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2019年08月03日 00時03分 JST | 更新 9時間前

「少女像」展示、どうなる? 実行委で検討へ。芸術監督・津田大介氏が会見(声明全文)

あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」について、津田大介さんが会見した。

HuffPost Japan
記者会見を開く津田大介さん

愛知・名古屋市長の河村たかし氏が8月2日、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で展示中の「平和の少女像」を撤去するよう愛知県に要請すると表明したことを受け、芸術監督を務める津田大介氏が記者会見を開いた。

津田氏によると、同芸術祭の事務局に抗議の電話やメールが殺到しており、中にはテロ予告や脅迫ととれるようなものもあるという。

津田氏は、「来場者および職員の安全が危ぶまれる状況が改善されないようであれば、企画自体の変更を含めた何らかの対処を行うことを考えている」と表明。

「少女像の撤去」もしくは「『表現の不自由展・その後』の展示中止」について、あいちトリエンナーレ実行委員会や「表現の不自由展」実行委員会と検討するという。 

HuffPost Japan
「あいちトリエンナーレ」内の企画展「表現の不自由展・その後」で展示されている「平和の少女像」=2019年8月1日

『表現の不自由展・その後』では、公立美術館などで撤去された作品を、その経緯とともに展示している。そのうちの韓国の彫刻作家が制作した「平和の少女像」や昭和天皇をモチーフにした作品をめぐり、ネット上で大きな論争になった。

「あいちトリエンナーレ2019」は愛知県や名古屋市などでつくる実行委員会が主催しており、実行委員長は大村秀章・愛知県知事が務めている。

一方で、名古屋市の河村たかし市長は7月31日に少女像が展示されていることを知り、8月2日、同展を視察。「日本人の、国民の心を踏みにじるもの」だとして、展示を即刻中止するよう大村知事に要請すると表明した。 

津田氏は愛知県などの行政の立場について、「表現の不自由展」のコンセプトを「認めている」ものであり、「個別の作品への『賛意』として認めているわけではない」と説明。

また、企画の実施に伴なうリスクなどについても、県庁の関係部署や施設側と長い時間をかけて議論を重ねたという。

津田氏によると、愛知県の大村知事は「文化事業について政治家、あるいは実行委員長が内容に口を出すということは好ましくない」と強調していたといい、慎重に議論を重ねた結果、企画展の実現に至ったという。

津田氏は『表現の不自由展・その後』の企画意図について、「撤去された作品の実物とともにその経緯を鑑賞することで、議論が分かれる『表現の自由』という現代的な問題について議論するきっかけにしたい」と話し、「実物を見て判断していただきたい、ということが、この展覧会の揺らぎない趣旨であることをお伝えしたい」と呼びかけた。

津田氏が会見冒頭で読み上げた声明文の全文は以下の通り。

 ◇

今日「あいちトリエンナーレ」芸術監督として、津田大介の名前で、現在起きている「表現の不自由展・その後」について、さまざまなご意見を頂戴しているんですが、きょう名古屋の河村市長が少女像の撤去あるいは「表現の不自由展・その後」企画自体の中止を愛知県側に求めるという報道がされ、それを受けて今回のステートメントを出させていただきます。

「表現の不自由展」の趣旨は?

河村市長が中止を求めた件ですけれども、「表現の不自由展・その後」という企画は、日本の公立美術館で、一度は展示されたもののその後撤去された、あるいは展示を拒否された作品の現物を展示し、現物だけではなく、撤去あるいは拒否された経緯とともに展示を行うという趣旨のものです。

撤去された実物とともにその経緯を来場者が鑑賞することで、非常に議論が分かれる「表現の自由」という現代的な問題に対して、その状況に思いを馳せ、どこまでが許される表現なのか、そのことを議論するきっかけにしたい、その問題提起を行いたいということがこの展覧会の趣旨です。

あいちトリエンナーレ実行委員会、そして「表現の不自由展」の実行委員会、そして芸術監督である僕、津田大介が企画内で展示されている個々の作品に対して、何らかの賛否を述べるものではありません。

こういった企画であることをまず知っていただきたいと思います。

「表現の不自由展」実施が決まった経緯

次に、展示内容について行政の責任をどのように考えていくのか、という点です。(※)

《※編集部注:「あいちトリエンナーレ2019」は、文化庁の補助事業として、愛知県や名古屋市などでつくる実行委員会が主催している》

まず経緯を説明すると、展示内容の決定については、まず芸術監督が「情の時代」というテーマを設定しました。

そして、そのテーマに沿って作家の選定を行うことになっています。順番としては、他にもさまざまな作家を選んでいる中で、参加しているアーティストは現代美術で66、パフォーミングアーツや映像プログラムも含めて100弱の作家さんが参加されている。

さまざまな企画がある中の一つが「表現の不自由展」であります。

本当にたくさんの作品がある中の一つの企画が、今このような多くの反響を呼んでいるという状況である。まずこれを前提としていただきたいと思います。

なぜこの「表現の不自由展」が参加作家として選ばれたのかというところですが、いろいろな作家を選んでいる中で、『表現の不自由展』というものが現代の美術の問題、そして現代社会を考える上で非常に重要な問題提起を行なっているのではないかと思いました。

元々は2015年に民間の有志で行われていた「表現の不自由展」というものだったんですが、その時に行われていたことが、日本中の公立美術館で、さまざまな理由で展示が不許可になったことを理由とともに展示する、というコンセプト。僕はこれを一つの観客としてみました。

