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国家特級拷問士リョナ子さん 作者:琴宮類
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レベル7の執行を開始します。

 あのね、誕生日なの、の続きです。

 この日、ある一人の犯罪者への執行が行われようとしていた。

 執行されれば、制度確立後の最高レベル。


 54件の殺人罪。

 複合でレベル25に認定。


 数多くの少女を解体し、パーツごとに細かく分類。

 一つ、一つを組み合わせ。

 一体の人形を制作。


 確保された時、その人で出来た人形はほぼ完成されていたが。

 それを拒むように、両目だけが入れられていなかった。

 知能は並外れて高く、残忍さも桁違いに高い。


 その異常連続殺人鬼の名は。


 通称、ドールコレクター。


 それに対応するは、現在執行庁全体で10人しかいない特級拷問士の一人。

 カリスマ拷問士を師に持ち、全てを受け継いだ女。

 史上最年少で、その頂きに登った天才の名は。


 特級拷問士、リョナ子。



 こんにちは、リョナ子です。


 今日は、流石に早起きしたよ。ていうか眠れなかった。


 ついにこの日が来たんだね。

レベルブレイカーへの執行はただでさえ気が張る。

 その中でも、あの子はまた別格で、特別だから。


 彼女への執行はすでに二度行っている。

 今日で3度目。

 当初あった25のレベルは二度の執行と、彼女自身の功績によって軽減され。

 今現在、レベルは7。


つまり、最後って事。



 定刻。午前10時。

 使用する道具をチェックしていると。


 来た。


 僕には分かった。


 ゆっくりと近づいてくる。


 本来、執行を受ける犯罪者は職員に拘束されここまで運ばれてくる。

 レベルブレイカーなら尚更だ。身動き一つ取れないほどガチガチに固められる。


 でも、彼女は違った。

 自分の脚で。

 自分の意志で。

 一人でここまで来るんだ。


 足音が途絶え。

 ノック後、扉が開いた。


「うふふ、久しぶり、リョナ子ちゃん」


 彼女はいつものように微笑んでいて。


「久しぶり、葵ちゃん」


 僕もいつものようにそっけなく返した。



 ベットに横たわらせる。

 彼女は素直に従った。


「なんだか、ひどく懐かしいねっ」


「・・・・・・そうだね」


その一言で、記憶が蘇る。

 一番、最初に葵ちゃんを執行したときは。


  ただ、ただ、怖かった。

目の前にいる彼女がどうしても人には思えず。

 つねに、死が纏わり付いて。


 あんな事、拷問士になって初めてだったよ。

 あの時、僕はすでに特級だった。

 淡々とこなしてはいたものの、その実、心では恐れていた。



「執行をはじめます」


「はい、よろしくだよぉ」


 さて、なにからはじめようか。

 レベル7は今日では終わらない。

 最低、一週間続く。


 始まるのだ、これから一週間あまり。


 二人だけの時間が。


「あ、できれば最後までリョナ子ちゃんを見ていたいから、目は最後がいいかなぁ」


