二〇一九年度の最低賃金は全国平均で時給二十七円引き上げ九百一円となる。大幅な引き上げだが、都市と地方との格差が広がっている。どこに住んでも働いて生活できる就労環境にはほど遠い。
最低賃金の目安は厚生労働省の審議会が示す。その議論の基となる小規模事業所の賃金改定調査の一部で、必要な統計処理が行われず数値が間違っていた。
目安を決める議論で不可欠な「労働者の賃金上昇率」データの処理は適切で議論に影響はないと厚労省は説明する。だが、この統計への信頼性にかかわる問題だ。あらためて再発防止を求める。
最低賃金は、企業が支払う賃金の最低額で、働く人すべてに適用される。ただ、実態は最低賃金に近い賃金で働く人が多い非正規労働者の生活に大きく影響する。改定は労使が参加する審議会で議論されるため、いわば非正規の「春闘」といえる。
審議会が示した目安である全国平均は確かに九百円を超え、東京などの一部の都市部は千円台に到達した。引き上げ幅はこの四年間で計百円を超えた。
安倍晋三政権はこれまで引き上げ幅の目安を3%程度とし、六月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」では「早期に全国平均千円を目指す」と目標を掲げる。
今回の目安はそれに沿ったものだが、年収にすると二百万円にも満たない。その収入で家計を支えている非正規の人にすれば依然として低い水準だ。さらなる引き上げを進めてほしい。
懸念されるのは、都市と地方の格差拡大である。今回の目安では最高額の東京都と最低額の鹿児島県とは二百二十六円の差がでる。全国平均を超える地方は七都府県にとどまる見通しだ。二〇〇〇年代初めには百円程度だった差が、一三年度からは二百円を超え年々広がっている。
これでは都市部に若い人材が流出したり、今後増えるだろう外国人労働者の地方での確保も難しくなりかねない。
二〇年四月からは、正社員との不合理な待遇格差を認めない「同一労働同一賃金」制度が順次始まる。今後は、非正規の待遇改善と地域間格差の是正の双方に取り組む必要がある。
賃金アップへ企業にはさらなる生産性の向上が求められる。政府も税制や社会保険料の減免、設備投資などへの支援をすべきだ。
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