしてしまうだけで…………こんな思いするくらいならあの時死んでいれば……」
「……そっか。他に悩んでいることはある?」
ラウラの言葉にシャルロット真剣な顔つきで答える。
何か考えがあるのか顎には手を当てていた。
「……他の奴があいつの世話をしているときに嫉妬のような感情を持ってしまう。……その、言いにくいがシャルロットお前や一夏にもだ。私は自分が恥ずかしい。あいつの世話で自分の欲求を充たして独占しようとまでしているのだからな。それに――――――」
それからもラウラの言葉は留まることを知らず口からどんどんと泥のように溢れていった。自分の卑下、自身の悪感情による自責の念、嫉妬深さ、今まで隠し通してきたものを全てシャルロットにぶちまけてしまっていた。
全てを聞いたシャルロットは目を開けラウラの言葉に答える。
そしてラウラの悩みから気づいたことを口に出す。
「ラウラの思いは分かったよ。だから僕も思っていることを話すことにする。きっとラウラはいつの間にか自分が罰せられることに依存していたんじゃないかな?」
「……依存?」
「うん。彼といるだけで自分が苦しんでしまい罰になる。だから自分への罰を奪われた時には嫉妬してしまったし、罰であることに変わりはないから受けるたびに自分がしたことの罪悪感に襲われてマイナス思考になりストレスになる。」
シャルロットの言葉がラウラの胸を打ち抜いていく。
「でも苦しみから自分の価値を見出すなんて間違っている。もしラウラが本当に健全な状態に戻りたいのであればその被虐依存のループから抜け出さないと」
「……私は一体どうすれば?」
「……わからない。でも後悔のない選択をする必要があると思う。たとえそれがどんな結果になろうともね」
「……そうか。相談に乗ってくれてありがとうシャルロット。お前は私の一番の親友だ。――――――あいつに治療法が見つかったことを伝えに行ってくる」
そう言って部屋を出ていくラウラをシャルロットは黙って見送ることにした。
シャルロットに出来ることはここまでだ。後はラウラの行動のみ。
最高の一日は終わりかけていた
まだエンディングについて悩んでるんですが二つぐらい書こうと思っています