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(虻田)我々と一緒に新しい劇団を創らないか!小畑雪次郎!
(雪次郎)蘭子さんと共演することが亀山蘭子という女優と共演することが夢でそのために ここにいます。
だから 今は 辞めるわけにはいきません。
(なつ)それで?分かってもらえたよ。
そう… なら いかったでない。
(レミ子)だったら 雪次郎は夢をかなえたんだね?
ああ…。
レミさんは このまま劇団に残るんですか?
私は 何があっても雪次郎と蘭子さんの味方だから。
「かもめ」ではセリフもない小間使いの役でもね。
トレープレフ 頑張れよ。
うん そうだわ。
こうなったら 心を決めて頑張るしかないっしょ。
雪次郎君 頑張って!楽しみにしてるから。
うん 分かった。ありがとう なっちゃんもレミちゃんも。
私も頑張るわ。今度 テレビを作るんだけど。
テレビ?そう。 テレビで アニメーションやるの。
「鉄腕アトム」みたいな?そう! 見てるんですか?
当たり前よ。いつ 声で呼ばれるか分からないもん。
というより呼ばれたい!なっちゃんのにも呼んでよ!
いや まあ… まだ そこまでは何も決まってませんから。
なっちゃんも テレビをやるのかい。そう。
でも 映画と違ってテレビの作り方 よく分かってないんだわ。
だから頑張る。
頑張れよ なっちゃん。頑張るよ。
じゃ 飲むか 景気付けに。おっ いいね。
(3人)頑張る 乾杯!
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
♪「口にする度に泣けるほど憧れて砕かれて」
♪「消えかけた火を胸に抱きたどり着いたコタン」
「本物の天才か!」。
残った劇団員で 稽古が始まりました。
「あんた方の誰よりも上なんだ!」。(蘭子)「デカダン!」。
演目は チェーホフの「かもめ」。
雪次郎君と蘭子さんは 親子を演じます。
ちょ… ちょっと待って!
ちょっと止めてちょうだい。(福島)はい ちょっと止めようか。
あなたね 無駄な動きが多いのよ。
はい すいません…。自分を見せようとせずにちゃんと トレープレフがここにいるっていうことを演じなさい。
はい 分かりました!
一方 テレビ漫画「百獣の王子サム」は絵コンテも出来上がり作画作業が始まりました。
なつは サムが駆け抜けるカットの原画を描いています。
(猿渡)あ…そこは そんなに丁寧に描かなくていいんだよ。
えっ? 普通に描いてるだけですけど。
速く走り去るんでしょ?
ちょっといい? そういう時は…。
(猿渡)これで いいんだよ。
えっ これで?
(茜)あの それって動画は どうやって描けばいいんですか?
この流線だけ動かせばいいの。
3枚くらい使ってフレームアウトさせればサッと走り去ったように見えるでしょ。
(2人)ええ~っ!
♪~
「断じて認めないぞ!あんたも あいつも!」。
「デカダン!私のかわいい子 堪忍しておくれ。不幸せな私を許しておくれ」。
「僕の気持ちがお母さんにも分かってもらえたらな!僕は もう書く気がしない…。希望も みんな…」。ダメ!
全く ダメ!はい… もう一回お願いします!
もういいわ 少し休みましょう。
すいません…。
あなた 覚えてる?えっ?
あなたが 初めて私の芝居を見に来てくれた時のこと。
はい… もちろんです。「人形の家」でした。
あの時 あなたが 私に言ったこと。(雪次郎)えっ…。
私の芝居にアマチュア精神を感じると言ったのよ。
あっ…。
それは どうして?
あ… それは高校の時 演劇部の顧問だった倉田先生によく言われていたからです。
アマチュア精神を忘れたような芝居をするなって。
役者として うまくやろうとするなかっこつけるな普通の人間として しゃべれって…。
本物の役者こそまさに そういうもんだと思ったからです。
蘭子さんを見て。
私も言われたのよ。最初に お芝居を教えてくれた大先輩に。
新劇で 一番大事なものはアマチュア精神だって。
こんなふうに その人はいつまでも 私につきあって徹底的に教えてくれたの。
男の先輩ですか?
もう… 死んだけどね。
戦争が激しくなって 私は疎開したけどその人は 移動演劇隊に入って…昭和20年8月6日に 広島にいて…。
蘭子さんは その人のことを…。
あの人と同じ言葉を言ったあなたにはあの人の分も生きて 演じてほしいのよ。
頑張ってほしいの これからも。
分かりました。
それじゃ もう一回やりましょう。
はい。
(坂場)サムは動かず 顔も固まったまま潤んだ涙だけが動くのか…。
(猿渡)動かすのは涙だけでいいってことね。
動かすところは動かして動かさないところも個性として考えるそうやって キャラクターを作っていくしかないと思うけど。
なるほど…。
単純な動きでも 登場人物の気持ちは伝わるもんなのかもしれないな…。
(茜)そりゃ 止まった絵の漫画だって気持ちは伝わるんだもの。
そうですよね。いや… 形式じゃなく 意識の問題だよ。
意識?
登場人物の個性に合わせて動きに メリハリをつけてゆく意識を持てば省略された動きでも 生き生きと見せることはできるということです。ほら 日本人の感覚にある歌舞伎の演技のように!形式は違っても そうやって登場人物を演じるという能力こそがうちのアニメーターが培ってきた強みじゃないでしょうか。
強み?
君の力です。動きは抑えても アニメーターの感情を抑えることはないんですよ。
表現として妥協することはないんです。
くさらずに やって下さい。
私は 全然 くさってませんけど…。
でも… 分かりました!
まあ そうやって こだわると残業が続くだけなんだけどね。
(荒井)ほ~い…うどん作ったから食うてや!
わあ 荒井さん 最高! 行こう 行こう!
なつが前進すれば雪次郎君も また…。
「意気地なし!不幸せな私を許しておくれ」。
「僕の気持ちがお母さんにも分かってもらえたらな!」。
(雪次郎)「人生は 僕にとって耐え難いものになった。苦しみがあるだけだ。若さが急に摘み取られて90年も生きてきたような気がする」。
「僕は 君の名を呼んだり君の歩いた地面に接吻したりしている。どこを見ても 君の顔が見える。僕の生涯で 一番楽しかった時代を照らしてくれた あの優しい笑顔」。
さあ 来やがれ!
来やがれ…。
♪~
こうして 時を重ね雪次郎君の舞台が 初日を迎えました。
♪~
休みの日に わざわざ すいませんね。
あなたのためではありません。
亀山蘭子の芝居は見逃せないでしょう。
雪次郎君の晴れ舞台も見逃せないわよね。
はい。
(光子)こんにちは。(咲太郎)おっ あんたも来たのか。
(亜矢美)こんにちは。 お久しぶりです。
ご無沙汰しております。
忙しいのに よく来てくれましたね。
そりゃ 北海道のご家族に代わって私には 見届ける責任がありますからね。
雪次郎にとっては 新宿の母だからな。
母じゃないわよ。母みたいなもんでしょう。
母は そちらの方でしょう。
いや 私は友達。
俺は社長。
私は…。マダム! マダム!
あっ…。
♪~
なつよ 雪次郎君の成長を見届けよ。