設定知識など甘い面もありますが、どうぞよろしくお願いします。
西暦2138年――DMMO-RPG『ユグドラシル』サービス終了時間間近。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが拠点たるナザリック地下大墳墓、玉座の間。
最終日、残ったプレイヤーはギルドマスターたるモモンガ、ただ一人。
異業種、それもアンデッドの最強種たる
今や、彼は最後を迎える墓守そのもの。
「はは、最後を共に過ごしてくれるのは、NPCだけか」
渇いた笑いと共に、玉座の周りを見る。
控えたるは
メイドたちだが、アルベドは特に美しく造られていた。
より厳密に言えば、モモンガの好みそのものである。
「ああ――改めて見れば、こんなに美人だったんだな」
彼女を作ったメンバー、タブラ・スマラグディナの言葉が脳裏に蘇る。
(モモンガさんの嫁にどうですか――か)
アイテムボックスから、存在を忘れていた品を取り出した。
この一組みの指輪を同意の元、装備するだけで“結婚”が成立する。
相手がNPCなら、実質一方的でも問題ない。
課金ガチャから出たレアアイテムだが……誰もが認めるハズレ枠。
重婚不可の『ユグドラシル』では、複数持っても無意味であり、安価で流通していた。
モモンガ自身、数えたくもないほど持っている。
結婚をすれば、いくらか有利なスキルも得られる。
拠点外に出られないNPCと結婚する意味は薄い。
(でも、ロールプレイ的には一回やってみたかったよな)
溜息をついて、アルベドをじっと見る。
最後までギルドにしがみついた己には、彼女がふさわしい気がした。
(ゲーム内で結婚したら負けた気がするってぺロロンチーノさんは言ってたけど……
もう誰もいないんだし。最後くらい、いいですよね)
指輪の一つを、己に装備し。
もう一つをアルベドに指輪を差し出そうとして……味気ないなと思い返した。
「ふむ――」
(何もかも消えるんだ。どうせ使えなくなるなら、最後にぱーっと使おう)
さんざん課金して手に入れ、結局使えなかった課金アイテム。
あまりに贅沢な願いの使い方に、何度か、ためらったが。
残しても意味のない、最後の時間だから……と。
超位魔法〈
「
瞬間。
玉座の前を、無数の異形が埋め尽くす。
(ああ――どれも、みんなと作ったキャラクターだ)
階層守護者たち、領域守護者たち、メイドたち――他にも多数のNPC。
一人一人にメンバーとの思い出があり、設定がある。
(ペロロンチーノさんが趣味を詰め込んだシャルティア、
ぶくぶく茶釜さんが別の意味でアレだったアウラとマーレ、
武神武御雷さんのコキュートス、ウルベルトさんのデミウルゴス、
黒歴史だって避けてたパンドラズ・アクター……)
名前のおぼろげなNPCも多いが。
その製作に関わる会話、配置時のみんなの感想は……彼らの姿を見れば思い出せる。
多種多様の彼らは、そのままギルドの歴史。
この最後の時に回り始めた走馬燈。
可能なら、今からでも彼ら一人一人のデータを見たい。設定を読み直したい。
きっと失われた時代に触れられるから。
モモンガはかぶりを振り、その衝動を振り払う。
今更、だ。
もう、その時間はない。
指輪を使った甲斐はあった。
モモンガは、元よりロールプレイ勢である。
せめて彼らの前で、最後の魔王ロールをしよう。
「皆の者、聞け! ユグドラシルは終焉の時を迎え、ナザリックも消滅する!
私も、お前たちも、消えるのだ!」
最後の魔王ロールは、半ば絶叫するようだった。
泣いているような、声だった。
実際に、泣いていたのかもしれない。
己を紛らわせるように、アルベドに視線を向ける。
「アルベドよ。こんな最後になってすまない。
お前を作ったタブラ・スマラグディナさんとの盟約を今こそ果たそう」
アルベドを玉座の正面に立たせる。
「とはいえ、相手が骸骨ではお前にも気の毒か。私も最後は気分を変えたい。
白骨の体が光に包まれる。
鏡で姿を確認したいし、クラス構成の変化にも興味があるが――時間もない。
手が生身に変わっていれば十分だろう、と。
「さあ……最後まで時間がない。アルベドよ、指輪を受け取れ」
アルベドを見つめ指輪を差し出し、装備させる。
見える己の手は、白く美しい。
これならアルベドと似合いの姿だろう。
「これで我らは夫婦となった。全てが消滅しようとも――この契りは消えぬ。
訪れる終焉を恐れるな。皆の者、『喝采せよ』」
祝い事や勝利時のためのモーション。
全員が片手をあげ、勝鬨をあげるポーズをとる。
声がでないため……人形遊びの範疇を出ないのだが。
それでも、モモンガは目を細め、もう一度NPCを見回した。
「さらばだ。ナザリックの守護者たちよ!
アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」
(とと、あぶない。あと5秒しかない!
結婚したらできるようになる、あのモーションをしておかないと!)
モモンガは玉座から立ち上がり、アルベドを
そして、少しばかり性急に
結婚した夫婦が一日に一度だけ許される、相互回復効果。
もちろん触感はカットアウトされ、何の感触もありはしない。
ただ、そう見えるというだけだ。
(はは、初期はこれでひたすらキスしてるプレイヤーが町に溢れてたっけ)
苦笑しつつアルベドを抱きしめるが、何の感覚もない。
23:59:57
(きっとこれが最初で最後のキスなんだろなー)
スクリーンショットで残すと、黒歴史だな……と控えた。
23:59:58
(ファーストキスと共に終わるか、そう思えば上等かもしれない)
もう時間はない。
23:59:59
(リアルならこの先も……)
0:00:00
――ずにゅ
(そうそう、こんな風に舌が入ってきたりして)
0:00:01
――ずりゅりゅるぅ
(舌? えっ? 唇に感覚があ――)
腕の中にも柔らかい感触がある。
というか、柔らかい何かと何かが、押しつぶしあっているような。
0:00:02
――ずぼっ、ぐぢょっ、ずぢゅるるるるぅ
(んぐっ、おぶっ、のどっ、のどまでっ)
それは舌というにはあまりに長すぎた。
長く、いやらしく、熱く、そして卑猥に過ぎた。
それは正に触手だった。
あと、モモンガは玉座に押し倒されていた。
0:00:03
(んぶっ、んぐっ、んへっ、ひょっ、から、からだぁっ♡)
触手がモモンガの口の中を、喉を、貪るように舐めまわしてくる。
押しのけようとするが。
いつの間にか凄まじい力で抱きすくめられ、体中をまさぐられていた。
0:00:10
(んんんーーーーっ♡ んふぁあああああああああああ♡♡♡)
状況を理解できないまま、激しいくちづけと愛撫に晒される。
今のモモンガの種族は、アンデッドではない。
性別について何も言及せず、願ったのだ。
女淫魔である。
サキュバスである。
もちろん、精神耐性――感情抑制などない。
サキュバスの体は常に発情状態で感じやすい。
中の人は童貞で、性経験はとても少なかった。
しかも、愛撫してくる相手もサキュバス。
冷静になる時間も与えられないままに。
たった10秒で、モモンガはのけぞり、絶頂し、痙攣した。
全てのNPCの目の前で。
はい、結婚したから婚前交渉じゃないですね!
設定書き換えが起きていないので、このアルベドさんはビッチです。
モモンガさんのアレは実用されないまま消えましたが、種族特性上また生えるかも。