@chablis777
シャブリ

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(なつ)亜矢美さんが結婚しないのはその思い出があるからなんですか?
もし よかったら教えて下さい。
(亜矢美)よくある つまんない話だって。
(カスミ)ないわよ あんなこと。めったにある話じゃない。岸川亜矢美を スターにしたのは

岸川亜矢美に恋をした一人のお客だったのよ。
♪~
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
そのお客は 早稲田の学生さんでね毎日のように ムーランに通い詰めてた。
(松井)インテリの学生に人気があったからな ムーランは。
亜矢美さんのファンだったんですか?
ファンっていったってそのころの私は 集団で踊ってる中の一人にすぎなかったからね。
年も 25だったし。
地味で目立たない踊り子だったの。
何か その方が想像つきません。
その学生は 想像したのよ。えっ?
地味で目立たない自分より年上の踊り子に恋をしただけでなく亜矢美ちゃんの才能を信じ

たのね。
才能を…?うん。
(茂木)伊崎っていったかな その学生。(カスミ)そう。伊崎君 自分で レビューの台本書

いてムーランに持ち込んだのよ。
台本を?そう!
それが採用されて おまけに当たってね。
それから 何本も何本も書いてきちゃ亜矢美ちゃんを ソロで踊らせて…。
(カスミ)それで 徐々に 人気が出始めたのよ。
まるで おとぎ話みたい…。
シンデレラみたい! すごい。
(カスミ)亜矢美ちゃんだってあれじゃ 恋に落ちるしかないわよね。
(咲太郎)母ちゃんは結婚の約束までしたんですよね その人と。
(カスミ)うん…。だけど 伊崎君大学を出る前に 学徒出陣でね…そのまま 帰らぬ人とな

ってしまったわ。
えっ…。
出征する直前彼は 客席で立ち上がって叫んだ。
「岸川亜矢美 万歳!」って。そして それっきり…。
(松井)あれだけの才能をな…。
(島貫)どんな天才でも戦争に もってかれるしかなかったんだ。
鉄で出来た俺たちの風車とおんなじように。
私は あの人の才能にほれたってわけじゃないからね。
才能ばっかり惜しまないでよ。
(茂木)でも まあもう一度 見たかったな。伊崎君の作品で踊る岸川亜矢美を角筈屋ホー

ルで! ハハハハ…。
ほら だから言ったでしょ。最後は よ~くある話だって。
亜矢美さん…悲しいけど すてきな話です。
(嗚咽)
(藤田)戦後の亜矢美は見てられなかった… 痛々しくて…。あのスターだった亜矢美が生

きる気力もなくして…。
親分 話を しめらせないで下さいよ。
(藤田)それを救ったのが咲太郎だ!闇市で きったねえ野良犬みてえな咲太郎を拾ってき

て…。
ひでえな 親分。(藤田)ハハハ…。
(藤田)それが亜矢美の生きる力になったんだよ。また 踊れるようになったんだよ。
(亜矢美)はい おしまい!
この話は おしまい。
ほら こうやって しんみりしちゃうからだから 話したくなかったの。
ごめんなさい。そんな しめっぽく謝んないの。
よし 歌おう!
いいね カスミねえさん! よっ!
♪~
♪「紅いルージュにひかされて」
♪「今日もくるくる風車」
くる… くるくる回って…。何言ってんだよ…。
亜矢美さんは?眠ったよ。
酔い潰れるなんて珍しいね 亜矢美さんが。そうだな。
あっ なつ 俺 今から事務所に戻るから母ちゃんのこと よろしくな。
今から?うん。 やることがあるんだよ。
もう ほとんどそっちで暮らしてるみたいだね。
忙しいからな。ふ~ん。
ねえ お兄ちゃん…。うん?
亜矢美さんが 今まで結婚しなかったのは伊崎さんって人がいたからなんだね。
俺も その話を聞いてからは何も言えなくなった。
母ちゃんにはまた幸せになってほしかったけどな。
お兄ちゃんといることが理由じゃなかったんだね。
バカ… そこまで俺の面倒を見る義理はねえだろ。
うん… まあ そうだよね。
じゃ 母ちゃんのこと頼むな。
うん。
♪~
咲太郎…。
♪~
新しい年も 相変わらずなつは 仕事に追われる日々でした。
「百獣の王子サム」は 大人気となってアニメーターや演出家も次々と新しい人間が投入さ

れ放送期間は 1年半にもなってゆきました。
(荒井)よっしゃ 今日も いったってや~!どんな感じ?
その間に なんと茜ちゃんがあの人と 電撃結婚をしました。
(一同)ええ~っ!
(下山)いや~ 一か八かで告白をしたらオーケーをもらいました。
(拍手)
皆さんの前で 僕は 永遠の愛を誓います!
(茜)いやいや…ここで誓わなくてもいいから!
(拍手)
(神地)ちょっと待った!神っち…。
いや それはないよ 茜ちゃん!
(堀内)往生際が悪い。
自分でも驚いてるのよ。
でも… 前から好きだったって気付いたの。
(下山)僕も驚いています。
♪~(スピーカー「東洋行進曲」)
茜ちゃん 最後に俺と踊って下さい!
えっ?君との別れのダンスを体が覚えていればいつか 仕事の役に立つ時が来ると思うん

だ!
う… うん いいわよ。
あっ 手… はい。
あっ ちょっと あっち行って。うわっ ちょっと おい…!
ステップ。ステップ?ステップ。
何? これは…。(坂場)さすが神っち…。
どんな時も前向きだわ。
♪~(スピーカー「東洋行進曲」)
ああ…。
♪~
(神地)ああ かわいい!回って 回ろう 回ろう 回ろう…回って 回って…回ろう 回ろう

…。
なつには 全く そんなこともなくテレビに追われる日々が続きました。
そして 翌年の春。
(井戸原)下山君。 君には 今度長編映画の作画監督になってもらいたい。
作画監督?
(仲)原画や動画 全てを監修して1本の作品に仕上げるそういう責任がある者を置こうと思

ってるんだ。
つまり アニメーターの仕事を全て指揮する監督だ。
いいね。 茜ちゃんを物にした君のしたたかさに我々は かけてるんだ。それ 関係ないで

しょう。
(井戸原)うん まあ 冗談なんだけどね。は?
(井戸原)我々としては君しかいないと思ってるんだよ。
分かりました。
そこで どんな企画をやりたいのか演出家は 誰がいいかそれを考えて我々に提案してく

れないか。
はあ…。
あっ… だったら 演出はイッキュウさん…坂場一久君でお願いします。
いや 彼はダメだよ。 彼には テレビを続けてもらうことになってるんだ。
なんとか 彼に チャンスを与えてやってくれませんでしょうか?
仲さん お願いします。
長編漫画映画は今 お客の数が減ってきてる。
失敗したら 後がないかもしれないよ。
だったら なおさら 僕と一緒にやるのは坂場イッキュウしか考えられません!
♪~
どうしたんですか?ちょっと…。
えっ?
長編映画を?うん。
下山さんが 仲さんたちを説き伏せてくれたんです。
あ そう… それは よかったですね。
もちろん 君にも テレビを抜けてこっちの原画に参加してもらいたいと思ってる。
うん… もし 会社が そうしろと言うなら喜んで。
そ… そして もし…もし この長編映画を成功させたら…成功したら…僕の人生には…君

が必要だということになります。
は?
僕と…。
えっ…。
ぼ… 僕と… 僕と…僕と!
結婚して下さい。
結婚… してくれませんか?
なつよ… 出た。


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