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京都アニメ放火 あまりにも理不尽な

 建物の外形こそとどめているものの、窓ガラスは吹き飛び、内部は暗い穴のように真っ黒く焼け焦げている。爆発を伴った火災のすさまじさを物語る。

 アニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオが放火された事件は30人以上が死亡する惨事となった。前途有為な制作者たちの命を奪った許しがたい犯行に、深い悲しみと憤りを覚える。

 容疑者の男は1階の玄関を入っていきなりガソリンをまき、火をつけたとみられる。警察が身柄を確保した際、「パクりやがって」「小説を盗んだから放火した」などと話したという。

 事件の数日前から、似た男が周辺で目撃されている。当日はガソリンを携行缶で購入して台車で運び、直前にバケツに移したようだ。現場では包丁数本とハンマーが入ったかばんも見つかった。強い殺意と計画性がうかがえる。

 京都アニメとの接点は確認できていない。過去に働いていたことはなく、男が小説を書いていたのかどうかも不明だ。警察は、重いやけどを負った容疑者の回復を待って事情を聴くという。犯行動機をはじめ事件の全容解明に力を尽くしてほしい。

 建物の内部は、玄関の近くから最上階の3階までらせん階段が通じていた。揮発性の高いガソリンが爆発的に燃焼した上、吹き抜けの空間を通って炎と煙が一気に上階に達したとみられる。

 亡くなった人の大半は一酸化炭素(CO)中毒だったという。3階から屋上につながる別の階段で折り重なるように倒れていた人が多い。もう少しで扉を開けて屋上に出られたのに、煙の回りが早く、間に合わなかったのか。

 店舗や宿泊施設とは消防設備の基準が異なり、スプリンクラーや屋内消火栓は設置されていなかった。定期検査で法令違反はなかったという。現場の状況を再点検し、建物の構造が被害を拡大させた面がなかったか検証してほしい。

 京都アニメは、「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」「けいおん!」「映画 聲(こえ)の形」をはじめ人気作品を次々と手がけ、国内外にファンが多い。緻密(ちみつ)でみずみずしい作画は高い評価を受け、「京アニクオリティー」とも呼ばれる。

 哀悼と励ましの声は海外からも届いている。米国の配給会社が呼びかけた支援の募金は1日足らずで1億円以上が集まった。理不尽な犯行で中核の制作現場と精鋭の制作者たちをいちどきに失った打撃は計り知れないが、ファンの声を背に再起を期してほしい。

(7月21日)

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