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【社説】

INF条約失効 核軍拡への歯止めを

 「核なき世界」の理想を捨ててはなるまい。冷戦末期に米国と旧ソ連が結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約が二日に失効する。米ロに中国も加わった新たな核軍備管理体制の構築が必要である。

 六月のG20大阪サミットに合わせて会談したトランプ米大統領とプーチン・ロシア大統領は、二〇二一年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題の交渉を始めることで合意した。新STARTは配備済みの核弾頭をそれぞれ千五百五十発以下に制限するのが柱。両国は目標を達成している。

 INF条約に続いて新STARTも期限切れで失効すれば、米ロの核軍縮の枠組みはなくなる。相互不信が高じた中での延長交渉は難航も予想されるが、是が非でもまとめなくてはならない。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が六月に発表した推計によると、今年一月時点で世界には一万三千八百六十五個もの核弾頭がある。その約九割を占めるのが米ロだ。

 北朝鮮に核放棄を迫る米国が核軍縮に後ろ向きのようでは説得力を失う。米国との核戦力均衡を図りたいロシアは、米国とまともに軍拡競争を繰り広げる国力はない。軍縮は双方にとって理にかなうはずだ。

 米国はINF条約に代わる新たな条約交渉に、ミサイル戦力の増強著しい中国も加わるよう主張している。中国は反対しているが、多国間の核軍備管理体制は時代の要請である。東アジアで軍拡競争を起こさないためにも中国は再考してほしい。

 世界に核兵器がある限り、意図せぬことで取り返しのつかない結果が生じる危険は消えない。

 一九九五年、米国とノルウェーが共同で打ち上げた気象衛星をロシア軍が誤認し、当時のエリツィン大統領が核のボタンに手をかける寸前までいった。

 米ロ関係がまだ悪化していなかったころの出来事である。信頼関係が崩れた今の時代に起きたら、どんな事態になるだろうか。

 来年は核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が予定されている。核保有国と非保有国の溝は深く、再検討会議が前回に続いて決裂に終わる懸念が強まっている。そんな事態になればNPTは加盟国の信頼を失うだろう。

 核保有国と非保有国の橋渡し役を自任する日本は、決裂回避へ力を尽くすべきだ。

 

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