ぜんさく
「劇場版 天気の子」最高でしたね!
今回は天気の子についてゲームと劇場版の話をしようと思います。
※重大なネタバレを含みますのでまだの人はさっさと劇場に行きなさい。
まず原作である「天気の子」は2002年にWindows向けにリリースされた、いわゆる「エロゲー」でした。それが2003年に立ち絵を一新・フルボイス化した上でドリームキャストにて家庭用ゲーム機に移植され、同じ年にPS2版がリリースされています。先程のスクリーンショットはPC版のものですね。
この頃に新海監督は「ほしのこえ」を製作・公開しています。
続いて04年に「はるのあしおと」、06年にはオープニングが非常に話題になった「ef」のオープニングを担当。当時目にした人も多いのではないでしょうか?
さて、関連作品紹介はこれぐらいにして「天気の子」の話をしましょう。
劇場版「天気の子」は劇場版「AIR」同様、大胆な構成となっています。というのも原作では3ヒロイン(家庭版では島の幼馴染が加わるため4ヒロイン)だった物を、陽菜ルートかつTrueエンドのもののみに再構築しているからです。その結果同じくメインヒロインであった夏美や四葉はあくまでサブやゲストキャラ扱いとなりました。
AIRも「Summer編を絡めた上でAir編の終わりまで描く」事にした結果、美凪や佳乃がゲストキャラになりましたが、物語の纏まりを見ればコレでよかったのかもしれません。
主人公の帆高はなんとなくで東京にやってきて、須賀圭介のやっている編プロに転がり込む。そこには胸も大きく美人な女子大生の須賀夏美がおり、取材の過程で謎多き少女天野陽菜とも知り合って、この夏俺どうなっちゃうの~!?というのは「両親が何故か家にいない高校生」に並ぶ主人公属性「ひょんな事から居候」です。
本来はこの取材の過程で「夏美と行動を共にする」選択肢を選ぶと夏美ルートに入ります。というか一周目は夏美固定であり、就活に失敗し傷心の夏美と島へ戻る日の近づく帆高が雪の降る夏の夜に男と女の関係になり、快晴の翌朝にそれぞれの道を歩むためにしばしの別れ…というのが夏美ルートの話でした。
エピローグでは数年後に夏美も帆高もK&Aプランニングの正式なメンバーとなっており、帆高が東京に居た時にほんの少しだけ見聞きした「100%の晴れ女」の記事を改めてとりかかる…というエンドです。
が、映画ではここらへんの共通ルートが最早定番となったRADWINPS早回しでスキップされました。Fate/stay nightも「問おう、貴方が私のマスターか」をイントロで飛ばしていましたし、陽菜ルートを映画化するにあたっては仕方ない部分がありますね。須賀さんの「いってきます?」というセリフは二週目以降、共通ルートから陽菜ルートに分岐したのを象徴するセリフとしてファンに語り継がれています。
さて、夏美ルートは甘酸っぱい青春の話でしたが陽菜ルートはまるで違います。どういうことかと言うと、当時非常に流行った「特殊能力持ち少女」かつ「重い家庭事情の少女」であるからです。風を起こすだとか、相手の考えがわかってしまうだとか、サイコキネシスやら未来予知。主人公も手から和菓子を出したり法力が使える作品がありましたが、「天気の子」は一般人タイプです。
本来は陽菜ルートと四葉ルートをクリアすると800年前の「天気の巫女」の物語である「Summer編」がタイトル画面より選べるようになるのですが、映画では削られてしまいました。なので「天気の巫女」や「人柱」については寺の住職から「伝説」を聞かされるに留まっています。本来はこの当時流行った伝奇ものというか時間を超えた因果の話なのですが、ここらへんもTrueエンドのメインにする上ではカットしても問題ないと判断したのでしょう。Summer編についてはPS2版の限定特典でOVAになっていますので、気になる人は探してみて下さい。
陽菜ルートで描かれるのは陽菜、その弟の凪、家出少年である帆高3人の「疑似家族」のささやかな成功と崩壊です。須賀も帆高をある種息子のように想っていましたが、帆高が警察に追われているのを知った須賀は帆高を事務所から追い出してしまいます。「疑似家族」の物語には当時大ヒットした「家族計画」があり、また「はみだしもの達が一つ事を成し遂げる」として「CLANNAD」が有名な作品ですが、「天気の子」もその手の作品の一つでした。
「空が晴れるだけで人々が笑顔になる」、陽菜の能力が他人を幸せにし困窮した生活が楽になると安心できる時間も長くなく、家出少年及び両親の居ない姉弟は警察に追われてラブホテルに身を寄せる…とここで私は期待したのですがまあ見事にHシーンはカットされていましたね!本当は指輪を渡した後にあったんですよHシーン!私は見たんだ!
翌朝、遂に警察に捕まった帆高は空から降ってきた指輪を見て「えいえん」に行ってしまった事を知り泣き崩れます。「えいえん」の話をしましょう。「えいえん」とはエロゲやギャルゲに有りがちな物凄く便利な異界の事です。主人公が消えたり、ヒロインが消えたり、ループしたり、そこ自体が舞台だったりします。一時期めちゃくちゃ流行りました。えいえんって何なんでしょうね。ここにあることは知っていますけど。
ゲームとは「短編を束ねたオムニバスな物語」であり「全ての可能性や情景を見たからこそ観測者であるプレイヤーはこのルートを選択するもの」です。なので「周回を前提としたルート」があり、別のルートではただの晴れやかな青空であったものが一人の少女の犠牲によって成り立っているものだと知る。もちろんゲーム版であれば夏美ルートや四葉ルート後の為、「晴れ」が物語のクライマックスである事が分かりますが、映画版では前提となるルートをSummer編同様飛ばしているため超展開に見えると思います。ここら辺はシュタインズゲートが上手いようにやってたんですけどね。
陽菜ルートはここで一度終わり、主人公は島へ戻されあのひと夏の出来事も妄想か何かだったのだろうと気を紛らわせるもののその手にはあの日の指輪が握られていた…というのがNormalエンド。ですが映画はそのままTrueエンドへ向かいます!!
