AIビジネスには擬人化が弊害になります(写真:Melpomene/PIXTA) © 東洋経済オンライン AIビジネスには擬人化が弊害になります(写真:Melpomene/PIXTA)

AIについてのニュースが毎日のように流れているにもかかわらず、AIを使えば自分たちの仕事や暮らしがどのように変わるのか、実情について適切に理解している人は少ない。「AIはよくわからないもの」「AIは自分たちの仕事を奪うかもしれない」といった、漠然とした不安も生んでいる。本稿では『いまこそ知りたいAIビジネス』から一部抜粋し、AIとはいったい何か、ビジネスをどう変えるのかを、アメリカでAI技術や戦略などを企業へ導入する会社を経営する石角友愛氏が解説する。

日本では、AIをロボット的な何かだと認識している人が少なくないようだ。先日、「AIが具体的にどんな働きをしているのか、全然イメージできないです。AIは結局何をやっているのでしょうか。実際にAIが動いている姿を目で見ることができたら、AIの実態がわかると思うのですが……」と聞かれた。

 私が「AIが動いている姿というのは、画面で実際に計算しているところを見たいということでしょうか?」と聞くと、その方は「AIが計算?」と、不思議そうな顔をした。

「AI = ロボット」という勘違い

 この質問をいただいたことで、私自身、大きな気づきがあった。それは、IT業界の技術者が考えるAIと、一般の方が考えるAIのイメージにギャップがあるということだ。AIビジネスに携わる人間からすれば、AIとは学問領域の名前や、機械学習、ディープラーニングなどの手法の総称という理解が一般的だ。しかし世間では、AIを“ロボット的な何か”と考えている人が多いようだ。

 特に日本では、AIによる学習のアウトプットを擬人化して見せることが多い。例えば、あるニュース番組には、AIが予測した今週の株価を紹介するコーナーがある。そこでは、あたかも「予測ちゃん」というようなキャラがいて、その「予測ちゃん」が、私たちに話しかけているかのようなアウトプットの仕方をしている。

 また、タクシーに乗ると、「AIの○○ちゃんが、あなたの名刺管理をしてくれます」といった広告を見かける。このような擬人化アウトプットは、いたるところにある。擬人化したほうが世間的にはAIのイメージが伝わりやすいと思われているからだろう。

 しかし、AIとは機械学習をはじめとする「手法」や学問領域の総称でしかなく、姿形のないものだ。ロボット工学の領域もAIという広義の学問領域の傘下に入ることが多いが、いずれにしても、AI=ロボットではない。

 つねにロボットや人間の顔といった擬人化クッションを経ないとAIについて議論できないようなら、いつまでたってもAIは「中身のわからないブラックボックス」的な存在になってしまう。

擬人化がビジネスの弊害に

 AIビジネスを考えるうえでは、この擬人化が弊害になる。AI=ロボット(話しかけるインターフェースがあるもの)と思っている経営者は、まさか自分たちが最適価格予測アルゴリズムを導入しようとか、社員のスケジューリング最適化モデルを使おう、というアイデアが浮かばないのではないだろうか。私がAIを擬人化しないほうがいいと考えるのは、こういった機会損失を防ぎたいからである。

 また、AIは、火や電気やインターネットと同様で、単なるツールでしかない。「AI“が”予測する」ではなく「AI“で”予測する」という言い方が正しい。これは「インターネット“が”メールを送る」と言わずに「インターネット“で”メールを送る」と言うのと同じことだ。

 日本人が「AIが自分たちの仕事を奪う」と考えがちなのも、この擬人化の弊害の1つだと考えている。AIをロボットや人といった「主体」とみなすから、「仕事を奪う、奪われる」といったイメージにつながる。

 アメリカでも「AIが自分の仕事を奪う」といった議論にならないわけではないが、とりわけシリコンバレーでは、AIはツールにすぎず、自分たちが使いこなすものと思われている。Eメールやスマートフォンを使いこなすように、新しく生まれるAIをどんどん使いこなして、無駄な作業はやらなくてすむようにしようという考えを持っているのだ。

 例えば、グーグルが開発した「AIY」をご存じだろうか。「Do It Yourself」のDIY(日曜大工)をもじったもので、自分でAIを作るキットだ。段ボールを使って、グーグルホームに搭載されているような音声AIを作れる商品が10ドルで販売されている。音声以外にも、画像認識AIYもある。

 自分の手でAIを作る経験をし、「毎日自分が使っているアレクサは、こんなふうにできているのだ」と知ると、「なんだ。音声AIって、ただのプログラミングなのね」と幼い子どもでも理解できる。

 「AI=よくわからないブラックボックス」ではなく、AIを作るのは自分たち人間で、AIに指示を与えているのも人間であるということがわかると、「AIには意思があって人間を超えるのか?」とか「AIは私の仕事を奪うのか?」といった議論から離れることができるだろう。

 グーグルのCEO、サンダー・ピチャイ氏は「AIは火より、電気より大事なものだ」と発言している。中国のバイドゥ(百度)の元チーフデータサイエンティストであり、スタンフォード大学の教授でもあるアンドリュー・ング氏も、「100年前に電気の登場ですべての業界が変わったのと同じように、今後数年間にAIが変革しない業界はないだろう」と言っている。

 つまりAIは、火や電気、あるいはインターネットに例えられるくらい「インフラ」として考えられているのだ。

中小企業こそAIが必要だ

 「AIビジネス」というと、大企業や先端的なIT企業のものと考えている人もいるかもしれないが、そうではない。中小企業であっても、AIの活用が活路になる。むしろ中小企業ほど、AIの導入で大きなビジネスインパクトを生み出すことができるともいえる。

 AI導入は、実は局地的であればあるほど力を発揮する側面を持っている。だから、中小企業ほどAIを効果的に活用することが重要になるのだ。

 マッキンゼー・グローバル・インスティチュートが発表した資料では、AIが不可欠な業種が16%、AI(ここではディープラーニングを指す)を導入したときに、業績が大きく伸びると予想される業種は全体の69%を占めるといわれている。

 逆に、AI活用がそれほど優位に働かない(またはAI以外の技術を使っても業績が伸びる)と思われる業種は15%にとどまる。

 「自分の業界には縁がない」「うちの会社は小さいから関係ない」とは言えない時代に突入している。

 メディアが取り上げる、規模の大きくハードルの高い事例だけを見て、「AIは大企業かIT企業だけのもの」と考えていると、致命的な後れをとってしまう。しかしこのことは、裏を返せば、今、正しくAIを導入すれば飛躍的に事業を成長させるチャンスだともいえる。

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