第十五話:暗殺者ははじまりと出会う
夢だ。
夢の中だと明確にわかる。
この光景は十四年ぶりのものであり、現実にはありえない光景。
なにせ、転生した際に、女神に呼び出された白い部屋なのだから。
「ぱんぱかぱーん、おめでとうございます! あなたの功績ポイントが一定値を超えて、運命干渉リソースが増えました。女神様の御慈悲にご期待あれ!」
そして、この部屋に呼ばれたということは、必ずその主……女神もいるということ。
「十四年ぶりでも変わらないな」
「どっちかっていうと、変わらないのはあなたですよぅ。私の性格とかしゃべりかたって、あなたに合わせて演算して演出してますからねー。私をこうしているのはあ・な・た。てへっ」
おそらく、相手がもっとも話しやすいと考える人格を演じるのだろう。
なぜ、俺の目の前にいるのがこんな人格になったかを考えてみる。
推測になるが、露骨に怪しく、洞察すれば本音が見える。そういう、わかりやすさに俺が安心するからだ。
「運命干渉リソースの上限が増えた……そういうことか。ディア、タルト、マーハ。この三人との出会いは出来すぎていた。探したとはいえ、あれだけ都合のいい人材と次々に出会えるなんてどうかしている。あの三人と引き合わせるようなことが、またできるようになったということだろう?」
「あっ、気付いていました。そうですよ。運命線を操ってちょいちょいのといと、あの三人には助けられてるでしょ? 全員とちょめちょめするぐらいですから。よっ、色男!」
「……あまりいい気分じゃないな。三人との絆が仕込みだと言われるのは」
「あっ、それはちょっと違いますね。感情や行動まで縛るのってリソース消費えげつないんですよね。ぶっちゃけ無理ゲー、私がやったのは、あなたが欲しがる人材と、出会うように運命をちょちょいっと方向転換させるだけ。会わせるだけで限界。会ったあとのことは知らないです。誇っていいですよ。あの三人を手篭めにしたのは純然たるあなたの実力。やだっ、私も攻略されちゃいます!?」
その言葉は俺にとって救いだった。
もし、三人の感情までもが女神によって仕組まれたものなら、それはあまりにも虚しい。
「そうか。……それは良かった」
「ちなみに、本来の歴史なら今日がマーハちゃんの命日でした。良かったですね。全員の命日を突破できて」
「三人とも今日までに命を落とすはずだったと聞こたんだが」
「ええ、そう言ってますよ。えっと、アカシック・レコードはどこしまったっけ。あった、あったっと」
女神がわざとらしく異空から分厚い本を取り出す。
「本来の歴史ですと最初に死ぬのはタルトちゃん、口減らしで冬山に捨てられてトウアハーデを目指すも途中で寒さと飢えでやられて死亡。一番マシな死に方ですね。でっ、次に死ぬのはディアちゃんっと、ヴィコーネが戦争で敗北、その優秀な魔法の才能を見込まれて、跡取りを産ませるために変態貴族さんが購入、うわぁ、えげつな。人間ってば愚か、こんなことしたら子供産めなくなるじゃないですか。で壊されて廃棄処分、きゃーかわいそう」
俺という存在がなければ、あの二人はそうなっていてもおかしくない。
それがわかるだけに苛つく。
「最後にマーハちゃん、可愛かったので孤児院の悪徳院長がロリコン貴族相手に売り飛ばしちゃう。でも、強かですね。うまく取り入って愛人に収まり、ロリコン貴族をいい感じに手玉とってますよ。でいよいよ、ロリコン貴族の後ろ盾で自分のお店を開こうかなってところで魔の手が! 嫉妬に狂った正妻の手引きで、盗賊さんに拉致られて……きゃっ、こんなの女神言えない、清純キャラ壊れちゃう。でっ、今日死ぬ予定でした」
「三人とも、俺と出会わなければ死ぬ運命だったのは偶然じゃないんだろう?」
なにかしら理由があるはずだ。
この女神はこう見えて、その行動には全て意味がある。
「ええ、運命をいじるさい、個人の能力・才覚に加えて、その後の未来への影響力の大きさが大きいほど、いじりにくいんですよね。優秀なやつほどいじれない。でも、早死して未来が無い子たちは運命力が小さいので、能力のわりに運命操作が楽で助かります。コスパいいんですよね」
