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【社説】

英国の新首相 合意なき離脱は民意か

 英国の新首相に選ばれたジョンソン前外相(55)は、欧州連合(EU)からの合意なき離脱も辞さないという。混乱は、日本を含め世界に広がる。このまま突っ走っていいのか。

 ジョンソン氏は、EUとの合意の有無にかかわらず、期日通りの十月末に離脱すると主張する。しかし、それに伴う混乱をどう乗り切るか、具体的な説明はない。合意なき離脱に反対する議会の声に耳を傾ける姿勢も見えない。

 合意なき離脱になれば、近隣諸国との間で不要だった通関手続きや関税が生じ、物流は滞る。欧州全体で生活物資が不足、企業の部品調達も困難になる。約一千社の英進出日本企業も拠点移転などの対応を迫られる。大迷惑である。

 英領北アイルランドと、地続きのEU加盟国アイルランドとの国境管理問題にも結論が出せず、紛争を再発させかねない。

 ジョンソン氏はロンドン市長として五輪を成功させ人気も高い。

一方で、EUをナチスになぞらえて独裁と批判するなど敵視。

 全身を黒い布で覆うイスラム教徒女性の服装「ブルカ」を「郵便ポスト」や「銀行強盗」のようだと形容するなど、女性や他国蔑視の言動も目立つ。

 三年前の国民投票では離脱キャンペーンを主導し、「英国民はEUに巨額の金を払っている」などと誇張した。メイ政権で外相に就任したが、途中で投げ出した。

 トランプ米大統領とウマが合うという。英国もトランプ氏の米国のような、何でも自国第一の国になってしまうのは、寂しい。

 決められないメイ氏にうんざりし、ジョンソン氏を選んだ面もあるのかもしれない。しかし、必要なのは威勢のいい言葉ではなく、幅広く英知に耳を傾ける包容力と粘り強い交渉力である。ジョンソン氏には真摯(しんし)に、EUとの協議に向き合ってほしい。

 与党・保守党の党員投票で穏健離脱派のハント外相に圧勝して、首相就任を決めたが、同党党員は約十六万人で英国全人口の0・2%ほどにすぎない。年配者の割合も多い。党首選でのリーダー選出を真の民意と言えるのか。EU残留を望む若者らからは不満の声も上がっているという。

 離脱の行方が見えないのは、世論が割れているからだ。再度の国民投票や総選挙で、国全体の民意を問い直すのも一つの手ではないか。英国らしいコモンセンス(良識)を発揮してほしい。

 

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