オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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34 調査と雑談

 

 リザードマンの集落で情報収集をした結果、原因の植物系モンスターのことはわかった。というか、ただのモンスターと言ってしまうのは憚られる存在だ。ぬーぼーに変身してもらってパンドラが調べた結果、その存在はこの世界という観点からしてもおかしな存在だった。

 

「レベル85相当……。それにHPの上限が大幅に突破している?そのくらいならワールドエネミークラスではなくレイドボス程度だろうが……。不自然だな」

「そんな存在が休眠状態だったということがですか?父上」

「ああ。場所はあの大森林にしては枯れている木が多かった場所だとわかったし、おそらく周りから養分を吸っていたんだろうけど……。この世界の一般的な強さの基準からして、あんな存在がHPの上限を突破していることは生態系の流れからしておかしい、と思う。どこまでリアルと同じ法則が適応されているかわからないが、生物の進化などそうも急速には起きないだろう?」

「突然変異という線もありますが、ツアーのHPを遥かに超えているというのは異常ッでしょう!ツアーがこの世界の頂点であり、レベルが下のあの木がレイドボスのような体力を持っている……。それは私たちがユグドラシルを知っているがため。つまりあれは」

「ユグドラシルの何かが関連しているんだろう。アイテムなのか魔法なのかわからないが」

 

 結局行き着く答えはそこ。超位魔法で天使の永続化ができているので、あの木を永続的に存在させることはこの世界でも可能だとわかっている。そしてフレーバーテキストやユグドラシルの頃とは異なる影響があることから、休眠状態やシモベのような小さい木の化け物を上限なく出せるのだろうと。

 こちらの世界特有の魔法などもあるようだが、魔法で生命は産み出せないと言っていた。つまり召喚系のスキルはこの世界ではかなり稀有なものだったのだろう。

 あんな植物系モンスターを産み出すのは高位のドルイドでも不可能に近い。超位魔法にも様々な召喚系はあったが、植物系はない。《星に願いを》でも使わない限りレイドボスのような存在は産み出せないだろう。

 ということは。

 

「十中八九、ユグドラシル絡みだな」

「あの体表を調べたくもありますが」

「まー、それは余裕があったらな。で、だ。こいつらの周りにいる連中。陽光聖典と一緒に行動しているということは法国の他の聖典か」

「だと思われます。レベル的に切り札たる漆黒聖典かと」

「あの女が言っていたやつか。ほとんどはブレインと一騎打ちなら倒せる連中だろう?それが人類圏の切り札か……。人間種の方が強かったユグドラシルとは違うな」

 

 レベルは大体四十以下。一人だけ六十台がいるが、その六十台でも例の植物系モンスターは足止めできていない。威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)でもそこまでの時間稼ぎはできていないようだ。

 問題はそちらではない。六十台の男が持つ槍と、老婆が装備している白いチャイナ服だ。

 

「法国が誇る国宝。その二つワールドアイテムか。傾城傾国があればあのモンスターも支配下に置けるはずだが……。もしワールドアイテムを用いられて呼び寄せられていたら効かないか?」

「ルベド殿の例がありますから。熱素石(カロリックストーン)などのような動力に用いていればあるいは」

「ルベドか……。熱素石を用いるって聞いた時にはタブラさんもとうとう思考がイッたと思ったが、結局起動できるだけで戦線に加えるには危険すぎたからなあ。比喩なしにナザリック最強の存在だったし」

「ルベド殿なら、あの膨大なHPも一撃で屠れるでしょうなあ」

「俺もお前も、下手したら一撃だろうなあ」

 

 モモンガもパンドラもハッハッハと乾いた笑いを上げる。一人AOGとも呼べるパンドラや、1500人ものプレイヤーにトドメを刺したモモンガでさえ、ルベドとは戦いたくなかった。二人がかりでも止められるかどうか。

 耐性をガチガチに固めて、その上で最高装備を整えた上で決死の想いでワールドアイテムを併用すればなんとか、というレベル。初見だったら、ユグドラシルトップ層のプレイヤーでも軽く屠れる頭のおかしさ。

 そのため結局何度か起動実験を行っただけで、まともに動かさなかったNPCだ。

 

