山陽新聞デジタル|さんデジ

備前出身の文筆家正宗白鳥を紹介 吉備路文学館で生誕140年展

小説家、文芸評論家など白鳥の多彩な活躍を紹介する特別展会場
小説家、文芸評論家など白鳥の多彩な活躍を紹介する特別展会場
「文豪とアルケミスト」((C)DMM GAMES)に登場する島崎藤村、田山花袋らをモデルにしたキャラクターイラストが目を引くコーナー。白鳥の幅広い交友がうかがえる
「文豪とアルケミスト」((C)DMM GAMES)に登場する島崎藤村、田山花袋らをモデルにしたキャラクターイラストが目を引くコーナー。白鳥の幅広い交友がうかがえる
 備前市出身の文筆家正宗白鳥(1879~1962年)の生誕140年を記念した特別展が、吉備路文学館(岡山市北区南方)で開かれている。明治~昭和期の文豪をモデルにしたキャラクターが登場する人気オンラインゲームと初めてタイアップ。白鳥や交流のあった作家のキャラクターパネルを交えながら、小説、随筆、評論―と幅広く活躍した文化勲章受章作家の功績、人柄を親しみやすく伝えている。

 直筆原稿、著作の一節を記したパネルなど約200点を展示。小説「寂寞」でデビュー後、代表作「何処へ」「入江のほとり」などを発表し、戯曲に評論、紀行文まで手掛けた足跡をたどる会場で、随筆・評論集「懐疑と信仰」(57年)の序文が目に留まった。

 〈随筆と規定しないでも、小説としても、詩としても、評論でも何でもいいのである〉

 白鳥は表現の形式にこだわらず、書きたいことを自由に書いた。例えば、同時代の作家10人に向けた評価は率直だ。いわく、菊池寛は明治以来の文学者で一番の人気者。田山花袋は文学者としての天分は乏しかったが良い人。島崎藤村の「沈黙」は劣作だと感じるが、藤村の作品だと思うと良いところがあるだろうと読み直してしまうのだから妙なもの―。

 白鳥の文章は、DMM GAMES(東京)が配信しているシミュレーションゲーム「文豪とアルケミスト」に登場する藤村ら10人のキャラクターと合わせて紹介。個性的なイラストが、作家たちの人となりを身近に感じさせてくれる。

 「何ものにもとらわれず、おもねることをしない姿勢が当時から受け入れられ、現代でも認められている」と友森陽香学芸員。白鳥は自然主義の大家とされるが、自身で主張したことは一度もなかったという。

 一方で、自分の意志は通した。そんな白鳥の性格を物語るのが、古里で開催された文化勲章受章祝賀会を欠席したエピソード。岡山の文士との交流に光を当てたコーナーで、主役不在の壇上で同郷の詩人・永瀬清子(赤磐市出身)が述べた祝辞を取り上げている。

 その中で清子は、白鳥は国や郷土のために文章を書いているのではないのだから〈花輪をもらうのが気はずかしいと、こう思われるのも文学者の正直な心であり又美しいはにかみの心〉と推察する。

 初出演のラジオ放送を聞いて自分の声は悪くないと言ったり、花より団子というからサクラの花びらを食べてみたり。文豪キャラでは、白いマントをなびかせたクールな美青年になっている白鳥。繕うことなく、実感に基づいてつづられる文章は、文体、内容ともに気取らず、小気味よい。

 2月3日まで。月曜休館。

(2019年01月25日 03時45分 更新)

ページトップへ