オーバーロード 拳のモモンガ   作:まがお
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色んな裏側の話の詰め合わせです。
時系列は過去、現在、未来と結構バラバラです。


幕間 彼らの裏側

 カリスマ的な統治の手腕で人気絶頂の若き皇帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 そんな素晴らしく有能な皇帝は、元王国領の各所で起こったアンデッド襲撃事件の慰問としてエ・ランテルを訪れていた。

 そして皇帝が最初に向かったのはエ・ランテルの共同墓地――ただしこの地で亡くなった民の冥福を祈りに来たわけではない。

 護衛らしい護衛も付けず、豊かな白髪に長い白髭の老人だけを連れて真夜中にひっそりとだ。

 

 

「何者だ……」

 

「初めまして、稀代の死霊使い(ネクロマンサー)よ。バハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。単刀直入に言おう――」

 

 

 ――私に仕えないか?

 

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝に認められた者だけがなれる、帝国内で最高の騎士の証――帝国五騎士。

 その内の一人、少年騎士のクライムは皇帝ジルクニフに付き従い、エ・ランテルの街中を歩き回っていた。

 ジルクニフは擦れ違う人々に気さくに声をかけて励まし、多くの人々を魅了する皇帝スマイルを振りまいている。

 あまりにもフリーダムなスタイルの慰問だ。

 

 

「陛下、慰問とはいえ流石に護衛が少なすぎませんか?」

 

「どうしたクライム、私を守りきる自信がないか?」

 

「いえ、陛下の事は命に代えてもお守りいたします。ただ、抑止力という意味では陛下の側にいるのが私に一人というのは……」

 

 

 クライムはもちろん鎧や剣など、五騎士としてのフル装備を身に着けている。

 そして、一応付近にはクライムの先輩である五騎士の一人――"激風"ニンブル・アーク・デイル・アノックも潜んでいるのは聞いている。

 だが、ジルクニフの隣にいるのは本当にクライムだけだ。

 

 

「周りをゴツい騎士で固めるより、お前のような者だけを連れている方が印象が良い。民の反応を見ただろう? 上に立つ者は畏怖されるだけでなく、ある程度の親しみやすさがなくてはな」

 

 

 何も問題ないとジルクニフは笑っている。

 その笑顔は騎士としての自分を信頼しているのか、それとも他に秘策があるのか。

 余裕ある笑みを浮かべていない皇帝を見た事がないので、クライムには何とも判断が出来ない。

 何にせよ自分に出来る事は全力で護衛をする事だけだと、自身を鼓舞して気合を入れ直すのだった。

 そして、しばらくの間はジルクニフの赴くままに街中を遊覧していたが、いつのまにか辺りに人の気配がなくなっていた。

 

 

(おかしい、先程から人に出会わない…… 意図的に人払いがされている?)

 

 

 クライムが異変に気がつくや否や、前方から怪しげな二人組が現れる。

 派手な赤毛で煌びやかな服装の優男――何故か薔薇の香りがする――とフードを被った痩せ気味の男だ。

 

 

「皇帝ジルクニフだな」

 

「確かにそうだが、君は誰かな? 隣の彼も顔くらいちゃんと見せたらどうだい。他人の服装を否定する気は無いが、この天気でその格好は暑くはないのかな」

 

 

 不審者に対しても皇帝は余裕の態度を崩さず、不敵に笑みを浮かべている。

 

 

(あの男…… 一体何をしてるんだ?)

