木村草太の憲法の新手（108）音楽教室から著作物使用料　レッスン曲に演奏権を主張　子ども・初心者も対象か

　２０１７年、著作権等管理事業者の日本音楽著作権協会（ＪＡＳＲＡＣ）は、音楽教室のレッスンについて、演奏権に基づく音楽著作物利用料を徴収する方針を示した。多くの音楽教室がこれに反対し、同年６月、使用料請求権不存在確認訴訟を提起した。この訴訟は、憲法の財産権保障を考える上でもとても興味深いのだが、今回は、前提として、著作権法上の論点について検討しておこう。

　今回の利用料徴収の根拠となっている「演奏権」とは、著作権者が著作物に関連して持っている多数の権利の中の一つで、「著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」「上演し、又は演奏する権利」のことだ（著作権法２２条）。著作権者は自分の著作物を自由に演奏できるが、著作権者以外の者が公衆に直接聞かせる目的で「演奏」するには、著作権者の許諾が必要だ。許諾なしに「演奏」をすれば、差し止め・不当利得返還請求・刑事罰などの対象となる。

　では、ＪＡＳＲＡＣ側は、どのような構成で、音楽レッスンが演奏権に基づく利用料徴収の対象だと主張しているのだろうか。実は、音楽教室のレッスン中の演奏について、講師の演奏はもちろん、受講者の演奏も、著作権法上の楽曲演奏主体は、音楽教室だと主張する。

　少々分かりにくいかと思うが、過去の最高裁判例には、スナックで客が歌うカラオケについて、演奏主体は客ではなく、店だとしたものがある。店は、客を通じて楽曲を演奏し、その客自身や他の客といった「公衆」に聞かせ、飲食代やカラオケ利用料などの形で演奏の対価を徴収している、というわけだ。

　この理論をそのまま音楽教室にもあてはめると、講師がお手本を見せるのも、レッスン受講者が講師の前で演奏するのも、著作権法上の楽曲演奏主体は音楽教室となる。音楽教室は当然のことながら、レッスン料を取っている。このため、営利目的で、公衆（受講者）に演奏を聞かせ、その対価を徴収しており、利用料徴収の対象だ、ということになる。

　これに対し、音楽教室側は（１）レッスン受講者は「公衆」と言えない（２）練習のための演奏、特にレッスン中演奏の主要部分である受講者本人の演奏は、「公衆に聞かせることを目的として」いるとは言えない（３）レッスン料は楽曲を聞かせることへの対価ではなく、技術指導の対価だ－などと主張している。

　ＪＡＳＲＡＣは、音楽教室での著作物使用料徴収は、音楽の作り手が安心して創造作業に専念できる環境を作りだすために必要だと強調する。確かに、作詞家・作曲家の権利を守ることは、より良い作品の創造へとつながり、社会を豊かにする。レッスンの中には、「見本」の名目で、講師コンサートに近いことが行われる事例もあるだろうから、利用料徴収の対象とすべきレッスンがあることは否定しない。

　しかし、子どもや初心者のレッスン中の演奏までも、「公衆に聞かせるための演奏」と評価するのには無理を感じる。

　次回は、著作者の保護をどう実現すべきか、憲法学の「公共の福祉」の観点から分析してみたい。（首都大学東京教授、憲法学者）