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[読者と記者の日曜便]振り袖写真 育児の「卒業証書」
明日(14日)は「成人の日」。各地で成人式が行われるため、あでやかな晴れ着やパリッとしたスーツ姿の新成人たちを街中で目にしそうです。
日曜便にも、 橙 色の生地に松竹梅の柄が映える振り袖姿の写真を送って下さった方がいます。大阪府寝屋川市の主婦溝尾圭子さん(48)です。
〈振り袖は、母が私の成人式のために作ってくれたものです。西陣織の帯は祖母が用意してくれました〉
写真は3枚あり、1枚は30年近く前、ご自身の成人の際に撮影されたもの。残り2枚は「母や祖母から贈られた着物を娘にも」と長女(24)と次女(21)が成人を迎えた際に同じ着物で写真館で撮ったものでした。長女は知的障害は伴わないものの、対人関係が苦手な「高機能自閉症」です。
〈幼い頃の長女は一度泣き出すと、1時間は泣き続けました。この子の将来を考えると不安で仕方なかったのですが、様々な人の支えで次第に自立できるようになりました。絵が好きで自ら希望して美術系の高校、専門学校に進み、障害者向けの就労支援機関に通って一昨年、物流会社に就職できました。5年前の成人の撮影の際は、ややぎこちない笑顔でしたが、着物姿の娘に私は『わぁ』と声が出そうになり涙がにじみました〉
昨年撮影された次女の晴れ姿にも思いがあふれました。
〈次女は、私が長女に手がかかり、ほったらかしにしがちでしたが、自分の意志を持ったしっかり者に育ってくれました。周囲の心配をよそに『ものづくりがしたい』と男子ばかりの工業高校に進み、設計技術を生かす仕事に巡り合えました。成人の撮影では、さほど乗り気でもなかったのに薄化粧して、いざ臨むとまんざらでもない感じ。私も感激しました〉
2人とも成人式には出席しなかったそうですが、写真撮影は、母親としての喜びを実感する体験だったようです。
〈娘のために、お金も時間もかけてやれなかった母親ですが、振り袖姿の2人の写真は、私の育児の『卒業証書』みたいなものになりました〉
着物専門店を全国展開する「まるやま・京彩グループ」によると、新成人の女性が母親の振り袖を着るのは「ママ 振 」と呼ばれ、最近目立つそうです。何でも簡単に買え、すぐ消費される時代に、祖父母や親の代から受け継がれるモノがあるってすてきです。
私自身は18年前、レンタルの振り袖を着て写真館で撮影したのが成人の思い出ですが、当時、「一緒に着物を選ぼう」との母の求めにも応じないなど、いま思えば、随分つれない態度だったと反省します。
溝尾さんのお便りにある通り、子の晴れの舞台は親にとっても特別な思いのこもった特別な場なのですね。(斎藤七月)
*お便りは、〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「日曜便」係、ファクスは06・6361・0733、メールはnichiyobin@yomiuri.comです。ウェブサイトでも読むことができます。「日曜便」で検索を。