 

 

 優男も負けじと笑顔を浮かべているのだが、クライムが気になったのは隣にいるフード男の奇妙な行動だ。

 幻術がバレていないとでも思っているのか、剣を手に持ちカニ歩きでジリジリとこちらに近づいてきている。

 

 

「――その首もらったぁっ!!」

 

「陛下、お下がりください!! はぁっ!!」

 

 

 フード男による突然の不意打ち――しかし見えているため意味がない。

 クライムはジルクニフを庇うように前に出て、襲撃者を一刀のもとに斬り伏せた。

 

 

「――がはっ!? 馬鹿なっ、俺の幻術を、こんなガキが、見破っていたのか……」

 

「こういった時に備えてマジックアイテムを陛下より下賜されております。それに視界を封じられてもある程度戦えるよう、バジウッド様の無茶振り――訓練も積んであります」

 

「流石はバジウッドだ。弟子の教育がしっかり出来ているな」

 

「私は陛下の護衛ですから。暗殺に対する対策は万全を期しております」

 

 

 ここにはいない筆頭騎士を褒めつつ、クライムの見事な対応にジルクニフは満足げに軽い拍手を送っていた。

 命を狙われた側とは思えない気楽さである。

 

 

「見事な働きだったぞクライム。さて、貴様もかかってくるか? 八本指の警備部門、五人しかいない六腕の一人"千殺"マルムヴィストよ。我が騎士は優秀だぞ?」

 

「ふんっ、こちらの事を知っていたか…… だがサキュロントを倒した程度で自慢されても困るな。一人でヤレると言ったからやらせてみたが、そいつは六腕の中でも最弱だ」

 

「ああ、知っているとも。我が国は諜報機関も優秀な者が多いからな」

 

 

 仲間がやられたというのに優男――マルムヴィストの態度に焦りはない。

 一見強がりにも聞こえるが、本当は自分達の正体が掴まれていたと知らされてもなお、マルムヴィストの勝利を確信している顔は変わらなかった。

 

 

「遊びはここまでだ。別に俺はサキュロントと違って一人でやる事にこだわりはないんでね。さぁ、みんな出てこいよ。八本指最強の警備部門の力を見せてやるぞ!!」

 

 

 マルムヴィストが周囲に呼びかけるように声をあげるが、辺りは静まり返ったままだ。

 

 

「あ、あれ? おい、ペシュリアン!! エドストレーム!! ルベリナ!! 作戦はどうした!?」

 

 

 慌てたように叫ぶが、マルムヴィストの呼びかけに応える者は出てこない。

 

 

「……くくく、あははははっ!! まだ気づかないとは滑稽だな」

 

「なんだと!? 何がおかしい!!」

 

「貴様らの作戦など全てお見通しだ。ある人物のおかげで潜伏先も筒抜け――アジトは既に制圧された後かもしれんぞ?」

 

「くそっ、構うものか!! 今ここでお前を殺せばそれで終わりだ!!」

 

 

 マルムヴィストは持ち手が薔薇になっている変わったレイピアを抜刀し、自身の最も得意とする刺突の構えをとった。

 クライムも応戦しようとした時、背後から一人の騎士が現れる。

 

 

「後輩が頑張っているのに見ているだけなのも悪いですね。助太刀しますよ、クライム君」

 

「ニンブル様!? まさか、もう他の六腕を倒してこられたのですか」

 

「いえいえ、私は遊撃のポジションです。手が空いているので手伝いましょう。私も一人でやる事にこだわりはないので」

 

 

 ニンブルは丁寧な言葉遣いをしながらも、相手の言葉をわざと真似て皮肉を浴びせている。

 

 

「おいおい、ニンブル。後輩の見せ場を奪う気か?」

 

「そうおっしゃられますが陛下、先輩がカッコいい所を見せるのも必要かと」

 

 

 当たり前のように皇帝と話しているが、ニンブルもそんな理由で出て来たわけではない。

 マルムヴィストが使うのは掠っただけでも致命傷になる毒の武器である。

 そしてマルムヴィスト自身もサキュロントより剣士としてかなり強い。

 クライムといえど油断できる相手ではないので、自分も加勢して安全に二人掛かりで倒そうと思っただけだ。

 

 

「二人掛かりとか卑怯だぞ!?」

 

「集団で陛下を狙おうとしていた方の台詞ではありませんね。ではいきますよ、クライム君」

 

