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【社説】

台湾と米中 海峡の波を高くするな

 台湾総統選の与野党候補が固まった。米国が台湾への巨額な武器売却を決めたのに対し、中国は軍事演習で台湾をけん制した。総統選をめぐり、米中両国は緊張を高めるような行動を慎むべきだ。

 来年一月に予定される総統選で、独立志向の与党民進党は六月、再選をめざす蔡英文総統(62)の出馬を決めた。

 最大野党で対中融和路線の国民党は二十八日の党大会で、韓国瑜・高雄市長(62)を総統選候補に決定した。

 無所属候補も出馬を検討しているが、蔡氏と韓氏を軸とする選挙戦の火ぶたが切られたといえる。

 気がかりなのは、米中の動きである。米国は七月初旬、台湾に対して地対空ミサイルや戦車など計約二十二億ドル(約二千四百億円)相当の武器売却を決定した。

 台湾の蔡総統は中国を念頭に「外からの脅威阻止」と述べ、米国に感謝の意を示したが、中国政府は「中国の主権と安全に損害を与える行為であり、強烈な不満と反対を表明する」と猛反発した。

 間髪を入れず、中国は七月中旬に大陸南東部沿岸の海空域で軍事演習を実施。人民日報系の環球時報は「台湾独立派をけん制する狙いがある」と伝えた。

 むろん、台湾総統選では「中台関係」が歴史的に最大争点になってきたし、今回もそれは変わらない。だが、米中が自国に有利となる総統選候補を応援するため、台湾海峡の波を高くするような干渉をするべきではない。

 歴史を振り返れば、一九九六年に実施された初の民選総統選を威嚇するため中国がミサイル演習を強行。これに対し米国が空母を出動させ一触即発の事態となった。

 ただでさえ米中関係は貿易摩擦の火種を抱えており、中国が「核心的利益」と主張する台湾問題での米中対立は、一歩間違えば世界の発火点になりかねない。

 蔡総統は七月、訪問先の米国で「『一国二制度』の下で独裁体制と民主主義は共存しえない」と述べ、中国が台湾統一の手段と考える「一国二制度」を批判した。

 韓氏は「蔡政権では暮らしが楽にならない」と訴え、経済大国・中国との緊密さを強調している。

 「中台関係」で主張の違いはあれども、忘れてならないのは、台湾が民意により安定的に政権交代ができる社会を築いてきたことだ。台湾の人たち自身による将来の選択を、国際社会は温かく、静かに見守ることが肝要であろう。

 

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