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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第1章 エルディア王国編

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第1話 勇者召喚と王都追放

初投稿です。未熟者ですので、誤字・脱字・不自然な流れがあればご指摘いただけると幸いです。

 高校の授業が終わり、帰る支度をしていたら急に視界が切り替わった。

 見慣れた教室が、中世ヨーロッパのような大広間に変わっていたのだ。あたりを見回すと、近くに同じクラスの生徒がいた。少し遠くには他のクラスや学年、教師達がいる。タイミングが正しければ、ただの全校集会といえば通用するだろう。


「夢、か?」


 これが噂に聞く白昼夢という奴だろうか。いや、夢の自覚があるのは明晰夢というのだっけ。しかし、五感から得られる情報が夢とは桁違いだ。この段階で俺は夢ではないと断定し、情報を分析することにした。

 辺りの連中は、呆けているものと慌てているものが半々くらいか。おっと、俺の幼馴染(男)の1人はいつも通り平然とした顔をしているな。あいつは肝が太いからな。動じたところを見たことがない。

 よく見ると、明らかにこの学校の生徒ではない、中世ヨーロッパ風の服装をした人たちが少し離れた位置から俺たちを観察しているのが窺える。ドレスを着ている者、紳士服のようなものを着ている者、兵士のように鉄製の鎧を着こんでいる者もいる。中世ヨーロッパのような建築物だから、俺たちの服装の方が浮いているように感じる。

そんな中、こちらを見ている連中の1人が前に出る。


「皆さまお聞きください」


 恐らく、俺たちと同年代の少女の、よく通る声が響く。少女は華美なドレスを着ていた。周囲には他にドレスを着ている者はおらず、一際存在感を放っている。まあ、なんだ…。一言でいうと、どう見てもお姫様です。ありがとうございます。ちなみに隣には王様っぽいオッサンがいる。完全に姫様に食われているね。


「私はエルディア王国王女のクリスティアと申します。ここは皆さまのいた世界とは別の世界、“アークス”といいます。召喚の儀式によって皆さまを勇者として召喚いたしました」


 やっぱり王女でした。

 自己紹介に合わせてスカートの裾を摘み、優雅に一礼する。ほとんどの男子が頬を染め、見惚れる。女子も大部分が目を奪われている。

 俺?美人だとは思うけど、見惚れるほどじゃないな。幼馴染(男)も平常運転だ。


 王女の一言で現状を何となく理解することができた。異世界に召喚される、よくある話だ(フィクションなら)。勇者になる、よくある話だ(フィクションなら)。フィクションなら次は魔王か邪神あたりを倒してくれと言ってくるころだろう。


「皆様にはぜひ魔王を倒し、我が国を救っていただきたいのです」


 なるほど、ここはフィクションか…。さっき夢じゃないって断言したのに、ちょっと不安になってくるな。

 一応頬をつねってみる。うん、痛い。やっぱり夢じゃない。


「なんだよ、これ!いきなり、こんな所に連れてきて、何言ってんだよ!」


 別の学年の男子がそんなことを叫ぶ。当たり前の反応だ。しかし、大きな反応をしたのはその男子だけで、周囲の連中はその発言に対し肯定的な反応を見せない。普通このような状況になったら、1人が大きな反応をすれば同じ立場の人間からは少なからず反応が出るはずなのに、それが一切ない。


「こちらの勝手な都合で、皆様を召喚してしまったことに関しては、謝ることしかできません。申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げるクリスティア王女。顔を上げた時には目じりに涙を浮かべていた。


「うっ…」


 声を上げた男子生徒が怯む。美少女を泣かしたとなれば、女子と付き合いの浅い男子には、怯むことと黙ることしかできないだろう。

 しかし、俺の目には王女の涙はわざとらしく感じる。


「ですが、我々人類に打てる手は、女神様が伝えた勇者召喚しかありませんでした!」


 悲痛な声で叫ぶ王女。ここまで言った段階で、声を荒げた男子は周囲の生徒から白い目で見られていた。

それにしても女神か…。また重要そうな単語だ。そして、よくある話だな(フィクションなら)。

 もしかして、聖剣とかもあるのかな?