 葵ちゃんのような連続殺人鬼は、余罪がある場合が多い。

 執行中にそれを語る犯罪者も多いため、口は最後なんだけど。


「そうかい」


 僕はスプーンを手にとった。


「なら、最初は目にしよう」



〈お仕置き中〉



「あ、ああ、ひ、酷いな、うふふ」


〈お仕置き中〉


「い、い、さす、がに、痛、い、ねぇ」


「そりゃ、それが目的だからね、できるだけゆっくりやるよ」


 葵ちゃんの口元が緩む。


 腕を上げると、その先にあるスプーンには(あれがあーなってる)。


 〈規制中〉。


「あぁ、真っ暗・・・・・・」


 光を奪われ、今の葵ちゃんの視界には何が映っているのか。


「次は、右手に移ろう」


 スプーンを置いて、ペンチに切り替える。


「まず、(あれをこーして、さらにあーして、そんでもってあーして)その後、腕に移行」


 右手だけで一日以上かけるつもり。

 付け根をしっかり止血帯で縛る。

 固定するか、いっそ、動かないように関節を外しておこうか。

 靱帯は伸びきり、それだけで激痛が起こる。


 二日目。


 葵ちゃんの右手は無くなった。以前の執行で左手はもう無いので、これで両腕が失われた事になる。


「今日は、右足だ(あーしてこーしてそーしてあーする)」


「うふふ、今日もよろしくねぇ」


 普通なら1日目で、憔悴しきるのに、葵ちゃんはいつもと変わらず笑っていた。


〈お仕置き中〉


「ぁあ、い、たい、はぁっあはぁ、すごく、痛いよぉ」


「それは良かった」


〈お仕置き中〉


 こと、拷問に関しては、外傷性ショックと心因性ショックには特に気をつけなくてはいけない。


 葵ちゃんの体が逸れる、痛みから逃げようと無意識に反り返る。


「いい、痛い、はあかあ、いい、いいよ」


 肉屋で陳列されているようになったその脚を。


「(あーしてこーしてそーしてあー)けよう」


 その前に、リョナ子棒で充分に打撃を与える。別に柔らかくはならないけどね。


 三日目。


 葵ちゃんは、両あれと両あれを失った。


 腕は肩から、両足は股関節から先が無い。

 その日の執行後、専門の医療チームがすぐに適切な処置を施している。

 四日目はそれがずれ込んだものの、その間、痛みは絶え間なく続いている。

 こうして頃合いを見ながら、治療も同時に行う。


 五日目。


「今日は、中身に手を出そう。まず下から、どんどん上にあげていく」


〈超お仕置き中〉


 六日目。


〈超お仕置き中〉


「ああ、変な、か、感じ、なにしてる、のかなぁ」


「君の(あーだこーだ)いてるのさ」


「そ、それ、見たかったよぉ・・・・・・」


 他にも。


 抜いて、剃って、吊って、剥いで、締めて、潰して、千切って、抉って、破って、縫って、開けて、捻って、刺して、責めて、責めて・・・・・・。


 七日目。


「今日は、顔にいくよ。最終的に口に至る。今のうちに言う事はあるかい?」


 さすがの葵ちゃんも、ここまで来ると、口数も減っていた。

 呼吸だけが大きかった。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・あ、あのね、リョナ子ちゃんに、お、お願いが、あるの」


