日本など八つの国と地域で水産資源を管理する北太平洋漁業委員会(NPFC)は、サンマの漁獲枠を設けることで合意した。上限は年間計五十五万トン。この数字、甘いか、苦いか、しょっぱいか。
北太平洋のサンマは、黒潮に乗って北上し、千島列島沖で反転、プランクトンの豊富な親潮に入り、脂肪を蓄えながら、八月には根室から釧路沖、九月下旬から十月にかけて三陸沖に南下する。「秋刀魚(さんま)」の季節、到来である。
だがもはやサンマは日本だけのものではない。ロシア、韓国に続いて一九八〇年代の終わりに台湾が漁獲を始め、数年前に中国が本格参入、北海道のはるか東の公海上に冷凍設備を完備した一、〇〇〇トン級の大型漁船を連ね、“先取り”を続けている。台湾は日本を抜いて、世界一のサンマ漁獲大国だ。
このため、日本の排他的経済水域(EEZ)まで到達する魚群が激減、主に近海で操業する日本の年間漁獲量は約十万トンと、ここ数年で半分にまで落ち込んだ。
欧州連合(EU)も北太平洋への進出をうかがっているという。健康志向の魚食文化はすでに世界に広がった。
日本はNPFCの設立(二〇一五年)を主導し、漁獲量の制限を提唱してきたが、「資源減少の科学的根拠がない」とする中国などの反対で、実現に至らなかった。
しかし、NPFCの科学委員会がこの四月、「資源量(百三十万トン)は過去四十年間で最低」と、激減を裏付けたため、中国も歩み寄り、漁獲枠の設定には同意した。ただし、各国の参加が最優先。漁獲枠には余裕を持たせ、計五十五万トンという上限は、昨年実績の約四十四万トンを大きく上回る。甘過ぎるということだ。
国別漁獲割り当ての検討は、先送り。監視体制を整えるのもこれからだ。サンマ漁の持続可能性は、不確かなままである。このままでは近い将来、どの国も、苦い思いをすることになりかねない。上限の引き下げは必須だろう。
海は、人間のために無限の“幸”を生み出す、打ち出の小づちのようなものではない。
不漁の原因は、外国船による“爆漁”だけではないらしい。
サンマは温かい水を嫌う。日本近海の海水温が高くなり、サンマの群れが近寄れなくなったためでもあるという。
秋の味覚を守り抜くには、地球温暖化対策も、急がなければならないということだ。
この記事を印刷する