「取り乱して申し訳ありません。すいません、皆様への説明をお願いできますか?」

「お任せください。姫様に代わりまして私の方から説明させていただきます」


 泣いている王女から、文官のような恰好の男が話を引き継ぎ、その説明によっていくつかの情報が得られた。


 まとめるとこんな感じ。野郎の説明だから、盛大に端折ったよ。


・この世界は剣と魔法と魔物と魔王のファンタジー世界。

・魔王は人類を滅ぼそうとしている。

・魔王は女神と敵対している。

・女神からの神託により勇者召喚の術を行った。

・学校にいた人間すべてが勇者として召喚された。

・異世界から呼ばれたものは女神より祝福ギフトを得られる。

祝福ギフトとは特殊能力とかスキルといったもの。

・俺たちを元の世界に帰す方法は不明。

・魔王を倒せば元の世界に帰る方法が神託で伝えられる。


 皆は帰る方法がわからないと言われ、悲しんでいた。そこに、魔王さえ倒せば女神からの神託により、帰る方法がわかると言われたことで、魔王を倒す方向に話がまとまっているようだった。絶望を与え、選択肢のない選択を迫る。うん、詐欺の手口だね。

 情報源が1つしかない以上、全部を鵜呑みにするのは危険だと思う。特に、最後の神託云々の話は向こうに都合が良すぎる。召喚した相手が善性であるとは限らないのは、フィクションでもよくあることだ。実はラスボスが召喚した国にいたりね。

 しかし、俺たちにはこの世界での伝手がないのだから、少なくともしばらくの間は、この国の言うことを聞き、力をつけ、知識を集めることにするのが、無難な選択だろう。


 まずは俺たち勇者が、どのような祝福ギフトを持っているのかを調べることから始まった。この国にある魔法の道具マジックアイテムに「祝福の宝珠」というものがある。これは、少し大きめの水晶玉みたいなもので、手をかざした者が祝福ギフト持ちなら光り輝き、どのような力があるのか表示される。

 今、俺たちは国に10個しかない「祝福の宝珠」の前で順番待ちをしている。俺達の学校、全員で800名くらいいるんだ。1人1分かかったとしても最低80分はかかる計算だ。


 ちなみに言葉とか文字とかは完全に日本語です。ご丁寧にひらがな、カタカナ、漢字、軽い英語(和製英語含む)と俺たちの世界の日本に合わせてきている。最初は魔法か何かで翻訳されているのかと思ったけど、普通に日本語でした。

 この世界作ったの、日本人じゃないよね?


 ついに俺の番がやってきた。だいたい60人目くらいだ。つまり、転移からだいたい1時間ちょっとは経っているわけだ。皆と同じように、俺も宝珠に手をかざす。

 待つことしばし、隣の宝珠の辺りで騒いでいる声が聞こえる。あれは隣のクラスの気の強い女子グループだな。元の世界でも、ああいうのには関わらないのが吉だ。

 もう1人、おどおどしている少女がいるが、同じく隣のクラスだった気がする。多分。

 リーダー格の女子がおどおど少女を馬鹿にするように笑う。


「何アンタ祝福ギフト無いの?本当に落ちこぼれねアンタ」

「さっき、全員が祝福ギフトを持っているって言われたのに。あんた全員に含まれないんだ。マジうける」

「そんな…」


おどおど少女は青い顔をしている。兵士が慌てて指示を飛ばす。


「急いで王と王女にお伝えしろ」


 どうやら、あのおどおど少女は祝福ギフトを持っていなかったようだ。兵士の慌てようと文官の説明から考えるに、想定されていない事態なのだろう。

 それにしても、あの女子たちの口調からして、元の世界でもイジメかそれに近い状況だったのだろうな。隣の教室でそんなことが起こっていたとは…。嘆かわしい。

 ちなみに、おどおど少女は結構かわいい。お下げに眼鏡と図書委員スタイルだが、素材はかなりいいはずだ。はずだ、というのは今現在涙目と青い顔で台無しになっているからだ。


