かつてネット広告の大半は、手っ取り早く成果が期待できるダイレクトレスポンス広告が中心だった。通信環境が整備され、誰もが手軽に動画コンテンツを受信できるようになった現在では、ブランディング広告に取り組む広告主も増えている。どう使い分けるのか。先輩社員「ヒロセ」が、新人に解説する。
ネット広告やデジタルマーケティングに精通する先輩社員。新人ユカの教育係になった。見た目はクールだが、ネット広告の話になると熱くなって止まらなくなる。
ネット広告会社に新卒で入ったばかりの新人女性社員。元気とやる気は人一倍あるが、難しい用語は苦手。ヒロセのボケに対して絶妙なツッコミをする。
前回に引き続き、ブランディング広告について説明するぞ。
「商品を自発的に選んでもらうための広告」がブランディングで、「商品をすぐ買ってもらうための広告」がダイレクトレスポンス、ですね。
おおっ、やるじゃないか。ところで、テレビはよく見るかな?
私ってテレビ大好きなんです。でも最近は、周囲であんまりテレビを見ないという人が多くて、番組の話題で盛り上がれないんです。
それもデジタル広告の今後に関連しているんだ。早速説明していこう。
デジタルマーケティングは、効果の可視化に優れているが故に、どうしてもブランディングよりもダイレクトレスポンスが重視される傾向にあります。これは100%悪というわけではありません。前回も紹介した購買ファネルの中で「興味・関心層」以降のユーザーボリュームが十分にあり、かつ高い商品力があればダイレクトレスポンス施策のみでもOKです。
ただ、ダイレクトレスポンスはファネルの後半、ユーザーボリュームが少ない層へのアプローチであるため、施策を始めた当初は順調にCPA(コスト・パー・アクイジジョン/アクション、顧客獲得単価)を改善できたとしても、興味や関心の高いユーザーが枯渇し、CPAの歩留まり率が停滞することがよく起こります。
市場自体がまだまだ形成されていない(商品に関連するワードが検索すらされない)、競合商品との差別化ポイントが分かりづらいという状況であれば、ダイレクトレスポンスよりもブランディングのほうが優先度が高いと言えるでしょう。
「いけす」の中の魚が少なくなっている時には、魚を釣り続けるのではなく、いけす自体を大きくして魚を増やすための施策が必要です。
マジョリティーに訴える有力な手段
ブランディング施策を考えるときに、筆者(ヒロセ)がイメージするのはイノベーター理論です。イノベーター理論とは、米スタンフォード大学などで教授を歴任した社会科学者、エベレット・ロジャース氏が著書「Diffusion of Innovation(邦題:イノベーションの普及)」で提唱した理論で、新しいアイデアや技術が社会に普及するまでの過程を説明したものです。ポイントはある商品がアーリーマジョリティーにまで届くと、市場が一気に広がるということです。
もう1つよく知られている理論が、コンサルタントのジェフリー・ムーア氏が著書「Crossing the Chasm(邦題:キャズム)」で提唱した「キャズム理論」です。イノベーター理論のアーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間には溝(キャズム)があり、商品やサービスがなかなか行き渡らないことを説明した理論です。それぞれに異なるニーズや価値観が存在し、これがキャズムを生む原因の1つと言われています。
筆者は、ダイレクトレスポンス施策で歩留まり率の悪化を感じた時、サイトの新規訪問者の伸びが鈍化した時などに、この理論を思い返します。
「この商品を購入する可能性があるマジョリティーとは、どんなニーズや価値観を持っている人だろうか?」「興味を持ってもらうには、どんなメッセージやコミュニケーションが必要か?」
ダイレクトレスポンス広告で、マジョリティーにいくら「買って買って」と訴えても、そもそもニーズや価値観が違うため、同じメッセージでは刺さらないことも多いのです。
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