「俺たちのことを駒か何かと思っている口ぶりだな」
「思ってますよ。ていうか、私自身が駒ですらない舞台装置ですらかねー。まあ、でも、こうやって教えている通り、できることほんと少ないんですよね」
たしかに少ない。
この十四年で出来たことと言えば、死ぬはずだった三人の少女と俺を引き合わせたことだけなのだから。
「それで、こんな話をするために呼んだわけじゃないだろう。……俺からも聞きたいことある。この世界について知らないことが多すぎる。まともに世界を救わせたいなら情報を渡せ」
魔族ミーナの出会いから感じ続けていたこと。
あまりにも俺はこの世界に対して無知だ。
ルールを知らなければ、ゲームに勝てるはずもない。
「えええええ、やですよ。意地悪で言ってるんじゃないんです。ルールを教えるって、めっちゃ運命リソース食いますよ。それこそ他の何もできなくなるぐらいに」
「なのに、三人のことはぺらぺらしゃべったのか?」
「ああ、あれは良いんですよ。だって、あなた、自分で気付いてたじゃないですか?」
舞台装置と言い放ったのにふさわしい感情がない目が俺を見通す。
たしかにそうだな。
三人との出会いが女神に仕組まれたものだったということも、俺と出会わなければ三人が死んでいたことも想像がついていた。
「なら、言えることを言え。ここに呼ぶのだってリソースを使ったんだろう。おまえが装置なら意味があることしかしない」
「ぴんぽーん、そのとおり。あなたの今までの功績は世界を救うに値するものだと上が判断しまして、あとよそから棚ぼたも追加。よって、使えるリソースが増えたんです。それで、近いうちにご褒美が与えられますので、ちゃんと受け取ってください。これを言うために呼びました」
「……その内容を言うことはリソースを消費するから言えない。そして、わざわざこの場にリソースを使って呼んだということは、忠告しなければ見落とす類のものだということか」
女神がにっこりと微笑む。
正解のようだ。
そこまでするとは、よほど大きなご褒美らしい。
「わかった。必ず受け取る……この世界を救いたいのは俺も一緒だ」
ルーグ・トウアハーデとして生き、積み上げたものを心の底から愛おしんでいる。
それに、俺を愛し育ててくれた両親、好きになってくれたディア、タルト、マーハ、三人を失いたくない。
「ええ、では頑張ってください。もう、あなただけが頼りですからね」
「それを言ったことでリソースを消費したなら、俺は許さない」
「大丈夫ですよ。だって、あなた知ってるじゃないですか。目立ちますからね、チート持ちで、前世の知識で俺TUEEEEを軽い気持ちでやる馬鹿は。でも、それで目つけられて人間に殺されりゃ世話ないですよ。ああ、リソースがもったいない。まっ、死んでくれたからこっちに回せるんですけどね。でも、女神的には投資の基本は分散投資なんで、一本化良くないと思ってるまである」
女神の言う通り、転生者らしい存在は知っていた。
そういうことをしている人物は目立ち、オルナの情報網に引っかかりやすい。
直接会って協力を申し出たこともあるが、なぜか協調性のない人間ばかりで突っぱねられてきた。
そして、現時点で全員が破滅していることも把握している。
女神によってこの世界に転生したもののスペックは高い。
だが、あくまで人間の枠内でしかなく、わずかな油断で命を落としてしまうのだ。
「さて、夢の終わりです。起きたら可愛いマーハちゃんと朝チュンしてくださいね。ではでは~、女神の神託終了。ああ、疲れた。もう今日のお仕事は終わり、スパセン行って、そのあとはドラマ見ながらいっぱいっと」
そうして白い部屋が歪んでいく。
女神のご褒美はいったいなんだろう?
ある程度考察し、仮説を立てておかなければならない。でなければ、きっと取りこぼしてしまうだろうから。
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