「はいっ――あっ、少々お待ちください」

 

 

 剣を構えなおそうとした瞬間、クライムが急に額に指を当てて動きを止めてしまう。

 連携しようとしていたニンブルは出鼻をくじかれ、とりあえず一人でマルムヴィストの相手をする事になった。

 

 

「お久しぶりでございます、モモンガ様。実は今は陛下の護衛中でして、八本指の手の者と戦っておりますので……」

 

「何? モモンガだと…… 待てクライム、会話を続行しろ。奴の相手はニンブルだけで十分だ」

 

「死ねぇ!!」

 

「陛下!? クライム君、早く戻ってください!! この男の刺突を一人で捌くのはっ、少々、大変、です!!」

 

 

 早々に〈伝言(メッセージ)〉を切り上げてくれるかと思いきや、皇帝陛下からまさかのGOサイン。

 想像よりも相手が強く、掠ったら終わりという緊張感もあってニンブルは必死になって攻撃を防いでいた。

 先輩の意地として勝てない、助けてくれとは口には出さなかったが。

 

 

「なっ、そのような貴族がいたのですか!? 許せません!!」

 

 

 陛下の命令――許可された事もあり、クライムは会話に夢中になっている。

 内容もそうだが、憧れの人と久しぶりに話せるともなれば多少は仕方ないのかもしれない。

 ニンブルにそんな事を考える余裕は全くなかったが。

 

 

「うぉぉぉっ!! 武技〈穿撃〉!!〈穿撃〉!!」

 

「くっ、〈要塞〉〈即応反射〉!! クライム君、戦闘中に余所見はいけません!!」

 

 

 切羽詰まった言葉はクライムに届かず、ニンブルはマルムヴィストの強烈な刺突を武技を使って紙一重で防いでいる。

 ――そうたった一人で。

 皇帝もクライムの会話の方が気になっており、ニンブルの孤軍奮闘っぷりは誰も注目していなかった。

 

 

「もう既に救出済みとは、流石モモンガ様です!!」

 

「くそっ、なぜ当たらない!! 騎士風情が、さっさと死ね!!」

 

「ニンブル、そいつの声がうるさい。さっさと倒せ。先輩としてカッコいい所を見せるのだろう?」

 

「陛下ぁぁぁ!! 状況を、お考えください!!」

 

 

 刺突特化のマルムヴィストに対して、バランスの良いスタンダードな剣術のニンブル。

 クライムの会話をよそに、二人の戦闘は苛烈を極めた――

 

 

「――はい、帝都に戻り次第対応させていただきます。それでは失礼します。――っは!? ニンブル様、申し訳ありません!!」

 

「い、いえ…… 良いんですよ。もう、倒しましたから…… ですが、次からは出来れば勤務中の〈伝言〉は切っておいてくださいね……」

 

 

 息も絶え絶えだが、ニンブルは見事に無傷――僅かでも傷があれば毒で死んでいるが――でマルムヴィストを倒すことが出来た。

 本当は後輩であるクライムに色々と注意したい――いや、むしろ陛下にこそ注意したい。

 そもそも〈伝言〉を続けろというのはジルクニフの命令なのだから。

 

 

(陛下はご自身に降りかかる危険に少々無頓着すぎますね…… それにしても敵の前であれだけ人の言葉を無視できるとは…… 彼は間違いなくバジウッドの弟子です)

 

 

 あの豪胆さはもう自分にはどうする事も出来ない。

 ニンブルは自分だけはしっかりしなければと、諦めの境地に達したのだった。

 

 

 

 おまけ〜フルアーマーバジウッド〜

 

 

警備部門の最強戦力、六腕の一人――"空間斬"の異名をもつペシュリアンは、アジトに乗り込んできた男と対峙していた。

 

 

「侵入者か。我が名は"空間――」

 

「スキありぃ!!」

 

 

 そして全身鎧ごと真っ二つにされた。

 