「うん?」


 手元の宝珠を見てみると、こちらも光らない。もうしばらく待ってみる。やっぱり光らない。おどおど少女の同類は、ここにもいるらしい。というか、俺だった。


「ここにも、祝福ギフトなしがいるぞ!」


 宝珠の前にいた兵士が声を上げる。少女の時と同様に王たちへ連絡が行ったようだ。嫌な予感がする。すっごく嫌な予感がする。


 少しすると、大慌てで王様と王女様がやってきた。王女の隣にいたオッサンはやっぱり王様でしたね。俺とおどおど少女は並んで2人の前に立つ。


「この2人が祝福ギフトを受けられぬ者たちか」

「はい、宝珠が光りませんでした」


 近くの兵士の補足に対し、2人は困ったような顔をして続ける。


「女神様の神託では異世界から来た勇者全員に祝福ギフトがあるはずです」

「うむ、しかし神託が間違っているとは信じられぬ」

「女神様が間違えるはずありません。絶対的な存在なのです」


 いや、魔王なんかの台頭を許している時点で絶対的存在ではないのでは?この王女様、女神のことを盲信しているようだった。信仰は自由だけど、現実との折り合いをつけないと、碌な目に遭わないよ。


「ということはこの者たちは勇者ではないということでしょう」

「うむ、元の世界で何か大きな罪を犯していたり、生まれがひどく卑しいのかもしれんな」


 本人を目の前に勝手なことを言う王と王女。もちろんそんなことはしていない、と思う。

 勝手に呼び出しておいて、能力がないとわかるとこの仕打ち。うん、やっぱりさっきの男子の方が正しいな。この時点でこの国に対する俺の評価はマイナスとなっている。それと、事前にそんな神託をしておきながら、こんな状況を作った女神に関しても評価はマイナスだ。

 1つ不自然なのが周りの連中の視線だ。周りの連中は俺たち2人のことを犯罪者でも見るような目で見ているのだ。その中には俺の知り合いもいる。それも子供のころから俺のこと知っている幼馴染(女)もいる。幼馴染(男)?目つきはいつも通りだが、止めようとはしない。あいつは元々そういう男だ。

 もしかしたら洗脳でもされているのではないか、ふとそんなことを考えたが、それをこの場で口にしても、話は悪い方へとしか転がらないだろう。

 そんな中、ずっと俯いていたおどおど少女が顔を上げた。


「わ、私!犯罪なんかしていません!きっと女神様が祝福ギフト付け忘れたんですよ!」


 おどおど少女が堪え切れなくなったかのように口を出す。少女の意見には俺も同感だ。しかし、狂信者の前で信仰対象を馬鹿にするのは、ちょっと拙いんじゃないかな…。


「女神様を侮辱するとは!このような者たちが勇者のはずがありません!即刻城から叩き出しなさい!」


 予想通り王女がすごい剣幕で返してきた。しかも、口を出したわけではない俺も一緒に追い出されるみたいだな。

 そして、転移者洗脳説を裏付けるかのように、誰もそれを止めない。洗脳されていない人間なら少し考えればわかるだろう。この程度のことで勝手に呼び出した人間を追い出すような連中に、まともな精神性がないということは。

 兵士が俺とおどおど少女の腕を掴む。幼馴染(男)?アイツは絶対に動かんよ。


「いやっ!離して!」


 俺とおどおど少女は兵士に連れられて、城の中を歩いていた。少女は半狂乱で色々言っているが、俺はどちらかというと安心していた。まともな精神性を期待できない連中だ。あの場で殺しにかかってきてもおかしくはなかった。それを考えれば、追い出されるだけというのは随分とマシなのだろう。あるいは、同郷のものを目の前で殺して、洗脳が解けるのを恐れた可能性もあるけど…。

 もちろん、殺されそうになったら、無抵抗というわけにはいかないけどね。

 洗脳されているとはいえ、俺たちを見捨てた連中だ。あまり彼らのことは考えない方がいいだろう。まあ、俺らほどは扱いも悪くないだろうしね。

 そんなことを考えているうちに王城から出ることになった。さて、とりあえずこの街を見て回るか。王族、貴族は信用できないが、街の方は少しくらいマシかもしれないし。文官の話ではここは王都ゼルガディアというらしい。どうでもいいか、長居はしないだろうし。