「ルベドは置いておこう。問題は法国の連中だ。あいつらさえいなければ少し離れた場所からちゃっちゃと仕留めるんだが」

「王国同様、国に楯突くのはやめた方が良いと思います。状態異常にしてどこかへどけますか?」

「それもいいが耐性を持っていたらな……。山河社稷図を使うのも手だが、アタリを引かれるのは面倒だし、弾かれるのが確実に二人いるのがな。……姿を変えて、『黒銀』のモモンとパンドラだと気付かれないようにするか?」

「父上のことをアンデッドだとは思っていないでしょうから、素の姿でも問題はないかとっ、思われます!たしかスルシャーナという六大神もアンデッドだったようですし。ただ杞憂だと良いのですが、異業種排斥思想が、父上のような圧倒的強者にも用いられるのかどうか」

 

 パンドラはたっち・みーの姿以外にすれば見分けなどつくわけがなく、モモンガもエンリとネム以外にアンデッドとしての姿を見せていない。装備も最高の物ではなく人前を想定した物だ。つまりフル装備に変えれば別人を装うのは容易だ。

 攻撃手段などをある程度観察させてもらったが、きちんと装備を整えれば問題なく倒せる程度の敵だ。本当のレイドボスやワールドエネミーならレベル100を突破していた。そこそこのイベントでも最低レベルは100あったし、それに届いていないとなれば初期に開催されたレイドイベントと変わらない難易度だ。

 

「むしろあの木の化け物を倒そうとしているんだから俺たちを攻撃するようなことはないだろう。じゃあ姿を変えて倒すとするか。ブレインと森の賢王にここの防衛をさせて、倒した後にリザードマンたちへ話を聞いて超位魔法で土地を整えればいいだろう。食糧問題はまたドルイド系のアイテムを貸せばいいだろう。それで湖の状態を良くすれば魚も繁殖するだろうからな。最古図書館があれば色々調べられたが……。それは倒した後だな」

「倒した後に宝物庫をもう一度洗い出します。しかし、よろしいのですか?リザードマンにも手を差し出すというのは少々手の伸ばしすぎかと」

「正直あのモンスターは天災だからな。それに討伐しないと大森林から出てきてカルネ村も襲われるかもしれない。離れた場所にいる今が一番都合がいい。それに土地を整えてアイテムを渡した後は基本干渉しないつもりだ。まあ、魚の物流をしたいとは思ってる。周辺諸国では海に面していない場所ばかりだから、魚は川魚しかいないらしいし。高級食材を流通できるようになればカルネ村も一層基盤が安定するだろう?」

 

 という言い訳を並べるモモンガ。植物系モンスターを倒すことは確定事項だし、目についてしまったからリザードマンを助けるのも決定事項だ。

 ここで助けなかったらリザードマンに怨みで襲われる可能性があるからだ。防衛力はある程度あるとはいえ、怨みとは怖いものだ。それに天使がいるとはいえ、あの村にいる人間は戦う人たちではない。最近はちょっと自衛用の訓練を始めたが、あくまで自衛用で戦うためのものではない。

 あとは本当に魚というものがこの世界では貴重だったということがある。海までが遠く、保存の魔法があっても商人が乗った馬車が襲われることだってあって海の魚はあまり手に入らない。

 そこで川魚とはいえ一定の安定した供給ができればいいなと考えただけ。

 

「よし。話し合いはこんな所で充分だろう。幸い法国のおかげであいつの攻撃パターンはいくつか確認できている。ああいう手合いには近接戦を仕掛けなければいい。ブレインと森の賢王は残念ながらレベル差が激しくてついてこられそうにない。置いていこう」

「無駄に死なせる意味もありません。それに私たちであれば問題ないでしょう。ブレインも駄々をこねるかもしれませんが、戦力差を伝えればこちらの防衛に徹してくれるでしょう」

「レイドなんてカンスト勢が挑むものだからな」

 

 この世界で挑めるのはツアーなどの一部の竜王と法国の秘密兵器くらいだろう。それ以外が挑んでも歯牙にもかけられずに屠られるだけ。レベル八十台でHPの上限がかなり高くなっているという時点で他の存在では時間稼ぎがせいぜいだろう。

 だが、ゲームの中ではなく現実でそんなレベル帯の存在がガチバトルを引き起こしたら、それこそ世界の危機だろう。そうならないように被害が大きくならないようにしなければ。

 そう思いながらブレインたちに指示を出していく。

 

 


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