 

「やっぱ王国の秘宝はすげぇ切れ味だ。いや、今は帝国のだったな」

 

 

 かつて王国の五宝物と呼ばれた秘宝――『不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)』『守護の鎧(ガーディアン)』『活力の籠手(ガントレット・オブ・ヴァイタリティ)』『剃刀の刃(レイザーエッジ)』――これらを全て装備したバジウッドは、残りの六腕相手に無双していたとか。

 

 

 

 

 とある国の上層部――スレイン法国の神官長達が一堂に会する秘密裏の会議。

 人類のために頭を悩ませ続けている神官長達だが、ここ最近は喜ばしい出来事が多かった。

 竜王国のビーストマンによる侵略、エルフ国と法国の戦争など、法国が悩み続けてきた大きな問題が立て続けに解決されたのだ。

 アベリオン丘陵の亜人達や腐敗した王国など残っている問題も多く、全体として見れば人類が滅びの危機に瀕しているのは変わっていない。

 だが、帝国が王国を併呑するのはもう間もなくだろうという事もあって、会議をする面々にも多少の余裕が見られた。

 このまま上手くいけば、帝国から人類を救う多くの勇者――亜人や異形種の脅威に立ち向かう存在が生まれてくるはずだと。

 

 

「――帝国の闘技場で確認されている『モモン』と名のつく者達だが、彼らはやはり神人ではないのかね?」

 

「六大神の血かどうかは分からん。『大罪を犯した者』の子孫かもしれん。そもそも数が多すぎるぞ?」

 

 

 現在議題に挙がっているのは、帝国の闘技場で正体不明の強者が出場している事だ。

 未確認の神人――ぷれいやーの血を引き覚醒させた者――かもしれないと、一部の神官長達は考えていた。

 もし本当にそうなら、是非とも法国で管理しなければならない。

 だがその強者は一人ではなく、予想外な事に大勢いるのだ。

 一人だけならば積極的に引き抜き――人類を救う仲間として法国に勧誘するのだが、それが複数人ともなれば、その血筋にかかわらず対策を考える必要が出てきた。

 

 

「もしかしたら『モモン』とは襲名ではないのか? 神の血を引く者達の集団があり、そこで力を持つものは『モモン』の名を名乗る。闘技場でその力を示すのは一種の儀式なのでは……」

 

「待て、そもそも『モモン』の強さは本当に漆黒聖典の隊員に匹敵するほどなのか? タレントによる調査では難度不明とあるが」

 

「試合を観戦した風花聖典による報告だが、第一席次はともかく、他の隊員には匹敵しうるとある。タレントによる探知を防げるからこそ神の血を引く者――特殊な出自の可能性は高いと考えられるな」

 

 

 生まれながらの異能(タレント)による調査――法国の特殊部隊には相手の難度を測定できるタレント持ちがいる――が出来なかった以上、あとは実際に見て判断するしかない。

 だが、闘技場に出場した『モモン』達は全員の戦闘スタイルがバラバラで、魔法詠唱者(マジックキャスター)まで混ざっている。

 それに加えて情報収集、諜報工作を主な任務とする風花聖典では、強さの格が離れ過ぎていて正確には判断しきれなかったのだ。

 

 

「いずれにしてもその者達の強さを特定する事は必須事項だな。味方にするにせよ、敵になるにせよな……」

 

「然り。強さ次第で交渉方法も変わってくる。相手が集団ともなれば尚のこと慎重にいかねばならん」

 

「ならば戦闘の事は戦闘のプロに任せるしかあるまい」

 

 

 法国の最高戦力の一つである神人――漆黒聖典の隊長を務める第一席次に直接見てもらい、自分達より本当に強いのか判断する方向で意見はまとまった。

 だが不定期に現れる『モモン』が出場するのを待ち、第一席次を帝国に留まらせ続ける事は他の任務もあって流石に出来ない。

 帝国に送り込むよりもマシという判断で第一席次を法国内に待機させ、『モモン』の出場が判明したら巫女姫――『叡者の額冠』を使った大儀式を行い、魔法による遠隔視で闘技場を観戦することが決まった。