「城を出たことだし、そろそろ離してもらえますか?」


 兵士に向かって聞いてみる。しかし兵士たちは、いやらしい笑みを浮かべて答える。


「いいや、お前たちには王城だけでなく、王都も出ていってもらう」

「事実上の流刑だ。王都の外で野垂れ死ね」


 その言葉で、俺はこの国がどうしようもないクズ国であることを心から理解した。

 他の勇者の前では、あくまで城から追い出したことにして、実際には街から追い出す流刑を実行する。魔物が生息するこの世界において、戦う力を持たない人間が街の外に出れば、死ぬ確率は非常に高いだろう。異世界からやってきて、この世界のルールを知らず、祝福ギフトすら持たない人間ならなおさらだ。

 もういいよな、我慢の必要もないよな。この国の連中には、見捨てるだけの理由があるよな。

 覚悟を決めよう。この世界を生きる覚悟を。


 兵士に連行されながらも、街の様子を確認する。城と同じく中世ヨーロッパの街並みだ。王都というだけあって、中々にきれいな建物が多く、こんな状態でもなければ観光の1つでもしたかっただろう。とはいえ、今の状況では二度と来たいとは思えなかったけど。

 街は外壁によって囲まれており、東西南北に1つずつ門がある。俺たちは、その内の北門に到着した。


「さっさとどこかへ行け」

「なんだってこんな奴らが転移してきたのか…」


 兵士たちは門の外で俺たちの手を放し、口々に罵倒する。さらには近くにいた門番に俺たちを王都に入れないように伝えるという徹底ぶりだ。


「ぐすっ、ぐすん」


 その場で座り込んで泣くおどおど少女改め号泣少女。さっさと離れたいのだが…放っておくわけにもいくまい。

 できる限りやさしそう(やさしいではない)な顔をして近づく。


「俺、2-Bの進堂仁しんどうじん。君の名前は?」


 顔を上げ、俺のことを見つめるおどおど少女。近くで見てもやはり素材はよさそうだ。泣き顔が台無しにしているのは相変わらずだが…。


「ぐすっ。私、2-Cの木ノ下さくら…です」

「木ノ下さんだね。木ノ下さんはこれからどうするつもり?」


 俺の質問に、木ノ下さんは絶望の表情を見せる。


「どうしようもないですよ…。こんなところに放り出されて…。死んじゃうんですよぅ…」


 だいぶ心が弱っているようだ。うん、そりゃそう思うのも無理はない。異世界で無一文。伝手もコネもない。しかも王家とは軽く敵対関係。詰んだ。詰んじゃった。


「木ノ下さん。俺はね、道沿いに歩いていって、他の村か街を目指そうと思うんだ」


 俺の言葉にあわてたように、木ノ下さんが返してくる。


「外には魔物がいるんですよ!村に着く前に殺されちゃいますよ!それに…。それにここにいれば、誰かが助けてくれたり、街に入れてくれたりするかもしれないじゃないですか。学校の人たちだってもしかしたら来てくれるかもしれないし、魔物は門の兵士さんが倒してくれるでしょうし…」


 ずいぶん都合がいいことを言う。そんな国だったら、城から追い出されるわけがないじゃないか。悲しいことに、木ノ下さんが縋ろうとした希望にはすべて反論ができてしまう。


「無理だろうね。これから夜になるから、人通りは少なくなると思う。学校の連中は俺たちが王都の外にいるとは思ってないだろうし、勇者だからといってすぐに町の外にも出てこないだろう。兵士たちが門番に俺たちを入れるなって伝えていたから、俺たちが襲われても助けてくれないかもしれない。それに、何より…」

