ラブドール奪還・八潮秘宝館館主の執念“誘拐犯”に賠償金支払い命令

2019年07月26日 16時00分

勝訴し、ラブドールと一緒に街宣する兵頭氏

 奇妙な“誘拐事件”が決着! 2016年6月に岩手県の山中で、「八潮秘宝館」(埼玉県八潮市)館主が撮影のため置いていたラブドールが盗まれた事件で、館主が窃盗犯を相手取り、損害賠償を請求した訴訟の判決が、このほど埼玉・越谷簡易裁判所で言い渡され、中川翔吾被告(27)に対し、賠償金131万円余りの支払いを命じた。ラブドールは同被告がネットオークションに出品したことで足がつき、昨年9月、館主の元に戻ったが“完全勝訴”までには館主の並々ならぬ執念があった。

 越谷簡易裁判所は“ラブドール誘拐犯”中川被告に対し、窃盗罪に加え、ラブドールに対する“傷害”ともいえる器物損壊罪、盗難品を売却する際に繰り返し行った詐欺行為も認めた。

 事件は、16年6月29日、岩手県の山中で「八潮秘宝館」館主・兵頭喜貴氏が所有するラブドール4体(ほかに頭部が6個)と衣装類など(計約260万円相当)が何者かに盗まれたもの。17年8月になって、盗難品とおぼしき人形の頭部が、ネットオークションで販売されているのを兵頭氏の友人が発見。同オークションを通じて中川被告からラブドールの頭部を購入した人物からの情報提供があり、同被告の事件への関与が明らかになった。

 当初、岩手県警は熱心に捜査を行っていたが、陣頭指揮を執っていた刑事係長が人事異動後、事件は放置された。業を煮やした兵頭氏は18年8月末、ブログやSNSを利用して事実を発信し続けた。その結果、昨年9月、盗難品の一部を奪還することに成功した。県警が中川被告から押収した盗難品を兵頭氏の自宅まで持ってきた。

 ところが、ここから不可解な流れに――。

 県警は中川被告の検挙も刑事処分も行わなかったため、兵頭氏はさらなる手段に着手。県警に対し、自力で民事訴訟を起こし、街宣車を造り、ネットとSNSを駆使し、人形泥棒と警察に対して怒りをぶつけた。街宣車は東京・渋谷や新宿にも出動。そんな中、まさかの神風が吹いた。

 県警が中川被告を検挙。同被告は犯行を自供し、弟も共犯だったことが判明する。当初は、盗難品を「フリーマーケットで購入した」と主張していた同被告も、窃盗犯であることを認めた。

 これを受け、兵頭氏は今年3月、中川被告を相手取り、損害賠償請求訴訟を提起。24日に下された判決では、同被告に賠償金131万1640円の支払いが命じられた。

 兵頭氏は「これでようやく、奪われて売り飛ばされたり、ボロボロになって戻ってきたりした人形、そして中川被告の不法行為に苦しめられていた人たちのあだ討ちができました。悲しいことも、つらいこともたくさんありましたが、皆さまの協力と支えがあって、ここまでこられました。県警も最後は意地を見せて本当によくやっていただき、今は感謝の気持ちしかありません。前科(兵頭氏は中川被告に名誉毀損で刑事告訴され、近々処罰される見込み)は付きますが、不法行為に屈しなかった勲章だと思っています。自分が処罰されることで、日本が法治国家であることが証明される。それが一番の成果です」と語る。

 勝訴で一連の事件が終わったわけではない。兵頭氏は今後についてこうも話す。

「今回の賠償請求は全体の半分です。残り半分の請求は、共犯の弟に対して行うつもりです。犯罪一家の資産状況の調査、強制執行の手続きなど、やることはたくさんあります。刑事罰として私に科せられる罰金は、クラウドファンディングで集めた資金でまかなうことを検討しています」

 執念のラブドール奪還と完全勝訴劇となった。