 

 

「第一席次よ、戦力の判断はお主に任せる」

 

「畏まりました」

 

 

 そして数週間後、現地に潜ませてある工作員からの連絡により、その機会はやってきた。

 儀式を行う神殿に第一席次は呼び出され、『モモン』の強さを測る任務を言い渡される。

 ちなみに神殿には本来なら女性しか入れず、衛兵も女性のみで構成されている。

 しかし、今回は任務のための特例として、男である第一席次も入る事が認められていた。

 

 

「では、儀式を始める。第八位階魔法〈次元の目(プレイナーアイ)〉を発動せよ――」

 

 

 複数の巫女が巫女姫に魔力を注ぎ込み、通常では使う事が出来ない――自身の扱える限界を超えた魔法を発動させる。

 ――しかし何も起こらない。

 本来なら魔法の投射映像が映し出される筈なのだが、巫女姫の前には闘技場の様子も何も映らない。

 前代未聞である儀式の失敗に、周囲の衛兵達からも動揺が走り――

 

 

 ――突如神殿は大爆発した。

 

 

 爆発の規模はかなり大きかったが、幸いにもその場にいた者は全員軽傷で死人もいない。

 爆発の中心にいた巫女姫ですら軽傷なのは不思議に思われたが、これも神の思し召しだとこの奇跡に誰もが感謝した。

 だが、第八位階の魔法を完全に防ぎ、あまつさえ遠距離から魔法でカウンターを行うなど、常人には不可能――帝国の大魔法詠唱者フールーダ・パラダインでさえ無理だと思われる離れ業である。

 これにより『モモン』と名のつく者は危険な存在――法国にとっては敵であるとの見方が神官長達の間で強くなった。

 

 

 

 ラナーのなんでも相談所――それはエ・ランテルの片隅で、ひっそりと事務所を構えるお店の名前だ。

 そこに相談すればどんな問題も瞬く間に解決してくれる。あるいは有益な助言が貰えると、一部の人間達の間で噂になっている。

 現在その事務所兼ラナーの自宅の一室では、まるで黄金のような輝きを放つ美しい少女が友人とお喋りをしていた。

 

 

「意外と元気そうで良かったわ。それにしても、ラナーも珍しい仕事を始めたわね。でも頭のいい貴方にはピッタリの仕事ね」

 

「ありがとう、ラキュース。私に力仕事は向いていないから、自分でも天職だと思ってるの。お姫様よりもね」

 

 

 ラキュースは友人であり元リ・エスティーゼ王国の第三王女――ラナーが新しい仕事を始めたと聞き、心配して様子を見にきていた。

 王国が帝国に併呑された時はどうなるかと思っていたが、新たな道を進んでいる友人の元気そうな姿を見てラキュースは心から安心していた。

 

 

「でも忙しそうね。それは仕事の依頼かしら?」

 

 

 ラキュースが目を向けた先には、大量の紙束が乱雑に積まれてあった。

 そしてその横には対照的に、綺麗に整えて置かれている手紙が並べてあった。

 これ全てが相談内容だとすれば、かなりの数の依頼が来ている事になるだろう。

 

 

「そんな事ないわよ。あっちは商人とか領主が商品や運営について聞いてくるだけだもの。一度目を通して解決策を書いて届けたら終わりよ。でもそうね、隣のものは難しいわ……」

 

 

 ラナーは簡単に言うが、その時点でかなり高度な依頼ではないのだろうか。

 それをいとも簡単に解決しているのだから、流石ラナーである。

 

 

「貴方ですら難しいなんて…… 私にはきっと想像も出来ない事なんでしょうね」

 

「確かに、経験のないラキュースには難しいかも……」

 

