アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

1 / 1
初投稿です。
設定知識など甘い面もありますが、どうぞよろしくお願いします。


婚前交渉なんてしませんよ

 西暦2138年――DMMO-RPG『ユグドラシル』サービス終了時間間近。

 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが拠点たるナザリック地下大墳墓、玉座の間。

 

 最終日、残ったプレイヤーはギルドマスターたるモモンガ、ただ一人。

 異業種、それもアンデッドの最強種たる死の支配者(オーバーロード)だが。

 今や、彼は最後を迎える墓守そのもの。

 

「はは、最後を共に過ごしてくれるのは、NPCだけか」

 

 渇いた笑いと共に、玉座の周りを見る。

 控えたるは執事(セバス)戦闘メイド(プレアデス)――そしてアルベド。

 メイドたちだが、アルベドは特に美しく造られていた。

 より厳密に言えば、モモンガの好みそのものである。

 

「ああ――改めて見れば、こんなに美人だったんだな」

 

 彼女を作ったメンバー、タブラ・スマラグディナの言葉が脳裏に蘇る。

 

(モモンガさんの嫁にどうですか――か)

 

 アイテムボックスから、存在を忘れていた品を取り出した。

 

 略式婚姻の指輪(リング・オブ・インフォーマルマリッジ)

 この一組みの指輪を同意の元、装備するだけで“結婚”が成立する。

 相手がNPCなら、実質一方的でも問題ない。

 課金ガチャから出たレアアイテムだが……誰もが認めるハズレ枠。

 重婚不可の『ユグドラシル』では、複数持っても無意味であり、安価で流通していた。

 モモンガ自身、数えたくもないほど持っている。

 

 結婚をすれば、いくらか有利なスキルも得られる。

 拠点外に出られないNPCと結婚する意味は薄い。

 

(でも、ロールプレイ的には一回やってみたかったよな)

 

 溜息をついて、アルベドをじっと見る。

 最後までギルドにしがみついた己には、彼女がふさわしい気がした。

 

(ゲーム内で結婚したら負けた気がするってぺロロンチーノさんは言ってたけど……

 もう誰もいないんだし。最後くらい、いいですよね)

 

 指輪の一つを、己に装備し。

 もう一つをアルベドに指輪を差し出そうとして……味気ないなと思い返した。

 

「ふむ――」

 

(何もかも消えるんだ。どうせ使えなくなるなら、最後にぱーっと使おう)

 

 流れ星の指輪(シューティングスター)を取り出す。

 さんざん課金して手に入れ、結局使えなかった課金アイテム。

 あまりに贅沢な願いの使い方に、何度か、ためらったが。

 残しても意味のない、最後の時間だから……と。

 超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を発動した。

 

我、願う(I wish)――ナザリックの移動可能な全固有NPCを、我が元へ!」

 

 瞬間。

 玉座の前を、無数の異形が埋め尽くす。

 

(ああ――どれも、みんなと作ったキャラクターだ)

 

 階層守護者たち、領域守護者たち、メイドたち――他にも多数のNPC。

 一人一人にメンバーとの思い出があり、設定がある。

 

(ペロロンチーノさんが趣味を詰め込んだシャルティア、

 ぶくぶく茶釜さんが別の意味でアレだったアウラとマーレ、

 武神武御雷さんのコキュートス、ウルベルトさんのデミウルゴス、

 黒歴史だって避けてたパンドラズ・アクター……)

 

 名前のおぼろげなNPCも多いが。

 その製作に関わる会話、配置時のみんなの感想は……彼らの姿を見れば思い出せる。

 多種多様の彼らは、そのままギルドの歴史。

 この最後の時に回り始めた走馬燈。

 可能なら、今からでも彼ら一人一人のデータを見たい。設定を読み直したい。

 きっと失われた時代に触れられるから。

 

 モモンガはかぶりを振り、その衝動を振り払う。

 今更、だ。

 もう、その時間はない。

 指輪を使った甲斐はあった。

 モモンガは、元よりロールプレイ勢である。

 せめて彼らの前で、最後の魔王ロールをしよう。

 

「皆の者、聞け! ユグドラシルは終焉の時を迎え、ナザリックも消滅する!

