早野龍五先生らの論文の修正に思う

この話は年末からスタートしたらしいのですが、全く知らなかったです。ニュースを先ほど感知しました。

問題点は2つあるようで。。。

  1. 個人情報を入手し論文等で発表する過程で、許可を得ていない人がいた。
  2. 線量を1/3程度に計算ミスしているデータがあった。

ネット上ではさぞかしバッシングを受けているのでは、、、と思って検索すると、予想通りたくさん叩かれています(これを炎上というのでしょうか?)。さて、ご本人のツイッターはどうなっているかな?と思って久々ツイッターをwebsiteで開くと、、、なんと完全に通常運転!肝が据わっていらっしゃいます。私も伊達市でイネの試験作付に参加させていただいたこともあり、早野先生のご活躍は良く存じ上げていますし、環境の放射能汚染という専門外のことに果敢に取り組む姿勢は、同じく専門外ながら放射能汚染下での農業問題に取り組んでいた当時の私としては、学ぶところ多々ありました。その上で、今回の事を私なりに理解してみました。

まず、1.は研究の作法の話ですね。私は東京大学農学部において選任された放射線取扱主任者として個人線量被ばく記録を取りまとめたり、内部被ばくをしていないことを最終的に確認する立場にいるので、この個人線量の情報はかなり身近です。一方で、このような線量被ばく記録はもちろん個人情報ですので、外部に漏れることは避けなければならず、現況、インターネットにつながっていないノートパソコンで管理しています(余談ながら、近く、東京大学として一括管理する方向でシステム開発を進めているところですが)。私としては、この被ばく記録は、病歴に匹敵するほど、使い方次第では危ない情報だと考えています。今回、伊達市民の被ばく記録については、データを発表する前もしくは線量計を渡すときに、「得られたデータを2次利用することに同意します」といったような同意書を得ているものと早野先生は考えたでしょうし、現場もそうしたつもりだったと推測します。しかし、放射能汚染対策や除染問題でばたばたしている最中ですので、書類手続きに抜けがあったのでしょう。その結果、今回騒動となるような凄い数のデータが同意書無しで利用されたことになったのかな、と思います。もちろん、同意なく利用すれば倫理違反です。

これに類似した話は私たち農学者はかなり気を遣ってきたところです。農作物中の放射性セシウム濃度を報告することはよいけど、その農作物を食べて放射性セシウムが多少体内に入った際の内部被ばくは健康に影響ありますか?という問いには、農学者として返答できることは、内部被ばく量を示すことのみだと考えています。これが、「食べても健康に問題ないですよ」といった医学的なことや、「食べても安心ですよ」といった心理学的なことは、農学者が公に言えることではないと判断してきました(個人的な会話だと言ってしまうこともあったかなと思いますけど・・・)。このあたりが、まさに専門外のことを取り扱う難しさです。・・・と、ここまで書いて気になったので原著を当たったのですが、、、主著の方がそのままcorresponding authorもやっているようですね。しかも、福島県立医大に所属するお医者さん、、、?ならば、この辺りの問題には抜かりなさそうですけどなんででしょう。。。尚、著者名に名が入っている限り、どの順番がどこであれ、その論文の内容について責任があります。

2.については、「いままでだまされた!」という感想を持つ方がいらっしゃるのは尤もなことです。どのデータが本来は3倍高いのかは発表されてから考察したいと思います。論文としては、どちらかといえばそれほど高い被ばくはなく、「安心情報」を出すような形だったと思いますが、さて、どんなデータになるのでしょう。ところで、こういう計算ミスは、Excelのシートで間違えたまま、なんてこと単純な話でありそうです。私も共著の際のデータ提出には細心の注意を払っています。仮に渡したデータの計算が間違っていて、結果に影響したと考えると、、、冷や汗ものです!

ところで、、、ここにきて、「やっぱり福島県産の農産物はあぶないんだ!」という書き込みがちらほら。。。今回の件は外部被ばくであって、内部被ばくは関係ないですし、同じく早野先生たちはホールボディーカウンター(WBC)で、内部被ばくのレベルがかなり低いことを示していますが、こちらは今回の修正論文とは測定方法からして違いますので、今回の線量計算のミスはWBCの論文には影響しないと思います。そもそも、県のモニタリング情報を見れば、放射性セシウムのレベルは検出できないぐらいの低さであることはここ数年の傾向です。流通している農産物は「安全」に食べていただけます。(安心かどうかは人それぞれですので、安心して食べましょうとは申し上げません。)


4 Replies to “早野龍五先生らの論文の修正に思う”

    1. ご指摘ありがとうございます。
      ご案内いただいたURLは、すごく良くまとまっているサイトですね。

      私は2つの問題点と思ってましたが、

      1. 個人情報を入手し論文等で発表する過程で、許可を得ていない人がいた。
      →公開方法や承認の方法に問題があった。

      2. 線量を1/3程度に計算ミスしているデータがあった。
      →その他にも指摘事項があるが回答を得ていない。

      ということになりますでしょうか。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください