---------------------------
----N----098-------------
----a-----------------------------
----t-----------------------
----u-Z-o-r-a--------------
-----------------------------------
-----------------------------------
---------------------------------------------------------------
(なつ)夢?
それは もちろんすてきな漫画映画を作ることです。
(下山)♪「空をこえて ラララ」
(仲)テレビ用のアニメーションテレビ漫画を製作するテレビ班を作ることになったんだ。
なっちゃんは 原画として茜ちゃんは 動画としてそのテレビ班に行ってもらいたい。
もう映画には関われないんですか?
昭和38年 日本でも本格的な連続テレビ漫画が誕生しました。
フルアニメーションの映画と違い30分のアニメを 毎週作り出すために止まった画を使ったり動く部分を減らすなどさまざまな手法が生まれていました。
(坂場)仲さんはあれをアニメーションだと認めていますか?
(仲)えっ?僕は 少なくとも東洋動画らしいアニメーションの作り方だとは思えません。
仲さんは どう思っていますか?
もちろん あれはフルアニメーションではないと思っているよ。
それを 形だけ東洋動画がまねをして慣れてしまったら日本のアニメーションは もうそこから 後戻りができなくなるんじゃないでしょうか?
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(井戸原)大げさだな 相変わらず 君は。
そうでしょうか?(露木)いや 坂場君の言ってることはまんざら大げさなことじゃないかもしれないよ。
そういう時代が来るということは大いに考えられる。
まあ もう私の時代じゃなくなったということだけは確かだけどね ハハハハハ…。
もし そうだとしてもやる価値はあると 僕は思ってるよ。
仲さんは そう思いますか?
アニメーションを見る子どもたちにとってはフルアニメーションかどうかなんて全く関係ないことだろ?
面白いか 面白くないかそれだけの違いだからね。坂場君は そう思わないか?
分かりました。
それに フルアニメーションのよさはこれからも 長編映画で我々が守っていくつもりだよ。
(井戸原)そう。 だから 君は安心して テレビに専念してくれたまえ。
あっ… どうだった?
やっぱり テレビの話でした。
(茜)うちでも テレビ班を作るそうです。
私となっちゃんはそこに異動することになりました。
優秀な なっちゃんと茜ちゃんをとられちゃうわけだ。
イッキュウさんも 演出で入るんです。
そうか…やっと助手から抜け出せるんだな。
しかし 演出家デビューはテレビになったか。
それで また仲さんに かみついたりして…。
(下山)かみついた?いや かみついたとまでは…。
仲さんは あれをアニメーションだと認められますかって。
(堀内)それは またグサッと かみついたな。
(神地)さすが イッキュウさんだ!よく分かってる。
けしかけるようなこと言わないでよ。
これは テレビ班だけの問題じゃない。
我々 アニメーター全体にとっての死活問題です。
劇場映画そのものがテレビの台頭によって傾き始めてる今我々が 心血を注いできた漫画映画きめこまやかな動きと リアリティーを追求するフルアニメーションの世界そのものが存亡の危機にさらされてるんですよこれは!
(下山)誰に演説してんのよ。組合じゃないんだから。
(茜)イッキュウさんと全く同じこと言ってるわ…。
♪~
イッキュウさん どうしたんですか?
僕は もう…漫画映画を作れないだろうな。
どうしてですか?
露木さんのあとに 次々と若手が演出に抜てきされてるのに僕には お呼びがかからない。
僕たちの作った短編映画だっていまだに お蔵入りしたまま長編映画の付録として劇場に かけられることもないだろ。
僕に対する上層部の評価が低い証拠だ…。
というより 僕が嫌われてるからですよ…。
仲さんは 短編映画を褒めてくれたじゃないですか。
あの人は… 本音を見せないからな。
あの人が描く絵と同じように誰にでも いい顔していたんでしょう。
何を すねてるんですか!
あなたらしくない…。
君のことも それに巻き込んでしまったかもしれないんです。
えっ?それが悔しくて…。
1本くらいは 君と長編漫画映画に挑戦してみたかった…。
この会社にいてもその可能性は もうないだろうな…。
そんなこと まだ分かりませんよ!
(露木)そう まだ分かりませんよ。
君をテレビの演出にしたのは 私だよ。
えっ 露木さん…。露木さんが?うん。
君は 全く新しい環境で演出家になった方が伸び伸びできるんじゃないかなってそう思ったんだから。
だから テレビに行っても くさるな。
そうですよ。 テレビで また頑張ればいいじゃないですか!
そりゃ 君は多くのアニメーターからは嫌われてるよ。
えっ?そりゃ あれだけ理屈で攻めたらもともと感性で動く芸術家肌のアニメーターたちからそっぽを向かれたってこれは しかたのないことだ。
それに労働組合の幹部なんかやってるから会社からだって煙たがられてる。
君の味方は ほぼいない。 もうゼロだな…。
あの…くさるなって言ってるんですよね?
そう だから くさるな。くさったら負けだ。
人に嫌われる勇気を持つことも演出家にとっては大事な資質なんだ。
君は 生まれながらにしてその資質ってもんが備わってる。
それは励ましですよね?(露木)もちろん。
新しい環境で自分を磨くチャンスだと思って頑張れ。
はい 分かりました…。
あほんだら お前 声ちっちゃいねん。
自分も 関西出身やったらな根性見せたらんかい。
えっ 関西出身だったんですか?
中学までは 神戸にいたんです。
そうやで。え~っと あきちゃん?
あっ ふゆちゃん?
あっ… はるちゃん?
残ってるのです。あっ なっちゃん…。
坂場のことを頼むな。
内助の功で しっかり支えてやってくれ。
はい 分かりました。
えっ 今 何て言いました?
えっ?めちゃくちゃ うわさになってるよ。
えっ?ハハ… じゃ お疲れ。
うわさって何ですか?
えっ… ねえ うわさって何だろう?
さ… さあ…。さあって どうするの? そんなうわさ。
う… うわさなんて気にしなくてもいいでしょう…。
2人の関係は 周りが思うようには近づいていないようです。
では。
そうですか…。
数日後 新しい部屋にテレビ班の作画室が置かれました。
(荒井)商売道具やろが。大事にせんか ボケ!それ こっちや!あっ…。
何ですか あれは!(猿渡)新しく来た制作進行だよ。
人手が足りないから京都の映画撮影所から呼んだらしい。
おい おい おい おい… そこの3人何 ぼ~っと立っとんねん。手ぇ出さんかい ボケ!
(3人)はい!
私 無理かも…。
そして そのころ雪次郎君にも人生の転機が訪れようとしていました。
(福島)それじゃ 今から次回公演の「かもめ」の配役を発表します。
アルカージナ 亀山蘭子。(蘭子)はい。
(福島)トレープレフ 小畑雪次郎。
小畑雪次郎!
(雪次郎)はい!(虻田)ちょっと待って下さい。
その配役に 異議を申し立てます。
異議?
小畑雪次郎が なぜ 主役に選ばれたかその理由を説明して下さい。
何だ? 君たちは…。
我々は この配役が 一人の俳優の私情によって決められていることに問題を提議します!
(福島)それは 全く事実無根だよ 君。
我々の意見も聞き入れ新たに 劇団の総意として演目と配役が選ばれることを要求します。それができなければ 我々は この公演に一切 協力することはできません。
(蘭子)しかたないわね。
できないという人に無理に参加してもらうことはないわよ。
雪次郎君が主役に?
(レミ子)それに若手の劇団員のほとんどが異議を唱えて公演をボイコットするって言いだしたのよ。
そしたら 蘭子さんもそれを認めちゃって…。
(咲太郎)雪次郎との関係を認めたのか?
そうじゃないけど… そう思われたと思う。
はあ~ やっぱり うわさは本当だったか!
そんなうわさは 事実じゃありません!蘭子さんに失礼です!
自分の実力だけで大きな役をつかんだと思ってるのか?
たとえ 恋愛関係になくとも君が亀山蘭子からえこひいきを受けてるのは事実だ。
じゃ 俺に どうしろって言うんだよ!
(虻田)我々は 君の力を買ってる。
いや… 我々こそが君の実力を認めてるんだ。
そうだ!そうよ!
我々と一緒に 新しい劇団を創らないか?
一緒にやろう。小畑。雪次郎。
雪次郎君。小畑君。
新しい演劇を創らないか 小畑雪次郎!
そのことを考えるとこの身を引き裂きたくなるのです!
(拍手)
蘭子さんと共演することが亀山蘭子という女優と共演することが夢でそのために ここにいます。
だから 今は 辞めるわけにはいきません。
(虻田)亀山蘭子が 君の夢か?
それなら その夢を追いかける方が今の君には楽だもんな。
悪いけど 俺たちは先に行かせてもらおう。
♪~
とにかく 雪次郎君の気持ちは純粋に芝居だけに向かってることは確かなの。
だとしたら 余計に苦しい立場だね。えっ…。
(松井)やっかみだよ やっかみ。
しかし 劇団ってところは昔とちっとも変わらねえな 亜矢美ちゃん。
フフ まあね…。(松井)亜矢美ちゃんも 売れ始めた頃はさんざん 周りの踊り子にいじめられたもんな。
客と恋愛なんかするなとかさ。えっ 何ですか? それ。
いや もう 忘れちゃったって…。
あ~ もう そんな大昔の話やめてよ松ちゃん。
しかし それに比べると 雪次郎の方は名優と若手の恋か…。演劇界では よくあるおとぎ話みてえなもんだな。
(島貫)おっ 亀山蘭子に竜宮城に連れてってもらうのか。
(松井)アハハハハ…!そんな失礼なこと言わないで下さい!
なつよ むきになるのは恋のうわさに君もイライラしているからか?