 力を振り絞って喋ってる。


「・・・・・・一応、聞いておくよ」


「う、うん、私の・・・・・・」


 息を深く吸い込んで。


「最後の、お願い」


 彼女は、願いを僕に伝えた。


〈超お仕置き中〉


「ああ、あああああ、ああああああああああ」


〈超お仕置き中〉


「いいいああ、あいああたああいいい」


〈超お仕置き中〉


 最後の最後で、口への執行を開始。


〈超お仕置き中〉


 舌を(あーだこーだすれば)口は終わり。

 なのだけど・・・・・・。

 ずっとくすぶっていた疑問が気にかかる。


「・・・・・・葵ちゃん、最後に聞いていいかな?」


 手を止めた。


 葵ちゃんは、僕からの執行を望んでいた。


 それは果たして罰になるのか。


 多数の少女の命を弄び奪ったこの子を。


 至福の中、死なせることが。


「・・・・・・な、な・・・・・・に、か、な?」


 全部の力を出し切って。

 それでも、僕に答えを。


「今の君は、以前の死を恐れず、死を求める、ただの死にたがりのまま?」


 激しく胸を上下させて。

 搾り取るように。


「ううん、実は・・・・・・ね、私・・・・・・」


 可愛らしかった葵ちゃんの面影はもう皆無。

 両目はなく、鼻も無く、耳も無く。


 でも、その表情は儚げで。


「し、死に、たくない・・・・・・」


 切なく眉を下げて。


 以前なら絶対言わない事を口にしていた。


「・・・・・・それが聞けて良かった」


 誰かが、この化け物を変えたんだ。

 多分、僕は知っているのだけど。

 色んな意味で感謝してるよ。


「君は沢山の人を殺したけど、同時にその何倍もの人を救っただろう。それは間接的でも無意識だとしても事実は事実。そして、僕自身、何度も君に助けられた」


 だから、最後に言葉を贈ろう。


 国家特級拷問士としてではなく。

 君の・・・・・・として。


「ありがとう。今度はまた別の形で会いたいよ」


 もう聞こえているのかも分からなかったけど。


「わ、私も・・・・・・」


 あぁ、届いていた。


「あ、り、が、とう」


 そう言った葵ちゃんの顔は。


 微笑んでいて。


 いつも僕に向けるような。


 たしかにそう見えたんだ。 



 舌への拷問を終え。


 リョナ子棒をしっかり握る。

 力一杯。


 彼女を見下ろして。


「・・・・・・さようなら、君の事は、大嫌いだったけど」


 嫌いじゃなかった。


 様々な感情をのせて。


 何も変わらない、いつも最後はこう。


 高く掲げたリョナ子棒を。


 振り下ろすの。 



 こうして、一週間に及ぶ執行が終わりを告げた。


 僕は、この執行で、さらに一段階高みに達したと思う。


 終了を伝えると、職員数名が部屋に駆けつける。


 後片付けだね。


 葵ちゃんの肉片が、ビニールに無造作に詰め込まれていく。

 身内のいない葵ちゃんの死体は、このまま埋葬されることなくゴミのように捨てられる。


 床の血だまりの中、葵ちゃんが髪につけていた黒い四つ葉のクローバーが見えた。

 拾い上げて。


 目を瞑った。


「・・・・・・ちょっと待って。死体は丁寧に扱って。ちゃんと埋葬する」


 僕がそう言うと、職員達は顔をしかめた。


「え? いえ、書類上で、この罪人には身内はおりませんが・・・・・・」


 そうだね、正式な家族はいないけど。


「彼女には、妹がいるよ」



  数日後。



 僕は、ある街の駅改札口に。


 蓮華ちゃんから聞いたんだ。


 ここにいれば会えるって。



 目的の人物が、改札を通りこちらに近づいてきた。


「ん、あれ、リョナ子さんじゃないですか」

「え、うそっ、本当だっ、わぁ、どうしたんですか?」


 制服を着る、二人の男女。

 僕に気づいて、こちらに歩みよってきた。


「うん、君達にちょっと用があったんだ」


 伝えなくてはならないことがあった。


「僕が、葵ちゃんの執行をした事は知ってるよね?」


「・・・・・・ええ、結構話題になってましたしね」


 僕が君達の素性を知っているかどうか、そっちには分かってないよね。


 それはこの際どうでもいい。


「その時にね、彼女に頼まれたんだ」


 葵ちゃんの最後の願い。


「もし、切り裂き円の執行が決定したら、その時は僕に執行して欲しいってさ」


 その願い。


「僕は、全力で叶えてやろうと思う」


 相手の目をしっかり見て、宣言した。


「・・・・・・そうですか、ですが、なぜ、それを僕に?」


 決まってるじゃない。

 葵ちゃんは、こう言ってるんだよ。


 切り裂き円には手を出すなって。


「さぁ、何でだろうね」


 僕が切り裂き円の執行をすると言えば、君達は円に危害を加えるどころか、逆になにがなんでも生かそうとするだろう。


「・・・・・・よく分かりませんが。あれですよ、切り裂き円が執行をされる事はないでしょう。そんなの彼女が許しません。手は色々と打ってるはずです」


 僕もそう思うけどね。


「ドール、いや葵さんは、切り裂き円に自分の未来を託したんです。一緒に生きるつもりでしょう」


 シストくんが背を向けた。


「でも、まぁ、肝に銘じておきますよ」


 僕から離れていく。


「あぁ、おにねー様、待ってっ! ああ、せっかくリョナ子さんに会えたのにー、またっ! 今度こそお勧めの本教えてくださいねっ!」


 妹の方も名残惜しそうに後を追った。


 僕も踵を返す。


 今のとこなにも変わってないよ。


 でも、じょじょに影響が出てくるだろう。


 君のいない世界は。


 もう始まっている。

 

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