129キロのチェンジアップが、ワンバウンドして股間を抜けていった。1回、1死一、三塁。松山への2球目だった。走者はそれぞれ進塁し、若きバッテリーは2点目を失った。
「ミスしたあのボールだけじゃなく、ギリギリで止めたのも、僕の股は浮いていました。ああいう場面でやっちゃうのは、技術もそうだしメンタルも弱い」
記録は山本の暴投だが、捕手の石橋は自分を責めた。止められた。止めてあげねばならない球だった。止めようとするあまり、体は浮く。どこで跳ねるか。それを的確に予測できることが経験である。
「石橋にとってはどこにいっても新しい球場。まだ慣れていないナイター。景色が違うというのは(原因として)多少ある。技術以外で戸惑う部分はあったと思う」。中村バッテリーコーチの指摘も、結局は経験にたどり着く。それを今、積んでいる。積ませる価値のある選手なのは間違いない。例えば3回のピンチ(2死二塁)で、鈴木を見逃し三振に打ち取った1球。外角へのストレートに、ミットは流されず球審の右手を挙げさせた。データ全盛の今、フレーミングと呼ばれる捕球術だ。
「修正する点はいくつかあるけど、思ったよりやってくれている。また出る機会はある」とは中村コーチ。失点と敗戦につながったこの日の暴投は、授業料だと思えば安いものだ。
お手本も生で見ることができた。今季17試合目の登板だったジョンソンは、94イニング投げて暴投はない。専属捕手として組み続ける石原が、低めに集める変化球を必ず止めてくれるからだ。呼吸、配球、捕球。バッテリーの理想像を観察できた。
「きょうやったことは取り返せませんが、次はやらないように。必ず生かしたいです」。この暴投を忘れなければ、石橋はきっと優れた捕手に成長する。