彼女の瞳を曇らせたい   作:Momochoco
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ちょっとボロボロにしすぎたかも





ラウラがオリ主を歩けなくさせた話 Part2

(本当に醜くくてどうしようもないな私は……)

 

 ラウラの顔が少し暗くなるが前を向いて座っている青年には見えない。ラウラは青年の好意を歪んだ形でしか受け取ることが出来なくなっていた。褒められれば自らを戒め、感謝されても自らの罪がそれを阻害する。結局ラウラにとっては青年の一挙手一投足全てが自らを締め上げる鎖になってしまっていた。

 

「それでボーデヴィッヒさんは何頼む?」

「……えっ?。す、すまない。もう一度言ってくれないか?」

「朝ご飯の話なんだけど……」

 

 ラウラはあまりに考え込むあまり青年の話が耳に入って来なかった。普段のラウラならこんなことはないが最近は不眠が続いてどうしても集中できないことが多くなっていた。

 青年はラウラに足を止めるよう促し後ろを向く。

 

「……ボーデヴィッヒさん大丈夫?少し疲れてない?」

「そんなこと……」

 

 ラウラは思ってもいなかった言葉に動揺する。自分の不調は最も知られたくないことの一つであった。バレれば確実にいらない世話をかけてしまう。自分がいくら苦しもうと構わなかったが青年を不安にさせることだけはしたくなかった。

 ラウラは本心を欺き必死に取り繕う。

 

「問題ない。今日も私の調子はすこぶるいいぞ!」

 

 嘘だ。ラウラが無理をしていることは誰の目にも明らかであった。青年もいくらラウラが隠そうとそれくらいのことは感じ取れる。

 

「あのさ、もし体調が優れないようだったら休んでても良いんだよ?最近は車いすでの生活にも慣れてきたし、一人でも大丈夫だから。それにもしもの時には一夏君だっている。だからボーデヴィッヒさんも無理しないで―――「ダメだ!」」

 

 突如、青年の言葉を遮るように大声を出すラウラ。

 

「ダメだ!そんなこと!……ダメなんだ。私がお前の足を奪ってしまったから……だから、私だけがお前の代わりに働かないといけないんだ!お前は私だけを使ってくれればいい!私だけがお前の足になる!だから他の奴なんかを頼るな!」

 

 段々と早口に、それでいて声の調子が上がっていく。自分でも何をしゃべっているのか、何で自分がこんなことを言っているのか分からなかった。ただ自分以外の存在が彼を助ける状況を考えただけで胸が余計に苦しくなる。そんな光景を見るくらいなら体調不良を押してでも自分が世話をしてあげたいと思った。

 ラウラの変貌ぶりに後れをとった青年であったが落ち着かせるために急いで言い直す。

 

「ごめん。そこまで言うなら……分かったよ。でも無理だけはしないでね」

「あ、ああ……もちろんだ。私の方こそ出すぎたことを言ってすまなかった。大丈夫、何も心配することはない。全て私に任せてくれればいい」

「……うん」

 

 それから二人は食堂に着くまで何も話さなかった。いや、二人とも何を話していいのかわからなかったのかもしれない。

 

(私は何であんなことを言ってしまったんだろう……)

 

 食堂には既に何人かの生徒がいて朝食を談笑しながら朝食をとっていた。

 しかしその楽しそうな話声もラウラと青年が食堂に入った瞬間に一瞬ピタッと止まる。だがその静寂も一瞬で掻き消えもとの状態に戻った。

 二人は良くも悪くも目立つ。特にラウラの行ったことを知っている生徒は彼女に恐怖の視線を送る者も少なくない。だが、そんなことはラウラにとっては取るに足らないことであると気にも留めていなかった。

 ラウラはいつもの定位置である席に青年を置くと注文を取る。

 

「……実は少し胃が痛くてな、今日は朝食は抜かせてもらう。お前はどうする?」

「そっか。それじゃあいつものセットを頼めるかな。トーストの奴で」

「分かった。いつもと同じマーマレードとマーガリンの奴だな?任せておけ」

 

 そう言ってラウラは席を立って行く。

 ラウラの今朝は胃が痛いという自己申告は実は正確ではなかった。正しくは今朝ではなくずっと胃が痛いのである。特に今日は先ほどの取り乱しによる感情の高ぶりが大きかったためそれが余計にストレスとなり体に負担を掛けていた。

 

 ラウラは青年の朝食を取りに行く途中に隠れるようにしてピルケースから複数の薬を取り出して飲みこみ水で流す。本来であれば食後などが望ましいのであるがそんな余裕はなかった。ただ、自分が薬を服用していることだけは知られたくなかったのである。

 

(少し吐き気があるがこの程度なら問題ないな……。はぁ……つくづく失敗作だな、私の体は……)

 

 ラウラには一つ大きなコンプレックスがある。それは自身の出自についてだ。

 彼女はドイツにおいて試験管ベイビーとして生まれただ戦うことだけを教え込まれて育ってきた。しかしISとの適合性向上のために行われたヴォーダン・オージェの不適合により左目が金色に変色し失敗作の烙印を押されてしまった過去があった。それを今でも心の底で引きずっているのである。

 

 ラウラは落ち込んではいられないと気を引き締め準備したトーストのセットを持ち席へ戻る。

 するとそこには先ほどまでいなかった少女が青年の向かいに座っていた。

 

「おはよう!ラウラ!」

「……シャルロットか。おはよう」

 

 青年の向かいの席へと座った少女シャルロット・デュノアはその春先の太陽のようにまぶしい笑顔を青年へと向けていた。青年はシャルロットとは彼女が転校してきた当初から有効な関係を築いていた。出会った当初は少し複雑な経緯があったものの今では腹を割って話し合えるくらいになっている。

 

 またシャルロットはラウラとも同室であり彼女の数少ない友人の一人でもある。そのため青年、ラウラ、シャルロットの三人で一緒にいることが多かった。

 ラウラはシャルロットと青年の三人でいる時間が好きだった

 

「そういえばラウラ。一昨日出された数学の宿題もう終わらせてある?」

「もちろんだ。その日に終わらせたぞ」

「え!?宿題なんて出てたっけ……、どうしようすっかり忘れてたよ」

 

 どうやら青年は宿題をやっていなかったらしい。

 その言葉を聞いたラウラは咄嗟に自分の写させてあげると提案するつもりだった。

 

「だったら僕の写させてあげるよ!ただし今回だけだからね?」

「ふぅ、それなら一安心だよ。ありがとデュノアさん」

「もう、君はたまに抜けてるところがあるんだから……」

 

 こうして宿題をシャルロットから見せてもらうことに安堵した青年であった。

 

(なぜシャルロットなんだ……、頼るなら私を頼れといったばかりなのに……、彼を助けていいのは私だけなのに……いや、ダメだ、こんなこと考えては。シャルロットは友人なんだ……、それなのにこんな醜い感情を抱くなんて……クソ!クソ!)

 

 自分の胸から溢れる黒い感情を隠したまま朝食を終える。

 ラウラの顔色はいまだ悪いままだ

 

 



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