 私も、お前たちも、消えるのだ!」

 

 最後の魔王ロールは、半ば絶叫するようだった。

 泣いているような、声だった。

 実際に、泣いていたのかもしれない。

 己を紛らわせるように、アルベドに視線を向ける。

 

「アルベドよ。こんな最後になってすまない。

 お前を作ったタブラ・スマラグディナさんとの盟約を今こそ果たそう」

 

 アルベドを玉座の正面に立たせる。

 

「とはいえ、相手が骸骨ではお前にも気の毒か。私も最後は気分を変えたい。

 我、願う(I wish)――この身をアルベドと同じ種族に!」

 

 白骨の体が光に包まれる。

 鏡で姿を確認したいし、クラス構成の変化にも興味があるが――時間もない。

 手が生身に変わっていれば十分だろう、と。

 

「さあ……最後まで時間がない。アルベドよ、指輪を受け取れ」

 

 アルベドを見つめ指輪を差し出し、装備させる。

 見える己の手は、白く美しい。

 これならアルベドと似合いの姿だろう。

 

「これで我らは夫婦となった。全てが消滅しようとも――この契りは消えぬ。

 訪れる終焉を恐れるな。皆の者、『喝采せよ』」

 

 祝い事や勝利時のためのモーション。

 全員が片手をあげ、勝鬨をあげるポーズをとる。

 声がでないため……人形遊びの範疇を出ないのだが。

 それでも、モモンガは目を細め、もう一度NPCを見回した。

 

「さらばだ。ナザリックの守護者たちよ!

 アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

(とと、あぶない。あと5秒しかない!

 結婚したらできるようになる、あのモーションをしておかないと!)

 

 モモンガは玉座から立ち上がり、アルベドを()()()()()

 そして、少しばかり性急に()()()()()

 結婚した夫婦が一日に一度だけ許される、相互回復効果。

 もちろん触感はカットアウトされ、何の感触もありはしない。

 ただ、そう見えるというだけだ。

 

(はは、初期はこれでひたすらキスしてるプレイヤーが町に溢れてたっけ)

 

 苦笑しつつアルベドを抱きしめるが、何の感覚もない。

 

23:59:57

 

(きっとこれが最初で最後のキスなんだろなー)

 

 スクリーンショットで残すと、黒歴史だな……と控えた。

 

23:59:58

 

(ファーストキスと共に終わるか、そう思えば上等かもしれない)

 

 もう時間はない。

 

23:59:59

 

(リアルならこの先も……)

 

0:00:00

 

――ずにゅ

 

(そうそう、こんな風に舌が入ってきたりして)

 

0:00:01

 

――ずりゅりゅるぅ

 

(舌? えっ? 唇に感覚があ――)

 

 腕の中にも柔らかい感触がある。

 というか、柔らかい何かと何かが、押しつぶしあっているような。

 

0:00:02

 

――ずぼっ、ぐぢょっ、ずぢゅるるるるぅ

 

(んぐっ、おぶっ、のどっ、のどまでっ)

 

 それは舌というにはあまりに長すぎた。

 長く、いやらしく、熱く、そして卑猥に過ぎた。

 それは正に触手だった。

 

 あと、モモンガは玉座に押し倒されていた。

 

0:00:03

 

(んぶっ、んぐっ、んへっ、ひょっ、から、からだぁっ♡)

 

 触手がモモンガの口の中を、喉を、貪るように舐めまわしてくる。

 押しのけようとするが。

 いつの間にか凄まじい力で抱きすくめられ、体中をまさぐられていた。

 

0:00:10

 

(んんんーーーーっ♡ んふぁあああああああああああ♡♡♡)

 

 状況を理解できないまま、激しいくちづけと愛撫に晒される。

 今のモモンガの種族は、アンデッドではない。

 

 性別について何も言及せず、願ったのだ。

 

 小悪魔(インプ)を経て、女淫魔(サキュバス)に至ったと改竄されていた。

 女淫魔である。

 サキュバスである。

 もちろん、精神耐性――感情抑制などない。

 サキュバスの体は常に発情状態で感じやすい。

 中の人は童貞で、性経験はとても少なかった。

 しかも、愛撫してくる相手もサキュバス。

 冷静になる時間も与えられないままに。

 

 たった10秒で、モモンガはのけぞり、絶頂し、痙攣した。

 全てのNPCの目の前で。

 




はい、結婚したから婚前交渉じゃないですね!

設定書き換えが起きていないので、このアルベドさんはビッチです。
モモンガさんのアレは実用されないまま消えましたが、種族特性上また生えるかも。

感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。