2017.12.19

CtoCアプリで、食文化のサスティナビリティを支える

ありそうでなかった、 「生産者目線」のサービスの仕組み

「メルカリ」をはじめとする、アプリによるCtoCサービスが注目を集めています。全国の農家・畜産家・漁師がスマホから直接消費者に向けて食品を出品・販売できる、フリマ感覚のCtoCサービス「ポケットマルシェ」もその一つ。「生産者目線」でサービス構築をおこない、これまでになかった生鮮魚の扱いをも実現したその仕組みについて、取締役 COO本間勇輝さんにお話を伺いました。

目次

「つくる人」と「食べる人」が直接つながるCtoCプラットフォーム

生産者から直接農作物などを買えるサービス「ポケットマルシェ」の成り立ちについて教えてください。

「日本の農漁業は、生産者の減少や高齢化をはじめ、多くの課題を抱えていますが、この問題の根源は『つくる人』と『食べる人』の関係の乖離だと私たちは考えています。この両者の関係をもう一度紡ぎ直すことで『サスティナブルな食べ物の未来につなげよう』というのが、私たちがポケットマルシェをスタートした理由です。」

「ポケットマルシェ」アプリのメイン画面

 “「つくる人」と「食べる人」をつなげる”というコンセプトは、株式会社ポケットマルシェの代表取締役 高橋博之さんが編集長を務める情報誌『東北食べる通信』と共通しますね。

「はい。食べ物付き情報誌『東北食べる通信』は2013年にスタート、そのモデルは全国39の地域に広がるなど、共感を生む取り組みとなりました。ただ、この『食べる通信』は1生産者特集型で、生産者のキャパシティに応じて読者も限定しなければなりません。 すると、丁寧に紹介できる点は理想的ですが、スケーラビリティに限界がありました。そこで出てきたのが、スマホアプリで直接つなぐアイデアです。」

「食べる通信」とは、東日本大震災をきっかけに生まれた“食べ物付き情報誌”。食のつくり手を特集した情報誌と、彼らが収穫した食べものがセットで定期的に届く。

個人で簡単に参加でき、低コストであることは、スマホアプリ化の最大のメリットですね。

「スマホさえあれば、どこでも誰にでも見てもらえるし、そこに特化したユーザー体験を設計できるのもメリットですね。ポケットマルシェで小さな『食べる通信』を生産者なら誰でも発行できればいいなと考えたんです。」

フリマアプリ感覚で食品の直送販売・購入

「ポケットマルシェ」の仕組みについて教えてください。

「基本的にスマホアプリ1つで成り立ちます。生産者は生産物の出品・コミュニティ運営・販売管理などが行えます。消費者は、生産者のフォロー、コミュニティ投稿、購入などが可能です。誰でも買える、誰でも売れるのは「メルカリ」のようなフリマアプリと一緒ですが、食べ物を扱うため、出品者は認可書類の提出などの厳正な審査が行われる点は異なります。」

CtoCの直接のやりとりだからこそ、プラットフォーマーとして品質管理は重要ですね。

「国基準の書類審査のほか、半数ほどの生産者の元へも我々は足を運んでいます。」

生産者と消費者が直接「つながる」ことで生まれる感動

株式会社ポケットマルシェ 取締役 COO本間勇輝さん

「ポケットマルシェ」は単なる「売買」のためのプラットフォームというより、「生産者の方と出会える場」としての魅力があると思っています。言い方を変えると、コミュニケーションがサービスの核にありますね。

「マルシェ(市場) を訪れる楽しさって、その場の雰囲気や会話にありますよね。その楽しさをまとめて入れ込むには、コミュニケーションが必要だと考えました。生産者のページをのぞくとおいしそうな写真や、生産者と購入者の和気あいあいとした会話がコミュニティのウォール上で広がっている。これから購入する人も『ワクワク感』を持つことができます」


プラットフォームにおけるコミュニティの強さってなんでしょう。


「コミュニケーションをするうちに、消費者は生産者の「ファン」になるんです。コメント欄には、購入者からのお礼やアップロードされた調理写真が大量に届きます。これまで、たとえばスーパーなどで食べ物を買うとして、生産者に直接お礼が言える場ってなかったんですよね。
都会に住む人には、小さくて手触りがあってルーツがわかるものとつながりたいというニーズが元々あって、そこにマッチしたのだと思います。
ある漁師さんのページはいつも賑わっていて『ハタハタを買ったら…おまけにカニが入ってました!! 』なんていう驚きのハプニングもあるんです」