Trueエンドへの分岐点は複数ありますが例を挙げると
- 夏美ルートに行かないように好感度は上げすぎないが、適度に取材を手伝う
- 四葉ルートについてはTrueの条件に関係ないため選択肢を選ばない
- フェリーで須賀にビールを奢る←2周目から出現する選択肢です!
- 凪を先輩呼びする。「イケすかない小学生だ」を選ばない
- マスコミにバレた以降は晴れ女の仕事を続けない
- 落雷や雪に関する選択肢が2周目以降追加されるので「陽菜の心と繋がっている?」を選ぶ
以上のようになっています。
条件を満たすと取調室からの脱走時、夏美がバイクで助けに来てTrueエンドに突入します。そこからのバイクチェイスや線路上のダッシュは原作通り。各々のヒロインのルートでは喜ばしかった晴天が、ここでは「彼女が取り戻した青空」として印象的に描かれています。
しかしTrueエンドは各ルートのキャラを総出演させたため、若干の歪みが出ており、それが顕著なのが陽菜の弟の凪です。バイクで相当な距離を逃げて更に線路上の最短距離を走って辿り着いたはずの代々木の廃ビル、かつ階段が行き止まりになっていたのに彼は何処から女装しながら来たんでしょう?コレについてはゲーム版の頃から突っ込まれまくっている話なのでご容赦ください。
ひょんな事から力を手に入れてしまった。陽菜については「天候操作能力」ですが、一般人枠の帆高が手に入れたのは「銃」でした。あの場面でもバッドエンドがあり須賀が死ぬのですが映画版では当然なし。須賀を撃ってしまうと、彼から失った妻や自分の過去、そして帆高が来てからの暮らしが如何に自分にとって大きかったかが語られるため映像化してほしかったのですが…
ビルの上から「えいえん」に行ける演出は同じく新海誠の映像作品であるYsのエターナルのオープニングを見れば一目瞭然です。当たり前でしょう。雲の上に行くんですよ少年が!!!そりゃあ塔の頂上を目指しますよね!!!
更に嬉しい演出としては非常階段に飛び移る帆高が「踊り場を踏み抜く」所です。あのシーンはゲーム版には無く、「雨の東京」を舞台にした言の葉の庭クライマックスをセルフオマージュしています。「君に救われてたの」ではもう終わらせない!!!桜を超えて「君の名は。」の二人が出会ったのなら!!!!「天気の子」は踊り場を超えていく!!!!あの時差したのは陽の光でしたが、今度は少女を救うために世界を曇らせたって構わない!!!!
そしてあの雲の上の世界に繋が……
何?
「天気の子」に原作ゲームは無い?
令和元年夏に公開された劇場オリジナル作品?
えっ、ウソだろ?
あんなefみたいな天使の梯子から始まって、keyみたいな話やって、leafやねこねこソフトみたいな伝奇ものしつつ、CIRCUSみたく魔法とその代償の話をして、最後に「狂ってしまった世界だけどそれでも続いていく」ってまたminoriに戻る「天気の子」が?
えっ?
いやいや、嘘でしょ。俺読んだもん。ジオシティーズで二次創作SS読んだもん。アニメイトで攻略が一緒になった電撃のビジュアルファンブック買った覚えあるもん。ある気がする。だって奇跡とその誰も知らない犠牲の話ってめっちゃ月宮あゆじゃん。国崎往人じゃん。わしダカーポでも見たわそういうの。
夏美ルートも無いしHシーンも無いの?
DC版もPS2版も?
じゃ、じゃあ…ここまでの記事は、一体…?
あまりに見覚えのある要素と新海誠成分とイケメンショタを一気に映画館でRADWINPSと共に流し込まれた故の…幻覚…?夢、だったのか……?
ありがとう、新海誠。
やっと00年代に置いてきたあの時の自分が救われた気がします。
大人になると大事なものの順序が入れ替えられなくなるけど、好きな女の子の為に覚悟を決めた男の子が突っ走って「世界を変え」たって良いんだって描いてくれて、ありがとう。
以上、鑑賞後48時間頭の中でグルグルしていた「天気の子エロゲ原作説」でした。
天気の子はこの記事で散々書いたとおり、「どこかで見たことの有るもの」で構成され尽くしています。それでいながら圧倒的な予算と映像とRADWINPSで殴りつけて来るし、エロいショタもいる。そして何より「世界か、少女かじゃあ無いんだよ!」「世界の正しい姿ってなんなんだよ!」「世界は続いていくんだよ!!」とふわふわしていたセカイ系を改めて正面から描きながら精緻を極めた回答を出しており、セカイ系を終わらせたと言っても過言ではないと思います。
きっと帆高の「童貞」っぷりも、一人の少女のために東京が沈む事も、それでいて当人たちは「大丈夫」と歩いていく事も、全て「気持ち悪い」と言われるし、怒られるし、切り捨てられて行くでしょう。それでも僕は言いたい。
僕は「天気の子」、めっちゃ面白かったです。minoriは生き返って「天気の子」のゲーム作ってくれ。全年齢版でいいから。
※これは天気の子があまりに00年代のADVに出てきた要素だらけの上、「セカイ系」という言葉で括られた何かや詳しく語られない超能力や超展開ギミック等に「まるでエロゲのTrueエンドの映画化だった」と公開直後にオタクが相次いで口にした事を元にしたジョーク記事です。