「何より?」

「この街にいたくない。この街の世話になんかなりたくない。木ノ下さんはどう?ここまでのことをされたこの街にいたい?助けてほしい?」


 不愉快な連中に媚を売るくらいなら、街の外を目指したい。木ノ下さんは俺の言葉を受け、俯きながら考える。数10秒経ち、顔を上げた時には覚悟を決めたようだった。


「私も…、この街では不快なことしかありませんでした。こんな街のお世話になるくらいなら、無理をしてでも他の街、いいえ他の国を目指したいです」


 木ノ下さんも俺と同じ考えのようだ。今のところ嫌いなのはこの街だけだが、国のトップである王家があれなのだ。国全体に期待が持てるわけがない。

 俺の方を向いたまま懇願するような表情をして木ノ下さんが続ける。


「お願いします。私も一緒に連れていってください。どんなことでもします。足手まといにならないように頑張ります。だから、どうか…」

「わかった。一緒に行こう」

「え?」


 木ノ下さんが呆けたような顔をする。いや、頼みごとをして、OKをもらったら呆けるっておかしくね?


「いいんですか?私、見ての通り鈍臭いですよ。足手まといにならないように頑張るとは言いましたけど、多分足手まといになります」


 先ほどとは打って変わって、自信なさそうに言う。というか、かなり自己評価低いなこの子。


「そもそも、木ノ下さんが言わなければ、俺の方から誘っていたよ。こんなところに2人で放り出されたんだから、協力するのは当然じゃないかな?」

「あ…」


 それだけ言うと、木ノ下さんの目から涙がこぼれた。


「ど、どうしたの?また泣いちゃって、何か問題でもあったの?」

「いえ…。私、そんな風に優しい言葉かけてもらったの久しぶりで…、これは嬉し涙です…」


 思っていたよりも木ノ下さんを取り巻いていた環境は厳しそうだった。隣のクラスで起きていたであろうイジメは、この程度の言葉で人を泣かせてしまうようなものだったのだろう。不遇な人ほど、大変な時ほどやさしい言葉に弱いというけど、今まさにそんな感じ。木ノ下さんが、涙で潤んでキラキラした目でこっちを見ている。端的に言うとチョロい。


「そうと決まったらさっさと移動しよう。できれば日が暮れる前に他の村とかに着けるといいんだけど…」

「わかりました。ついていきます。と、そういえば魔王を倒して元の世界に帰るっていうのはどうしますか?」


 この国に従わないのだから、考えるまでもないだろう。


「魔王を倒したからといって、帰れるわけじゃあない。女神や王女の言ったことが本当である保証もない」

「確かに何の証拠もありませんでした」


 もし間違いが含まれていたとしても、あの場にそれを修正できる人間はいなかっただろう。


「王女が言うには、勇者が魔王を倒したら、女神からの神託が来て帰る方法が伝えられるってことらしい」

「はい。そう言っていましたね」


 この辺の話は全員が聞いている。聞いた時から違和感があったけど…。


「この話の中で、女神が帰してくれるとは一言も言っていない。つまり、女神は『帰る方法を知っているだけ』の可能性もある」

「あ…」


 畳みかけるように言葉を並べていく。


「ついでに言えば勇者の条件を満たさない俺たちが魔王を倒しても、女神が帰還方法を教えてくれるとは思えない。だったらいっそのこと自分たちで探すべきだ。本当に元の世界に帰れるかはわからないけど、一応は餌としてぶら下げてるんだ。ある可能性もそれほど低くはないだろう」

「すごいです。そんなことまで考えていたんですね…」


 もっと褒めていいのよ。


「泣いているだけの私とは大違い…」


 今度は悲しそうな涙を浮かべる。悲しくて泣く→嬉しくて泣く→悲しくて泣く。泣いてばかりだな、木ノ下さん。

 そして、褒めてくれるのはいいんだが、自虐の方に走られると面倒くさい。木ノ下さんに手を差し伸べていう。


「気にしなくていいよ。木ノ下さんは俺が守るから。だから一緒に行こう」


 涙を拭って返事をする。


「……わかりました。不束者ですが、これからよろしくお願いします。進堂君」

「よろしく。木ノ下さん」


 あいさつに若干の違和感があるけど、木ノ下さんが手を取ってくれた。そのまま力を入れて立ち上がらせる。

こうして、俺と木ノ下さんは王都を追い出され、2人でこの異世界アークスを旅することを決めたのだった。


20150726改稿:

仁が元の世界に帰れるという話を頭から信じている点が不自然なので修正。


20150911改稿:

修正(6)の内容に準拠。

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