「仕事では力になれないかもしれないけど、手伝える事があったらなんでも言ってね」

 

 

 そして、そのラナーですら簡単には解決できない問題。仕事の都合上聞いてはいけないのだろうが、ラキュースはほんの少し気になってしまった。

 だが――

 

 

「――あっ、そっちは仕事じゃないのよ。仕事なんかよりもっと大切なもの――大切な方からのお手紙です!!」

 

「……えっ?」

 

「モモンガ様からのお手紙なんだけど、なんてお返事をしようか迷ってしまって……」

 

 

 ――全然仕事じゃなかった。

 しかも割と簡単な事の様に思えてしまった。

 

 

「モモンガ様って、私も知ってるあの仮面の人よね? どうして貴方に手紙なんか……」

 

「お友達がいなくて寂しいです。私もお友達と手紙を送りあったりしてみたかった…… って言ったら届けてくださいましたよ?」

 

「ラナー、私貴方に手紙書いた事あるわよね?」

 

 

 そして、ヒドイ。

 友人は環境の変化からか、少し小悪魔になってしまったようだ。

 

 

「はぁ、まぁいいわ。でもモモンガさんの書く手紙って気になるわね。どんな事が書かれているの?」

 

「知りたい? そんなに知りたいの? しょうがないわね、ラキュースは。特別よ?」

 

 

 ラキュースは軽い興味から聞いたのだが、友人はニヤニヤしながら手紙を見せてくる。

 渡された手紙には日常的な事が書いてあったが、想像よりも女の子らしい字で書かれていた事に驚く。

 

 

「これってもしかしてツアレさんが書いたんじゃないの?」

 

「恐らくね。でもほら、名前の部分も見て」

 

 

 ラナーが指をさした送り主の部分には、不恰好な字で『モモンガ』と書かれていた。

 

 

「モモンガ様はこの辺りの出身じゃないから、王国語が書けないのでしょうね。それでも名前の部分は自分で書くって、最高だと思うでしょ?」

 

「え、ええ、そうね…… でもどうやって返事を届けるの? モモンガさんは旅人でしょ?」

 

「そこは私の計算でどうとでもなるわ」

 

 

 ラナーが自慢げに話してくるが、正直ラキュースにはイマイチ理解できない感性だった。

 そんな自身の様子を感じ取ったのか、目の前の友人が盛大に溜息をつく。

 

 

「はぁ、この手紙の良さが分からないなんて。ラキュースはお子様ね。そんなんじゃいつまで経っても装備品が変わらないわよ?」

 

「私はまだそんな焦る年齢じゃないわよ!?」

 

「本当に? そんな鎧で大丈夫?」

 

「大丈夫よ、問題ないわ!!」

 

 

 一応ラナーの方が年下なのにこの言われようである。

 しかも冒険者をやっているとはいえ、実際に自分はまだ若いのだ。

 それに自分の着ている鎧はとても性能が良いものだ。何も問題なんてない。

 

 

「普段あれだけ妄想してるのに…… 危機に対する想像力が足りてないわよラキュース?」

 

「ちょっとそれどういう事よ!?」

 

 

 二重の意味で恐ろしいツッコミをされ、ラキュースは慌てふためいたのだった。

 二人の美少女によるガールズトーク――ラキュースはラナーにとって『使える駒』から『弄りがいのある相手』に変わっている事に気がつかない。

 もちろんラナーも意識しているわけではなかった。

 

 

 




有能な皇帝「私に仕えればフールーダと研究も出来るぞ」
かじっちゃん「乗った。母を生き返らせるにはその方が早そう。八本指の情報はこれじゃ」
有能な皇帝「計画通り。これでアンデッド事業も捗る。我が覇道を阻む者なし!!」
変態の古田「この宝珠は凄いイィprprpr!!」

クレマン「神殿を遠距離爆破ってマジか。『モモン』って奴ヤベェ…… 会ったら即逃げよ」




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