施設に入所している他の子どもたちは、お盆休みや年末年始などは親元へ一時帰宅していた。しかし、林家のきょうだいだけは帰る場所がなかったので、施設で過ごしていたという。
長女は、高校卒業を待たずに施設を出て自活を始めた。次女は高校卒業と同時に施設を出た。そして、長男は高校3年の途中で施設を出て、長女の元に身を寄せた。一刻も早く施設を出たくなるような忌まわしい事件に巻き込まれたのである。
被害者側が語りづらい事件であるため、長い間伏せられてきたが、今回の出版にあたり、長男自身が詳細に語っている。
もちろん、子どもたちの居心地のよい施設もたくさんあるだろうし、子どもたちのために一生懸命働いている職員がほとんどだろう。
また、林家のきょうだいが、児相の一時保護施設や児童養護施設に入所していたのは、10年以上前のことである。
しかし残念ながら、その後もこうした施設内での職員による暴力や虐待が、たびたび報じられている。
例えば、長女が手紙で訴えているような「手紙のコピー」や「監視」といった人権侵害がいまだに行われていることを、6月18日付『朝日新聞』の「一時保護所 子の人権侵害 都の第三者委指摘」という記事が伝えている。
同記事には、児相の一時保護所に入所した子どもたちの「入所の時、下着まで脱ぐように言われ、裸にして調べられた。恥ずかしかった」「二度と行きたくない」「おしゃべりをするとすぐに『何を話したのか』と注意され、まるで刑務所みたいだった」といった声が掲載されている。
虐待などで傷ついた子どもたちが安心して過ごせる場所でなければならない児相の一時保護所や児童養護施設。その内実に目を向け、改善していかなければ、行き場のない子どもたちは、いつまで経っても救われない。
『もう逃げない。~いままで黙っていた「家族」のこと~』は、児相や養護施設内のヒエラルキーにおいて、最底辺におかれている「犯罪者の子ども」の視点から、施設内の実態を赤裸々に綴った一冊でもある。
(文中、敬称略)