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【社説】

米異例の利下げ 独立性は損なわれた

 米連邦準備制度理事会(FRB)が景気拡大の中、異例の利下げを実施した。トランプ大統領の圧力が決定に影響したのは間違いない。米中央銀行の独立性は損なわれたと指摘せざるを得ない。

 FRBのパウエル議長は利下げ理由について、「下振れリスクに備えるため予防的に実施した」と説明した。だがこの説明を真に受ける人は少ないだろう。

 米景気は四月の雇用統計で失業率が3・6%と一九六九年十二月以来の低水準となった。株価も史上最高値圏にあり好景気といえる。

 だが大統領は自らの再選を念頭に、任期中の不安材料を可能な限り払しょくする狙いから再三にわたり緩和を要求した。中には議長更迭をにおわす発言さえあった。

 ここで指摘したいのは、最大の不安材料である米中対立はそもそも大統領が仕掛けたという事実である。

 さらに景気拡大中の緩和は急激な物価上昇という副作用をもたらす恐れがある。議長はそれらを考慮して小幅な利下げにとどめ、「長期の利下げの始まりではない」との姿勢も表明。大統領に最低限の抵抗を示した格好だ。

 ただ連邦準備法では大統領は正当な理由があれば議長を解任できる。「何をされるか分からない」との不安が議長の決断に影響を与え、結局異例の緩和に追い込まれたとの見方は否定できない。

 中央銀行は独立性を担保されているはずだ。為政者による安易な緩和要求に屈せずインフレを未然に防ぐためだ。だがFRBの独立性は大きく揺らいだ。その構図は各国の為政者に金融政策介入への格好の口実を与えるだろう。

 秋には欧州中央銀行(ECB)が利下げを予定する。さらに大統領は早くもFRBの決定に「がっかりした」と不満を表明した。大統領との力関係からみてFRBの追加緩和の可能性は高い。

 日銀は七月三十日の金融政策決定会合で、状況次第では「躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」とし、緩和競争に加わる構えだ。ただ打つ手は限られており急激な円高懸念は残る。

 秋には消費税率アップも控える。政府は影響を受けやすい中小企業経営や非正規労働者の雇用状況をきめ細かく監視し、変調の兆しがあれば即座に対応すべきだ。

 円安や株高で経営環境が良くなり内部留保を増やした大企業の経営者にも安易な人員削減を行わないようくぎを刺しておきたい。

 

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