『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』についての考察

先日、およそ20年ぶりにこの作品を観る機会があったので、メモを残しておきます。

※これより先は、映画『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』に関するネタバレが含まれます。ご了承下さい。


この作品は1994年に公開されたドラえもん映画化15周年記念作品であり、「作中でのび太としずかが戦死してしまうという
劇場版『ドラえもん』シリーズでも数少ない『メインキャラクターの死』が描かれており、
またラストの決戦にジャイアンスネ夫は参戦せず、全員不揃いで物語が完結するという異色作」とされています(Wikipediaより)。
また、シリーズ中で唯一、仲間となるゲストキャラクターが登場しない作品でもあります。
その中で気になった点について、私の個人的な考えなどを書いていきます。


■「世界」について

この作品には3つの世界があります。
それは、「現実世界(=目覚めの世界)」、実在する「夢の世界」、そして「未来の現実世界」の3つです。
なぜ夢の世界が「実在」すると言い切れるのかというと、のび太が「夢幻三剣士」のソフトを起動する前に夢の世界の住人である(はずの)トリホーからの接触があったからです。*1
夢の世界の住人の中で、少なくともトリホーはこの3つの世界を行き来していると考えられます(トリホーが未来の現実世界に関与しているであろう理由は後述)。
また、シルクが最終局面の前に現実世界に干渉している場面も見られます(案内人だから可能なのかもしれません)。
そして、夢の世界の他の住人が現実世界に干渉できるかどうかについては作中では明言されていません。

つまり、物語の中盤で妖霊大帝オドロームがトリホーに対して放った「剣士が現れる前にそれを防ぐのがお前の『役目』ではないか」という言葉の意図は、「妖霊軍の中でトリホーだけが他の世界に干渉できるから」なのかもしれません。
もし妖霊軍の他のメンバーも現実世界に干渉できるのであれば、「トリホーの器用さを買って」ということなのかもしれません。
また、オドロームの目的は「支配」であると読み取れるため、仮に現実世界への干渉が可能であれば「現実世界の支配」も視野に入っていた恐れがあります。
もっとも、妖霊軍が持っているのは技術力ではなく魔力であり、それが通用していたユミルメ国も古い時代設定であったため、
妖霊軍の魔力が現代の現実世界に対してどこまで通用するかは分かりません。


■「夢幻三剣士」のソフトについて

このソフトは、「『実在』する夢の世界に遷移する」という点において他のソフトとは大きく一線を画しています。
このソフトは当然現実世界の未来で作られたものですが、その開発にはトリホーが関与していると考えられます。
そしてその開発において、ただの夢とは異なる実在する「夢の世界」へ繋ぐ回路を設定する部分に(少なくとも)携わっているのではないかと考えています。
なぜかというと、逆にトリホーが関与していないと考えた場合、夢の世界へ繋ぐ回路は未来人が設定することになります。
とすると、未来人はオドロームの侵略が実際に起こっていることを知りながらソフトを開発していたことになります。
そう考えるよりは、ソフトの注意書きにある「第二の現実を創造する」といったようなことをトリホーが未来人に説明したと考える方がしっくりきます。
物語の最後に気ままに夢見る機を引き取りに来た未来人がトリホーと思しき人物であることからも(原作ではトリホーと全く異なる容姿)、トリホーが未来の現実世界に関与していることは間違いないと言えるでしょう。
しかし、ソフト購入時のドラえもんとDMのやりとりから、トリホーは未来のソフト周りの環境を全て掌握できているわけではないと考えることができます。
ちなみに、最後にトリホーが回収に来たのは、「新たな白銀の剣士候補にソフトを渡すため」or「ソフトの真相を知られたくないため」に自らが素早く回収に来た、といったところなのでしょうか。
前者の場合、夢の世界の時間軸が戻るのかどうかは分かりませんが。


■「予言」について

オドロームは「白銀の剣士」に対して終始強い警戒心を抱いています。
「予言」が誰によるものなのかは明確に描写されていませんが、
「不死身の剣士の予言もそれだ。その剣士は、捻り潰しても、焼き尽くしても、限りなく生き返ってわしに向かってくるはずだ」
というオドロームの言葉があり、オドローム自身はこの予言を相当信用しているからこその警戒心なのだと思われます。

その予言を破るために白銀の剣士にのび太を充てがったトリホーは、「剣士の出現は誰にも動かすことのできない定め」とした上で、「彼(のび太)は強い剣士にはなれても不死身にはなれません」『確かだろうな?』「絶対!」とオドロームに主張します。
のび太が竜を倒す前の状況でのトリホーのこの強気の発言は、トリホーがのび太の優しさを見抜いているからなのか、
また、それが白銀の剣士にのび太を選んだ理由なのだと考えられます。


■「白銀の剣士」について

元々の夢の世界に存在していたであろう白銀の剣士を含む夢幻三剣士や王女の行方も気になるところです。
のび太が白銀の剣士になれたのは、気ままに夢見る機のキャスティング機能のおかげですが、
白銀の剣はそれ自体が強さを内包している描写があります。


■妖霊軍の敗因について

妖霊軍の敗因の1つ目は、トリホー(および妖霊軍)が気ままに夢見る機の「隠しボタン(現実と夢を入れ替えるボタン)」の存在を知らなかったであろうこと、知っていたとしたらそのボタンの効果を侮っていたことです。
2つ目は、トリホー(および妖霊軍)が四次元ポケットの存在を知らなかったこと、またその脅威を侮っていたことです。
最終局面では、結果的に白銀の剣士(のび太)の実力ではなく四次元ポケットの存在が穴になった形となります。
トリホー(および妖霊軍)は元々夢の世界の住人であることから、ドラえもんおよび未来の現実世界への理解が当然ながら薄かったと考えられます。


■ラストシーンについて

原作では無事に現実世界に戻ったような描写がされていますが、映画版ではそうではありません。
「この夢は強いパワーを持っているので現実世界に影響することもあります」というソフトの注意書きや、
「隠しボタンを押した状態のままで気ままに夢見る機を回収された」と思われることから、
ラストシーンの奇妙な世界が「現実」なのか「夢」なのか「現実と夢の狭間」なのか分からなくなっています。
これについては諸説あるようですが、「現実世界においてのび太視点の夢の世界を重ねている」説がしっくりくる気がします。


■参考文献

1)藤子・F・不二雄:『大長編ドラえもん 14 のび太と夢幻三剣士』,(株)小学館,(1994.9.25)

*1:私の全ての考察は、「トリホーが夢の世界の住人である」ということが前提となります。

  • マーミン

    ラストシーンについて
    のところに「隠しボタンを押した状態のままで気ままに夢見る機を回収された」と思われることから、
    とありますが、隠しボタンは一度のび太のママが押して切り替えているはずです。

    そこで夢の世界が現実世界→現実世界は現実世界。夢は夢となり、ジャイアンとスネ夫のバッチを外しました。

  • id:poe_cbf

    >ラストシーンについて
    >のところに「隠しボタンを押した状態のままで気ままに夢見る機を回収された」と思われることから、
    >とありますが、隠しボタンは一度のび太のママが押して切り替えているはずです。

    のび太のママがボタンを押して切り替えた(現実⇔夢を元に戻した)後、シルクの呼びかけによって最終局面に入る前にドラえもんが再度ボタンを押しています。
    これより後にボタンが押された描写がないため、「隠しボタンを押した状態のままで気ままに夢見る機を回収された」と解釈しています。

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