そこから約5年が経過して、その後も公立美術館でアーティストが作った作品が撤去されるという事態はさまざまな形で行われていて。2015年に民間で行われた「表現の不自由展」と比べても、もう一度これを行うこと、そして公立美術館、国際芸術祭で行われることに意義があるのではないかと考えて、僕が参加作家として「表現の不自由展」を持っていきたいということをキュレーター会議で提案しまして。そこで協議を重ねて、一作家としてこの「表現の不自由展・その後」が選ばれたという決議をしたという流れになります。

ただ、内容が内容ですから、そのあと「表現の不自由展」の趣旨については、県庁の関係部署や、あるいは施設側にも説明をして、この展示を行う際のリスクについても事務局や県民文化局と調整してきた。それがここまでの流れです。

「企画は芸術監督に一任されている。行政が個々の作品に『賛意』を示しているわけではない」

その上で、あいちトリエンナーレの企画をどのようなかたちにするかということですが、それは芸術監督に一任されています。そして県の事業として、またたくさんの作家が関わる展覧会として、その過程で事務局とは様々な確認や承認を経て、それぞれの企画が実現しています。

行政の責任というところですが、行政はトリエンナーレの一参加作家である「表現の不自由展」実行委員会が定めた「表現の自由。これの現在的状況を問う」という展示会のコンセプト、趣旨を認めているのであって、この展覧会内で展示されたすべての、あるいは個別の作品への「賛意」として認めているわけではないということ。ここをまず踏まえていただきたいと思います。

なぜかと言えば、その前提に則ってお答えすると、行政がこの展覧会の内容について「どんな内容なんだ」「実際できあがったものを見せろ」みたいな話になって、隅から隅まで口を出して、かつ行政としてこの表現は認められないというかたちで仕組みにようになってしまうと、それは憲法21条の「検閲」に当たるという、まったく別の問題が生じてしまうと僕は考えています。

「また一つ『表現の自由』が後退したかもしれない」

これはコンセプト文にも書かせていただいているんですけれども、この世の中のほとんどの事柄は白黒はっきりつけられない、グレーなものだと考えています。

そのグレーの濃淡を考えるということがこの展覧会の趣旨でもあるし、そういった意味でも「表現の不自由展」を今回参加作家としてトリエンナーレがお願いした、という流れでもあります。

ただ、現状ですけれども、余波があまりにも大きいということは僕も認識しております。分断がこれほどまでに進んでいて、その量によって、また一つ「表現の自由」が後退したかもしれない。

そしてまた、今回のこの騒動がその実証になってしまっているように、今起きていることを芸術監督として、そして一個人のジャーナリストとして感じているところです。

協賛企業に「大変なご迷惑をおかけしている」

そして、あいちトリエンナーレには多くの協賛企業の方に参加していただいています。

これについては、まず、トリエンナーレのテーマである「情の時代」、あるいはそのコンセプト、あるいは3月末に発表したんですけれども、今回参加作家が男女同数で、ジェンダー平等を達成したということ。またはこのプログラムでやっているようなアートを通じた教育普及の取り組み。そういったトリエンナーレが育んできた文化的役割にご賛同いただき、協賛・協力してくださっているという理解です。

そういった協賛・協力いただいている企業の皆さんには、大変なご迷惑をおかけし、あらためてお詫びをしなればならないと考えています。

また、協賛企業だけではなく、トリエンナーレに協力していただいているのは企業だけではありません。参加作家の方もそうですし、地元の方々もそうです。またはボランティアをはじめ、トリエンナーレの開幕を楽しみにしていただいた方。

今回の件で非常に今ご不安にさせているすべての方々にお詫びしたいと思っています。

安倍首相を踏んだようなハイヒールの作品は展示されていない

また、Twitterではこの件についてさまざまなご意見を頂戴しているわけですけれども、誤った情報も拡散されているのでそれについては訂正させてください。

安倍首相や菅官房長官をハイヒールで踏んだような作品があるんですけれども、その作品があいちトリエンナーレで展示されていた、というような趣旨のツイートがバズっていて、その問い合わせも多く事務局に寄せられています。

これについては、事実とは異なります。かつてあいちトリエンナーレで展示されたこともない。全く事実無根のことなので、これについては訂正させてください。その情報を流している方には、嘘情報を流している方には、情報の拡散をやめていただきたいと思っています。

今後の対応について

そして、このような状況を受けてこの企画がどうなるのか、あるいはトリエンナーレがどうなるのかということがみなさんの気になっているところじゃないかと思います。

現実に起きていることを誇張なくお話いたしますと、この企画が報道された7月31日(水)から、連日、事務局への電話が殺到しております。もちろん企画の趣旨に対して問い合わせいただくことは問題ないんですけれども、中にはテロ予告ですとか、あるいは脅迫とも取れるようなものですとか、また電話に応対しただけの職員個人を追い詰めるような抗議電話が多くありまして、1日中電話が鳴り止まないという状況です。

その事務局への電話が営業時間だけではなく深夜にも及んでいるという状況で、その数が日々増え続けているというのが現状であります。

この状態が続き、来場者および職員の安全が危ぶまれる状況が改善されないようであれば、「表現の不自由展・その後」自体の展示の変更も含めた何らかの対処を行うということも考えています。

ただし、最後にお伝えしたいんですけれども、日本が自国の現在、または過去の負の側面に言及する表現が安全に行えない社会となっていること。それをこうやって内外に示すことの意味を、よくお考えいただき...。ご意見は歓迎するんですけれども、いま抗議電話をかけていらっしゃる方、あるいはTwitterで(書き込みをしている方には)、そのことの意味を考えていただいて、自制的に振る舞っていただくことを期待しています。

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