アルベド、推理小説を書く 作:ろろろろ
モモンとして泊まっている宿の一室で、アインズは本来の姿に戻り、ベッドに座って考え事をしていた。しばらくしてふと立ち上がり何気なく下を見たとき、布団が骨の形にへこんでいるのを発見し、流れないはずの冷や汗がとめどなく流れるような恐怖に襲われた。名探偵はこういうささいなところから真相にたどりつくのだ。この世界に名探偵がいるかどうか知らないが。
アインズがこの話をナザリックでしたところ、シモベたちは推理小説とは何なのかが分かっていないことが判明。アインズが説明がてら、かつて推理小説を楽しんだことがあると言ったのがきっかけで、シモベたちの間に推理小説ブームが起こったのだった。
そんなある日、アルベドが自分でも書けそうな気がすると言い出した。確かにアルベドの優秀な頭脳をもってすればそうかもしれない。しかしアルベドが下手に全力を出した場合、難解な数学的トリックに満ちた作品が出来上がってくる可能性がある。そんなものの感想を求められたら困るので、アインズは釘を刺しておいた。
「アルベドよ。言うまでもないが、賢い者も愚かな者も、共に楽しませるような小説を書くのが作家の腕の見せ所だ。難解すぎるトリックで、一部の優れた者だけが楽しめても娯楽としては失格だぞ?」
「承知いたしております。きっと、シャルティアでも分かるような作品を仕上げてごらんにいれます」
そして作品は完成した。モモンとして忙しかったアインズと、牧場につめていたデミウルゴスより先に他の守護者とプレアデスたちが読んだが、誰も真相を見破ることができなかった。
一同がそろったところで、まずアインズは、デミウルゴスに先に読むことを命じた。デミウルゴスの反応を見てからでなければ、うかつに自分の感想を言えないと思ったからである。
「ではまず私が読ませていただきます」
そう断ると、デミウルゴスはアインズが引くほどのものすごいスピードでページをめくる。そして残りページもわずかになったところで、その手がぴたりと止まる。一分、二分。そのまま五分が過ぎようかというとき、デミウルゴスはつぶやいた。
「分かりませんね……」
そしてまた、残りのページをめくりだす。するとデミウルゴスの目は驚きに見開かれ、その口から予想外の言葉が漏れ出た。
「なんと背徳的な……」
あのデミウルゴスが背徳的と表現するとは、アルベドはいったいどんなものすごいものを書いたのか。アインズが不思議がっているうちに、デミウルゴスは読み終わりきっぱりと言った。
「傑作です」
アインズはこれを聞いて、実に気楽になった。これなら真相が見破れなくても主人として恥ではない。素直に読んで、普通にほめればいいだけだ。
アインズはうきうきと読み始めた。おお、密室殺人か。……ん?
デミウルゴスとアルベドはいぶかしんでいた。アインズが不自然な個所で考え込んでいるからである。アインズが開けているページは、だいたい第一の殺人のあたりである。まだ密室の状況が説明されただけで、推理の材料はほとんど出ていない。それはこの後の聞き込みのシーンで出てくるのだ。
しかしアインズは動かない。偉大なる支配者の感情はシモベごときには読み取りがたいが、困惑しているように二人には思われた。
「まさか」
デミウルゴスとアルベドは、ある予感に胸を震わせる。そしてそれは的中した。
「あー……このトリックなんだが……ひょっとして……」
アインズはトリックの核を、いとも簡単に言い当てたのだった。デミウルゴスをはじめ、誰もが見破れなかったものを、いとも簡単に。その端倪すべからざる叡智に触れた一同は、歓喜の涙とともに、至高の頭脳をたたえたのであった。
アインズは例によって困惑していた。
(いやいやいや! ギルドの旗を踏んづけないと部屋に出入りできないから実質的に密室だとか言われても! そんなもん普通に出入りできるだろ!)
なお、ベッドに骨の跡がつく問題については、クッションを使用することで解決した。といっても、ユグドラシル産のクッションは見るからに高級すぎて人目を引いてしまうので却下した。実はシモベたちは最近実験的に現地の材料でいろいろなものを作っているのだが、その一つとしてクッションがあったのだ。座ってみるとなかなか快適で、ユグドラシル産のものに迫る品質である。何より、腰を上げるとすぐにへこんだ跡が消えるのがいい。アインズは宿の一室でこのクッションに座りながら、これで名探偵に家探しされても平気だな、と喜んでいた。
ちなみにクッションの中身は羊の骨粉である。さらさらしていて座り心地がいいが、名探偵に見つかったら一発アウトである。