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♪~
(仲)僕には分からないんだよ。彼のやろうとしてることが正しいのか間違ってるのか…。
アニメーターとして自分の限界を突きつけられたみたいで悔しいんだ…。
(なつ)仲さん…。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(坂場)では クリフと死神はこれでいきましょう。
(一同)はい。
奥原さんあなたの描き直した絵はないんですか?
描けませんでした。
ある絵を見てからそれ以上のものは描けないと思いました。
ある絵?
これです。
これは 誰の絵ですか?
仲さんです。
仲さんが描いて 私に託してくれたんです。
もし 何かの参考にでもなればと思ってこれを なっちゃんに預けておくよ。
あっ…。
気に入らなければ 無視していいから。
私は 今 やっとキアラに出会いました…。
ずっと これを待っていました。
(神地)参ったよな…。
俺 一瞬にしてこのキアラに恋しちゃったよ。
(茜)これが仲さんよ。(堀内)うん。
仲さんだけが イッキュウさんの心の中を理解していたんです。
イッキュウさんのことを理解できないのが悔しいと言いながら…。
仲さんだけがキアラの魂を描くことができたんです。
(下山)仲さんは 決してイッキュウさんの敵じゃないよ。むしろ 陰ながらイッキュウさんのことを応援してた。
仲さんは 誰よりも 自分を超えたいと思っているアニメーターです。
今でも ずっと。
私は 同じアニメーターとして…心から 仲さんを尊敬します。
♪~
どうしたの?
仲さん… お願いします。
仲さんの力を貸して下さい。
この作品を完成させるにはどうしても 仲さんの力が必要なんです。
どうか… キアラを描いて下さい!
仲さんの絵を そのまま出しました。
いいのかい? 僕で。
仲さんにしか描けません。
(下山)時間がないんです。仲さん 助けて下さい。
お願いします 仲さん!
さすが 仲さんです!
お願いします。
分かった。
ありがとう。うれしいよ 採用してもらえて。
生意気を言って すみませんでした。
(仲)謝ることなんか何もないよ。
よし それじゃ すぐに始めようか。
はい。
♪~
その日から 徐々に ピッチを上げて映画製作は進み始めたのでした。
茜さん これもお願いします。あっ はい。はい。
堀内さんもお願いします。はい はい。
栗原さん。はい。これ 出来ました。
あ~ ありがとうございます。
坂場さん チェックお願いします。分かりました。
♪~
今日は わざわざ送ってくれてありがとう。
うん。
仲さんのことは どうもありがとう。
私は 何もしてません。
まあ 仲さんにちゃんと謝れたことは 認めてあげます。
あなたも立派だった。
僕は 映画を成功させたい一心だよ。
それは 誰だって同じ。
立派なキアラを描いてあなたに ギャフンと言わせたかった。
いつでも ギャフンと言ってますよ。えっ…。
君には ギャフンと言わされっ放しだ。
それは お互いさま。
(亜矢美)あ~ いらっしゃい… あ お帰り。
やっぱり いらっしゃい。こんばんは。もう終わり?
ううん… 夏場のおでん屋はねお客様が来て下さるなら閉店時間なんてないようなもんだから。
どうぞ イッキュウさん。あの 咲太郎さんは?
うん? あ 咲太郎に用事?
いえ… いらっしゃるならお兄さんにも 是非ご挨拶をと思って。
挨拶なんていいから 今日は!
えっ 普通の挨拶だよ。ああ…。
(亜矢美)普通の?えっ?
てことは 普通じゃない挨拶もあるっていうことか?
そういうこと!?
普通じゃない挨拶もそのうち させて頂こうと思っています。
来た~! 来た 来た 来た 来た 来た!
あ~ 来た! ついに来た! この時が…!
いや 待って! もったいないわ。私が一番なんて もったいないわ。
待って 待って 待って今 咲太郎呼ぶから 待って…。
あっ いい!いいから いいから いいから…。
今日は普通だから!普通?うん。
お兄ちゃんには まだ言わないで。
今 作ってる映画が完成したらその時 私が言うから。
いや 僕が言うよ。
なら 2人で言うから。
2人で… 分かった。
じゃ それは いつ完成するの?
予定では 来年の春。
春か… いや~ 待ち遠しい春だわ。
どうしよう どうしようあ~ 黙ってる自信がないわ…。
いえ… そこを なんとか!なんとか頑張ってみるけど…。
お願いします。じゃ まずは… お手を拝借。
♪「幸せなら手を叩こう」(手拍子)
(亜矢美)♪「幸せなら」
(亜矢美)乾杯!(坂場 なつ)乾杯!
ありがとうございます。よろしくお願いします。
あ~ しみる…。
本当よかったね なっちゃん。
ありがとうございます。
イッキュウさん ご家族には?あ… まだ何も話していません。
そう… じゃ そっちにも普通じゃない挨拶に行かないとね。
それだけど… 私で大丈夫なのかな?何が?
戦災孤児だった過去とか気にされないかなって…。
どんな過去だろうと大丈夫です。
あなたが ゴジラでも大丈夫ですよ。
それは 地球がダメでしょ。ハハハ… イッキュウさんだよ。
そんなこと ごちゃごちゃ言う親に育てられたような人じゃないっしょ。
だけど…。
そんな心配はしないで下さい。
で お父様 お母様 何なさってんの?
父親は大学教授です。考古学を研究して教えています。
考古学?はい。
母親は師範学校出の元教師で僕が生まれた時には専業主婦でした。
はあ… ごきょうだいは?
兄が2人と 姉が1人います。
僕は末っ子です。
2人の兄は 医者と弁護士をしています。
姉は やはり教師です。
すごい…。
咲太郎が ふびんに思えてきたわ。私まで怖くなってきました…。
ゴジラの方が まだ歓迎されそう。
いや… 医者といっても今は 田舎の診療所にいるし弁護士といっても国選弁護人ばかりしているし万が一 お金持ちに思われたら困るんだけどお金には 全く縁のない家なんです。
だけど 僕は絶対君に ふびんな思いはさせないから。
うん…。
私は お邪魔かな?
そんなことないです。そんなことはないですから。
そんな真面目に答えないでちょうだいよもう…。
それじゃ そろそろ帰ります。もう?明日もあるので。
あっ 電車なくなっちゃうしね。うん。 あっ あの…。
あ~… いいから いいって。
志ある貧乏人からお金なんて頂きませんよ。
いや でも…。そのかわりなっちゃんをお願いね。
泣かせないでよ。
はい。 それじゃ すみません。ごちそうさまでした。
はい。気を付けてね。
うん。 じゃ おやすみ。おやすみ。
♪~
何ですか?
なっちゃん… 今が一番きれい。
知りませんよ!
おめでとう!
しかし 映画製作は その後スケジュールは やはり遅れてゆきました。
ダメです! カット割りでアクションを ごまかさないで下さい!
この絵コンテどおりに カメラの前で実際に起きていることを見せるつもりでリアルなアクションを描いて下さい。
でも それじゃ見てて ワクワクしないって。
絶対に ワクワクしますよ。
実写では 絶対にできないこともアニメーションならリアルに見せられるんです。
実写のように ごまかす必要はないんです。
(下山)ごまかしてはないけどさ…。
そして 翌年の春は過ぎようやく完成したのは夏でした。
映画は すぐに公開されましたが…不入りに終わったのです。
なつよ 大変だ こりゃ…。