彼女の瞳を曇らせたい   作:Momochoco
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残り4話ほどで終わるんですが、ちょっとバッドエンドにするか悩んでます



ラウラがオリ主を歩けなくさせた話 Part3

 食堂から出たラウラたちは廊下を並んで歩く。ラウラの胸の中は物理的にも心情的にもモヤモヤとしたものが残っていた。それも先程、食堂で青年がラウラを頼らずシャルロットを頼りにしたことが原因であった。

 

(さっきのことは聞いていない……聞いていない……。忘れろ、忘れるんだ!)

 

 考えを振り払おうとすればするほど思考は沼に落ちていく。その沼はまるで底がないかのように一度入れば抜け出せないほどに深かった。今のラウラはまさに溺れている真っ最中である。

 シャルロットもラウラのおかしさには気づいていたが敢えてそれを指摘するような真似はしない。それは彼女なりの優しさであり彼の前で気丈な振る舞いをしたいという気持ちを汲んでのことだった。だが今現在ラウラの悩みの種が自分であることまでは流石のシャルロットでも気づかなかった。

 

 悩む二人と歩けない一人はそのうちに目的地である自分たちの教室1-A組に到着する。入口の前に立つとラウラは小さく深呼吸をする。これからはいる教室にはラウラにとって味方ともいえる存在はほとんどいない。一度、入れば嫌悪の眼差しを向けられるからだ。

 

 食堂と同じように教室に入った瞬間は話声が一瞬止む。

 このクラスでラウラは今も浮いている存在であった。

 

 それも仕方ない事である。ラウラは転入初日に一夏に暴力を働き、その後も傍若無人な態度のままクラスメイトの鈴音とセシリアにケガを負わせ、最後には青年の足まで奪ったのだ。その印象は決して簡単には覆らない。

 ラウラ自身はこの程度で済んでよかったと思っている。IS学園内は基本的にいじめといったものはない。もっと実力行使、それこそ暴力や陰湿行為をされると思っていたラウラにとっては自分への腫物の扱いは優しく感じた。

 

 青年を席へ送るとラウラも自分の席に座る。

 青年の側からラウラが消えたことで教室にいた一夏が青年の元へ向かっていった。

 ラウラと一夏、二人は会話することがほとんどなかった。

 

 一夏とラウラの間には決定的な溝がある。初めての出会いもそうだが、一夏は一番の親友である青年をラウラが殺しかけたことをいまだに許せないでいる。ラウラもラウラで一夏に対しては形上は謝ったものの許してもらえていないことが分かっているからだ。

 青年と一夏は男同士で幼馴染である。だからこそ気を許して談笑して笑いあうことが出来る。楽しそうに笑いあう二人を見るとラウラは嬉しさと寂しさを感じていた。

 

 それは自分には向けてくれない顔を一夏には向けていることだった。もちろん性別の違いもあるし、付き合いの長さも違う。それでもその笑顔を自分にも向けて欲しいと願うのは罪人である自分が思ってはいけないことだと戒める。

 

(私は求めちゃいけないんだ……彼の笑顔を……)

 

 ラウラは急に心が悲しくそして冷たくなっていくのを感じる。

 一番欲しいものが手に入らなことに、そして望むことすら許されないことが辛いのだ。

 

(ダメだな……こんなことで落ち込んでいたら……)

 

 自分の机にうっつぷす様にして顔を下げるラウラ。

 そんなラウラの変化に気付いたのか二人の生徒が話けてくる。

 

「なーに、しょぼくれてんのよ!ラウラ!」

「ラウラさん、どこか調子でも崩しているのですか?」

 

 顔を上げるとそこには友人とまではいかなくても自分のことを気遣ってくれる二人。イギリス代表候補生セシリアと中国代表候補性鈴音の二人がいた。

 

 ふたりとは少し前までは今の一夏との関係のようにギクシャクしたものだった。だがラウラが正直に謝りそして自らの行いに対しての贖罪を続けて行くうちにこうして話しかけてもらえるほどまで関係は修復していた。

 

「鈴音にセシリアか……。実は少し寝不足でな……あ!このことはあいつには言わないでもらえるか?」

 

「あんたって奴は本当に……わかったわ黙っててあげる。でも隠すならならもう少し上手くメイクしなさい!あとで教えてあげるから、わかった?」

 

「その時にはぜひ私も参加させてください。鈴さんだけでは心配ですので」

 

「あんたねえ……私のどこが心配だってのよ!」

 

 そうした友人二人の話を聞いていると自然と笑みがこぼれる。

 シャルロットもそうだが失敗作の罪人である自分にこんないい友達が出来るなんて……。今まででは考えられないことであった。今だけは悩みによる頭痛が少し和らいだ。

 

「ふふ、ありがとう鈴にセシリア。それじゃあ後で教わろうか」

 

「あんたはそうして暗い顔しているより、笑っている方が似合ってるし可愛いんだから。悩みがあるんだったら正直に話してよね!」

 

「鈴さんの言う通りですわ。私たちは彼の友達であると同時にラウラさんの友達だとも思っていますから。気軽に話してくださいね!」

 

 その言葉でラウラの胸の中のモヤモヤはどこかへ消えて行ったような感じがした。そしてその代わりに暖かいものが胸の中に溢れてくる。これがきっと思いやりというものだろう、とラウラは確信した。

 

 その後に始業のチャイムがなり皆席についてSHRが始まるのを待つ。

 入ってきたのは副担任の山田真耶であった。

 

「はい、それではSHRを始めます」

 

 その後はこれからの予定などを説明するSHRの時間に入る。

 少し元気が出たラウラはボーっと窓から外を眺めている。友人であるセシリアと鈴音の言葉が思っていた以上にラウラを元気づけたのだった。

 元気が出たのは確かだがそれとは別にラウラは気になっていることが一つあった。それは食堂の一件もそうだが、朝の廊下で青年に向かって大声を出してしまったことについてだ。青年が他の人を頼ろうとすると怒りのような悲しみのような感覚に陥ってしまう。それが不思議で仕方なかったのだ。

 

(あの感情はいったいなんなのだろうか……)

 

 ラウラの本当の気持ちはいまだ解明されていない。

 

 そうこうしているうちにSHRも終わり座学に入ろうとした瞬間、山田先生がラウラを呼ぶ。

 

「すいませんがボーデヴィッヒさんには織斑先生から至急、第二保健室に来るようにとの連絡を受けています。出来るだけ早く向かってくださいね!」

「わかりました」

 

 ラウラは考える。どうして自分だけ呼ばれたのか……

 

(遂にドイツから見限られたか……、それとも私の処分が決まったか……、どちらにしろ碌な内容ではないだろうな。本当はずっとあいつの世話をするのが贖罪だと思っていたがどうやらそれすらも出来ないらしい……)

 

 ラウラは暗い表情で千冬の待つ第二保健室へと歩き始めた。

 千冬のラウラへの話とは一体どういったものなのだろうか?

 



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