【ドラニュース】【龍の背に乗って】サインが合わない芝居をする岡田の冷静さ2019年8月1日 紙面から
山本に届けられたウイニングボールには、甲子園の土がこびりついていた。9回、2死二、三塁。誰もが前夜の悪夢が脳裏をかすめたが、岡田は冷静だった。125キロのワンバウンドのスライダーで、梅野を空振り三振に打ち取って試合を終わらせた。 「サインは最初から決まっていたんです。首を振ったり、外してみたり…。でも僕の投げたい球と木下(拓)の投げさせたい球は一致していましたから」 打たれれば負ける恐怖と、大音量の声援。そのど真ん中にたった1人で立ちながら、岡田はサインが合わない芝居を打っていた。 代役でもクローザー。チームの勝敗が自分の肩にのしかかる。広島で打たれた(23日)夜は「眠れなかった」と告白した。3球で逆転サヨナラを喫した前夜は「意外と眠れました」。これが岡田の成長である。どんなに重い敗戦であろうと、勝っていれば登板命令が下されるのがクローザーの宿命だ。体と脳を休ませないと、次の日も打たれる。 3球で負けた男が、27球費やして持ち帰った白星。どんなにいい球を投げようとも、野手の間に落とされれば地獄だし、コースを間違えようとも野手の正面に飛べば天国にいられる。 「ああいうやられ方をしたんでね…。きょうはたまたま抑えましたけど、迷惑かけっぱなしです。ただ、負けてはいられない。突っ込んでいくしかないですから」 ソラーテに打たれたストレートを、7球続けて投げ込んだ。福留から空振り三振を奪ったのも力のこもったストレートだった。 「ここは甲子園。僕は抑えられる。そう思っていきました」。勝利投手の山本や2点目を挙げた阿部、3点目の藤井は高校時代に甲子園を知らない。だが、岡田は4度もこの土を踏んだ申し子だ。甲子園に愛された左腕が、ほんの少し前に進めた。 (渋谷真)
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