2019年6月6日に、振り込め詐欺を行う犯罪集団のパーティに、事務所を通さずに直接営業として興業を行い、金銭をもらったとして、吉本興業に所属していた雨上がり決死隊の宮迫博之ら13人の芸人が無期限謹慎となり、営業の手引きを行っていたカラテカの入江が解雇される事件が起きました。

その後、当初は金銭を受け取ってなかったと主張したものの、実際には100万円のギャラをもらっていたことがわかったこと、無期限謹慎によって出演していた番組の降板を余儀なくされたことに対して、宮迫は契約解除を要求、受理され、吉本興業とは別で独自に記者会見を行いました。

確かに反社会組織と関わりを持つことは許される話ではありませんが、その背景には、吉本興業の契約形態の特殊さと、ギャラの大半を吉本側が搾取する実態を見ない限り、今回の事件を芸人の責任だと糾弾するのは短絡的だと言えます。

吉本興業の特殊な形態

一般的な企業であっても、正社員や契約社員として雇用する際には雇用契約書を交わすのが一般的です。それは民法においても明記されています。

一般的な芸能プロダクションでも、芸能人が所属する場合はマネージメント契約を交わすのが一般的で、ギャラについても条件として盛り込み、互いが承認して初めて成立します。

ところが吉本興業では、こうした契約を行った芸人はほんのわずかしかなく、テレビにも出る有名な所属芸人が「正式な契約を結んでない」のが実態です。

正式な契約を結んでないので、ギャラの額や配分も、吉本側のやりたい放題になるわけです。
そのため、新人の芸人が舞台で芸を披露しても、報酬が50円だけという信じられない事も当たり前になっているのです。

新人の芸人からすれば、自分の芸で有名になりたいからと吉本興業にすがってきますので、1円でもギャラがもらえて芸を披露する場が増えてくればいいと考えますが、吉本側から見れば、奴隷も同然に扱えると言うことです。

しかし、最初は自分の貯金などの持ち合わせがあっても、結局はお金がつきるのは必至であり、大半の芸人はアルバイトなど副業をしないとやっていけない実態があるのです。

奴隷契約で生み出された「闇営業」

テレビや舞台などで一定の人気を得た芸人にとっては、それでもまともなギャラをもらえず、生活に困り不満を抱くようになると、吉本興業を通さずに直接芸を披露するオファーを受けて、独自にギャラを受け取る「闇営業」「直(ちょく)」を行うようになります。

直接オファーをもらってしまえば、吉本興業の取り分も自分のものに出来るわけで、得られるギャラは事務所経由よりも遙かに多いわけです。

しかし、芸人側が単体で相手の素性などをチェックすることは限界があり、結局は暴力団などの反社会組織の営業を受けてしまうリスクが発生します。

今回の事件で独自に興業のオファーを受けていた入江は、芸人時代から酒席を通じた人脈を築く才能が
あり、すでに2015年に自らのプロモーション、マネージメント会社を設立しています。
彼自身、様々な業界の有名人、著名人とも人脈を持っており、その影響力は大きくなっていました。

事件は2014年のことで、入江はまだ会社設立して管理できる状況では無かったものの、今年になって発覚したのは、当時のメンバーが週刊誌に対して金を得るために暴露したのではないかと推測されます。

事件だけを見れば、入江の顧客への調査不足、ミスが原因であり、入江を解雇したことは何ら落ち度ではありません。
しかしながら、詐欺集団とは今迄に知ら無かったにも関わらず、出演した芸人を謹慎処分にしたのは正しいとは言い切れません。

「正当な契約」と「正当な報酬」があれば、この事件は起きなかった

この事件の原因の根本を突き詰めれば、やはり吉本興業の悪辣なやり口に至ります。

放送や広告会社においても、契約を行うにも口約束だけで行うことが慣習になっていますが、これも元々は芸能界の老舗のやり方を踏襲したことによるでしょう。

彼らは契約書を作らない理由として「めんどくさい」「すぐにタレントを呼べない」「時間がかかる」と口々に言います。

確かにスピードを考えれば契約書をいちいち作って契約しない方がいいでしょう。
しかしそれは、口約束の内容でトラブルがなかった場合に限ります。

トラブルが発生した場合、口約束だけで何の記録も撮っていなければ、言った言わないで水掛け論になるのは必然で、示談をするにも裁判で争うにも厄介になります。

契約書を取り交わす最大の理由は、互いにどういう仕事をするのか、そして報酬はいくらになるのか、トラブルが発生したときにどうするかを明確にすることです。
もちろん、契約の条件や内容が曖昧だったり、大雑把であればトラブルでこじれるのは目に見えているので、互いに抜けがないかをよく読んで、具体的かつ詳細な内容に詰めないといけません。

アメリカのスポーツや芸能の契約になると、100ページを超えるほどの膨大な契約書の条文になるのが多いです。
彼らは口約束など守る必要が無いといういい加減な考えがあるからこそ、ほんの些細なことですら条文に明記し、契約に明記しているんだから守れ、と言わないといけないのです。

日本人は口約束でも守る人が多いですが、そうでない人もいるわけで、契約書を取り交わすことが重要であることに変わりはありません。

吉本興業が体質を改善するためには、まず、所属芸人というのであれば、全ての芸人と正式な契約書を取り交わすこと。
そしてその報酬の取り分などについても、契約書に明記して、明朗な会計処理を行うことです。

その上では、採算に合わない実力の無い芸人を大量解雇する必要もあるかもしれませんが、少しでも望みiがあるように見せるような奴隷的な契約を続けるくらいであれば、きっぱりと突き放した方が偽善ではないように思えます。

ちなみに、芸能、放送、広告の各業界においても、コンプライアンスの精神は一般企業に比べても著しく欠如しています。
その最たるものが、こうした口約束で済ませてしまういい加減さだといえるでしょう。

東京の大手テレビ局は、吉本興業にコンプライアンスを徹底するよう要求しましたが、テレビ局もまた、一般企業並みのコンプライアンスを徹底すべきでしょう。