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【社説】

日韓WTO 冷静に話し合い解決を

 輸出規制を巡る日韓の対立が世界貿易機関(WTO)の議題となった。これ以上、深刻化させてはいけない。両国はしこりを残しかねない紛争処理ではなく、話し合いでの解決を目指すべきだ。

 日本政府は今月四日、韓国の輸出管理体制の脆弱(ぜいじゃく)さから、安全保障上「不適切な事案」があったとして、軍事利用もできるフッ化水素など三品目の輸出規制を強化した。八月中には韓国を輸出先として信頼する「ホワイト国」から外す方針も示している。

 これを元徴用工問題での経済報復措置と受け止めた韓国は、自由貿易秩序に反すると主張。二十四日、WTO一般理事会が議題として取り上げたが、両国の主張は平行線をたどった。

 日本政府は安全保障が目的の貿易管理上の措置で、これまでの優遇措置を通常に戻すだけと説明。報復措置ではないとしている。

 ただ不明確な点や疑問がある。

 例えば「不適切な事案」とは何か。先々週の事務レベル協議で、日本側は「第三国への横流しを意味するものではない」としたが、それ以上の説明がない。WTOが貿易制限を認めている自国の安全保障に直結するような問題があったのか。明確にする必要がある。

 最大の疑問は、今回の措置が元徴用工問題での報復かどうかだろう。政府のちぐはぐな対応が疑念を生む原因となった。

 日本政府は当初、首相、官房長官、経済産業相が元徴用工問題を巡る日韓の政治的な軋轢(あつれき)が背景にあると示唆していた。ところが「貿易措置の政治利用だ」「自由貿易の理念に反する」と批判を浴びると方針を転換した。

 韓国はWTOに提訴する準備を進めている。裁判に当たる紛争処理の手続きに入った場合、日本の主張には合理性があり、有利との見方がある。

 一方、日本の主張は盤石とはいえず、韓国有利との見方もある。

 WTOは安全保障を理由にした貿易制限の乱用を警戒している。また、政府の一連のちぐはぐな対応が、貿易措置に政治的思惑を絡めた「政治利用」と判断されれば、日本に厳しい結果となる可能性がある。

 WTOでの紛争処理は決着に二年以上かかるとみられる。その間、日韓の対立は続き、国民感情は悪化しかねない。どちらが勝っても深刻なしこりを残すことになるだろう。紛争処理ではなく両国の話し合いで解決の糸口を見つける必要がある。

 

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