聖王女と半身の魔王   作:スイス政府
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騎士と王女の日常 ③オセロ

「失礼しまーす」

 

ドアノブを乱暴に回し入室する黒い全身鎧。勿論、モモンのことである。普段の何気ない一動作であるため、自然体で、放課後の学生の様なけだるさすら感じられる。

モモンが雑な動作を王城内で行うのは珍しい。王城はモモンにとっては職場であるため、サラリーマンだった時の会社に等しいといっても過言ではない。無意識に肩に力が入ってしまう場所だ。では、なぜ付け足したような入室の挨拶に礼を払う気のない態度でいるのか。

答えは簡単で入室先の部屋には誰もいないからである。

会議が開始されるのは30分後。ビジネスマナーで言えば集合するのは、常識の範囲内の前行動だ。会社によっては少し早いが鈴木悟がリアルで所属していた会社では皆、これくらいには集まっていたのである。察してほしい(ブラック☆企業)

ちなみにこの世界ではそういった概念はない。基本的に皆、定時に集まる。

ごく、たまに几帳面な性格のものが早めに集まるがそれでも、15分より前に集まるものはそうはいない。

ちなみに聖王国のメンバーではパベル・バラハが10分前には集合するし、ケラルト・カストディオは15分前には来ていることもある。

その逆に遅いメンバーとしてはレメディオス・カストディオ、オルランド・カンパーノがいるが、2人とも聖王女が参加する会議には遅刻はしない。

だが、それ以外の会議では間に合った試しがないという猛者だ。

 

そう、モモンの経験上誰も部屋にいるはずがないのだ。

 

「おーモモン。いつもこんなに早く来てるんだな。お前より早く部屋に来たことは初めてかもしれん」

 

「こんにちは。レメディオスさん。今日はかなり早いですね。なにかあったんですか?」

 

なんと、いるはずのない人物がいる。これにはモモンも精神沈静化を受けるほどの驚愕だった。そのおかげで、なんなく返答をすることができたのだが…

部屋の椅子で片足を交差させている人物。レメディオス・カストディオ。

本日の会議ではカルカが来ないので彼女が時間内、それもモモンよりも早く来ているというのはありえざることだった。

 

(なぜ、この時間にここにいる…それよりもあの間の抜けた入室は聞かれてたりしてる感じか?こいつ、妙に俺にあたり強いからそういうの聞かれたくないんだよなぁ)

 

「別に何かあったというよりも、何もなかったから早く来ただけだぞ」

 

レメディオスが面白くなさそうな顔でモモンの質問を返す。

 

「…いや、今日は聖騎士団の予算の使用用途の会議ですよね?資料なりなんなり、用意するものも結構あるでしょう?」

 

「そうなのか?そういうのはあいつらに任せてるから、私の仕事はないんだなこれが」

 

レメディオスはドヤ顔で言い切るが、自分がトップの組織なのだからもう少し仕事に関われよ…という思いしかわいてこない。

きっと、こいつを仕事に関わらせるよりも自分でやった方が早いと現場の人間は結論出してるんだろうなぁ。とモモンは残念な子を見る目で、レメディオスを見る。

 

(トップが馬鹿だと組織は苦労するんだよなぁ。現場にそのつけが帰ってくることは少なくないし…俺の会社の上役はどうだったんだろうなぁ…無茶な注文は多かったが馬鹿ではなかっただろうし…だよね?こいつよりましか?)

 

モモンは二人の副団長の労を今度労ったほうがいいと心のメモ帳に書き込んだ。

 

「ところで、入室の時の挨拶が腑抜けすぎなんじゃないか?今は私しかいないが、聖王女様がご入室されている状況なら失礼にあたるだろう?」

 

(やっぱ、聞かれてたかぁ!!てか、早速上げ足取ってきましたよ!俺こいつになんかしたかなぁ?)

 

「それは、確かに気が緩んでいましたね。以後気を付けたいと思います…ですが、聖王女様は公務の都合上、時間通りにしか来ませんよね?この時間に来ていることはないのでは?」

 

「…そうだとしても、国のトップに近いお前がそんなたるんだ態度をとるのは良くないだろう!普段からしっかりせねばな!!」

 

「5分前ですよ」

 

「うん?」

 

モモンの呟きに、得意顔だったレメディオスの顔が疑問の表情を浮かべる。

 

「ですから、聖王女様がご入室するのは会議の5分前丁度です。私は毎回、早めにきているので知っていましたが、レメディオスさんは知らなかったのですね?普段からしっかりしなければなりませんね」

 

見事に一本取られたレメディオスの顔が怒りやしてやられた恥ずかしさから朱に染まる。

 

「貴様!馬鹿にしているのか!!」

 

レメディオスが机を激しい音を立てながら、立ち上がりモモンを睨む。幸いこの部屋は防音なので外に音が漏れることはないだろう。

 

「いえいえ、馬鹿にしているわけではなく私からあなたへの注意です。それと、私とあなたは立場上同格です。あまりこちらを下に見るような言動は慎んでください。こういった部下がいないところでは良いですが…公衆の面前でお前呼びなども良くありません。そういった意味を込めた注意です」

 

早口でまくしたてられたレメディオスがぽかんとする。本当に意味を分かっているのだろうか?