ユーザーからの人気も高い伊藤徳洋さんのコミュニティ

漁師の方にとってはサイズが規格外といった「市場に出せないもの」などの理由で入れているだけかもしれませんが、食べる人にとっての「漁師のふつうの振る舞い」に触れる感動は大きいんです。また、収穫量が少ないため地元で消費されてしまうような市場に出回らないものに出会える楽しさもあります。

「面倒」なことを価値にする仕組み

「ポケットマルシェ」は、農家・畜産家だけでなく漁師というこれまでCtoCのマーケットにほとんどいなかった人がCtoC展開しているところがユニークですね。

「食の生産現場というのは、本当に面白くて、たくさんの人が関心を寄せています。ただ、生産者の方々に農作業や漁のかたわら、スマホアプリで直接食べ物を出品してもらおうという人は我々の他いませんでした。特に、漁師の方に参加してもらうという仕組みはこれまでにないサービスです。
生産者に参加してもらうには、まず負担を減らすことが重要。そのために、生産者側の負担を極力減らした流通システムを構築しました。その結果、生産者は順調に増えて現在400人を超え、予想以上に好意的に捉えていただいています。
いわゆる流通系の直販は便利な『消費者目線』でサービスを設計するのが基本と思いますが、ポケットマルシェは『生産者目線』。ですから、むやみにセールをしたり、生産現場に負担がかかる利便性の追求はしません。一つ一つバラつきがあって、多様性があって、面倒なことがある。だからこそ、そこも含めて『食べ物を楽しもう』をテーマにしてるんです」

参加する動機にはビジネス的な面もあります。自分で生産物を出してそれで儲かるのかという不安もあるのでは。

「『東北食べる通信』でやってきたこともそうですが、食べ物を『食べ物だけで売らない』ことが重要です。食べ物に『情報』と『コミュニケーション』を付加して、価値を上げて販売しようとお話しています」

SNSや口コミで話題になることと同じですね。だからこそ、コミュニティで会話や口コミができるスマホ上のプラットフォームは強みになりますね。

「おいしい魚って何なんだろうって食の背景を知ると、食べることがもっと楽しくなります。人と人の新しい出会い、次に何が届くかわからないドキドキ。そういった体験をして楽しんでもらえることから、ポケットマルシェを使いたいと思う層がさらに増えていって欲しいと考えていますし、それが生産者、ひいては多様な食文化のサスティナビリティにつながっていくと考えています。」

CtoCやフリマというマイクロコマースの世界では「中抜き」や「即金」といった利便性や効率化にとかく目がいきがちですが、ポケットマルシェのCtoCの鍵は、むしろ、人と人がつながる温かさや、直接お礼が言える近さ、「面倒なこと」を逆に楽しめる「コミュニケーション」にあるようです。

究極に便利になって裏側が見えなくなった食の世界では、むしろ裏側をもっと知りたい、つくり手に会いたいというニーズはさらに伸びていくと思われます。直接、血の通ったやりとりをすることで「食の安全性への信頼」も生まれそうです。食に限らず、ITを使ったCtoCプラットフォームでは、バックエンドは効率化しつつも、いかに有機的な人間同士のコミュニケーションをはぐくむかが、サービスを伸ばすポイントになりそうです。

本間 勇輝

株式会社ポケットマルシェ 取締役 COO

2001年富士通(株)入社の後、2005年に(株)ロケーションバリューの創業に携わり、 取締役COO就任。退社後(同社は2011年ドコモに売却)、妻と2年間世界中をまわる。2011年帰国の後、『東北復興新聞』創刊。2013年に史上初!?の食べ物付き情報誌 『東北食べる通信』創刊、翌年には一般社団法人日本食べる通信リーグを立ち上げ『食べる通信』の全国展開を牽引 。2016年(株)ポケットマルシェを創業し取締役 COO就任。著書に『ソーシャルトラベル』『3YEARS』。

Written by:
BAE編集部