レメディオスは、なぜかモモンにつっかかるので前々からモモンとしてもレメディオスにヘイトは溜まっていたのだ。いつか、注意しようと思っていたがなかなかチャンスがなかったのだった。

 

(こいつの部下の前で注意するのは、デリカシーに欠けてるからな…そういったことを踏まえると今が注意の絶好の機会だったわけだ!決して、こいつうざすぎ…とか思ったわけじゃないよ)

 

「よく、分からんが言い過ぎたみたいだったな。すまない」

 

「いえいえ、分かってくれたのなら良いですよ」

(こいつ、素直に謝れるんだなぁ。意外)

 

さらに、反抗してくるかと思ったが自分がやり過ぎていたという自覚はあるらしい。

枕言葉の“よく分からんが”のせいでそこはかとなく不安だが。

 

「…」

 

「…」

 

モモンも適当に席につく。その後はお互いに話さないので沈黙の時間が流れる。

通常ならそういった空間は気まずいので、どちらかが間を持たすために仕事の話なり、無難な話を振るものだが…

人類最強クラスの実力をもつふたりにそう言った問題は眼中にない。そういうことなのだろうか?と納得してしまうほど、二人ともふてぶてしい。

 

(こいつなんか話振ってくれないかぁ!気まずいじゃん)

 

片方は本当に見てくれだけだったのだが。

 

(只得さえ、女性と二人きりってなに喋っていいか分かんないんだよなぁ。しかも喧嘩?した後だし…こっちからなんか話題を提供すべきか…?げっ!あと、27分もあるじゃん!)

 

「なあ、モモン。おm…モモンはカルカ様とよく遊んでらっしゃるんだろ?どんなことしてるんだ?」

 

内心あたふたとしているモモンにレメディオスが声を掛ける。

 

「うーん。そうですね…昔はオセロなどやってましたが、最近だとケラルトさんも交えて大富豪とか人生ゲームとかやってますね」

 

どんどん、運要素が強いゲームになっているのはどんどん勝負にならなくなっていくのを悟られないようにシフトしていったためである。

 

(多分、俺がまあまあ馬鹿ってことはカルカには悟られてないはず…ケラルトさんは…あの人は微妙だな。底知れないんだよなあ)

 

バァン!

またしても、机を強くたたく音にモモンは考え事を放り出し音の発生源をに目線を移す。

が、振り向いた時には目の前にレメディオスが立っていた。

「おい!それのうちどれかやらないか!?」

 

「えっ!?今ですか?ちょっと時間ないんじゃないかって思うんですけど…」

 

「今、やらないとモモンがだらしない態度で会議室に入ってきたってカルカ様に報告するぞ」

 

レメディオスがカルカを引き合いに出し、モモンを脅す。正直、レメディオスの脅し自体は痛くも痒くもない。カルカとも8年の付き合いになる。そんなことで怒ったり失望したりすることはないだろう。

 

(いや…カルカは俺のこと買い被り過ぎている節があるからなぁ。まあ、流石に大丈夫だと思うが)

 

この脅しを恐怖し、レメディオスの条件に乗ることはあり得ない。しかし、この時モモンに一つの感情が芽生える。

 

“レメディオスをボコボコにしてみたい”

 

正直、今レメディオスとモモンが真剣勝負をすることになれば泥仕合の末に体力の差でモモンが勝つだろう。攻撃力が伴わないだけで、守備力、体力はプレイヤー基準なのだから。

しかし、頭を使うゲーム。例えば、オセロならボコボコにできるんではないか…ということだ。

日ごろのストレスが発散しきれてないモモンがこの考えに至ったのは必然だろう。

 

「まあ、時間がないので一回だけでしたらいいですよ」

 

「本当か!!」

 

レメディオスの顔がパアアと明るくなる。

 

(うう…そんな曇りない眼差しで喜ばれると少し良心の亜癪があるな。まあ、ボコるのは変わらんが)

 

モモンの日ごろの恨みは意外に深かった。

 

「では、オセロをしましょうか」

 

「おういいぞ!」

 

「ルールはカクカクシカジカで結果、盤面に残った色が多い方が勝ちです」

 

「はへー。これはこうじゃないのか?」

 

「いやだから、そうなるとこうしないと終わらないじゃないですか」

 

――10分後――

 

「だ・か・ら!色は2色しかないでしょう!?ここに置くと黒は白に挟まれて反対になるんですよ!」

 

「????」

 

「ルール説明でこんなに時間ってかかるの…」

 

まさしく、ぬかに釘、のれんに腕押し。悲しいかな、モモンはストレス発散をしようとしてさらにストレスを貯め続けるという状況に陥っていた。

 

「こんにちは~。あら、モモンさんはいつも通りいるとして…姉さま居られたのですか?」

 

部屋に入ってきたケラルトは、うなだれるモモンと間のぬけたレメディオスの顔。そして、その間に置かれたオセロのゲーム盤を見て全てを悟った。

 

「あっ!とってこないといけない資料があるのを忘れてました。それでは、また後でお会いしましょう~」

 

その瞬間、逃走を選ぶ。どういういきさつか知らないが姉に戦闘以外のことを教えるなどチンパンジーにジャズダンスを教えるよりも難しい。

妹である自分は要領を得ているから、教えることはできるが正直面倒くさい。関わらないのが一番である。

 

「ちょっと、どこにいくんですか?助けてくださいよ…」

しかし、この男がそれを許さない。

モモンがlv33戦士職の動きを凌駕したスピードでケラルトの手を掴む。

状況だけで言えば、90年代のメロドラマの様だ。ケラルトは苦虫を潰した表情をモモンは鬼気迫る表情であるという違いはあるが。

 

「えーと、モモンさん…早くしないと会議に間に合わないので…離していただけますか?」

 

「今日の会議は神殿側は、承認の決に応じるかどうかなので、書類は必要ないはずです。

逃がしませんよ。」

 

「それは、非常に困りますね…私は逃げるわけではなく、資料を取りに行くんですから邪魔はしないでいただけます?」

 

「まだ、そんな言い逃れをしますか…仕方ない。レメディオスさ~ん!私とケラルトさんのどちらの説明がわかりやすいと思います~!?」

 

モモンがレメディオスに問いかける。勿論、ケラルトの手はがっちり掴んだままである。

ケラルトは目を見開き、モモンを睨む。モモンはふっと笑う。それは勝利を確信した笑みだった。

 

「ちょうど良かったケラルト!!モモンの説明が分かりにくくてさ~!教えて!」

 

「モモンさん…これは貸しですよ…」

 

「すいません…お願いします」

 

レメディオスに向かっていくケラルトの目は優しく、殉教者の様な澄んだ瞳であった。

 




カルカ「レメディオス、会議の後ケラルトが燃え尽きてる感じだったけど何かあったの?」

レメ「ああ、それはモモンのせいかもしれないですね」

カルカ「モモンさんとケラルトに何かあったの??」

レメ「モモンがケラルトに教えるだったかな?そういうことを揉めてましたね」

カルカ「教えるってなにを…まさか!!そういうことなんじゃ…」

レメ「??他にもケラルトの手を強く握って、話してましたね」

カルカ「ええ!!?なにそれ…!!?どういうことなの??えっ、そういう関係なのかしら!?」

レメ「関係…??ああ、一応そういう(私にオセロを教えた)関係ですね」

カルカ「そっそうなの!?へっへー知らなかったですね。わ、私にも一言言ってくれればよかったのに」

レメ「私も(オセロ)教えてもらったので、今度カルカ様も混ぜてやりましょうよ」

カルカ「やるの!!?とういうか、レメディオスも教えてもらったの!!?」

レメ「いや~最初はモモンが教えていたんですけど、あいつ(ルールを教えるのが)下手くそでしてね~。結局、ケラルトに教えてもらいましたよ」

カルカ「えっ!?下手くそなの!!?ケラルトはうまいの!!???情報量多すぎです…」

レメ「そんなに情報量多いですか?私はすぐに(ルールを)理解できましたよ(※嘘)」

カルカ「念のために聞くけど、何を教えてもらったの…ゴクリ?)

レメ「え~と、名前は忘れたんですけど…なんかひっくり返すやつです。意外とやってると戦闘とは違う気持ちよさがあるんですよ~カルカ様はやったことないんですか?」

カルカ「やったことないわよ!!」

レメ「あれ?なんか怒ってます?」

カルカ「うるさいわね!!もう!!あなたたち三人幸せに過ごせばいいのよ!!もう知りません!!!」ダッ

レメ「なんで怒ってらっしゃるんだ…そうか!仲間外れにされたことを怒っているのか!モモンとケラルトにカルカ様も交えて今度やらないかって言うとしよう」

   


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