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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第九章:回復術士は新たな道を示す

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第九話:回復術士は世界会議を支配する

いよいよ、第六巻が角川スニーカー文庫様から7/1(月)に発売しました! 特典などは活動報告に書いてあるのでそちらでチェック!

 世界会議にイヴが乱入した。 

 最高のタイミング。

 このことを予想したものは誰一人いない。


 むろん、ある程度諜報戦を得意とする国であれば、俺の仲間に黒い翼の魔族が居たことは知っているだろう。

 しかし、それが魔王で今このタイミングでやってくると読んでいたものはいない。

 ……そういう読みができるのはおそらく世界で二人だけ。エレンとブレットぐらいだ。

 恐怖と嫌悪と奇異の視線が集まるなか、イヴが口を開く。


「えっと、私たちの領土のこと人間たちは魔族領域って呼んでるんだよね」


 魔族領域というのはあくまで人間たちがつけた名称だ。

 実際のところ、魔族たちは魔族たちでいろんな国や街の名前をつけているし、それらを一括りにする言葉も用意している。


「改めて言うよ。魔王イヴ・リースの名において、パナケイア王国と魔族領域は同盟を結ぶ。パナケイア王国の敵は、魔族領域は敵として認識するし、逆に魔族領域の敵はパナケイア王国の敵でもあるよ」


 そう宣言したイヴは俺の隣までやってきて、隣に座る。

 そして、いたずらっぽい表情で俺の顔を見た。

 着席したのは会議に参加したという意思表示。

 司会をしている聖帝が怒りに唇をわなわなさせている。いや怒りだけじゃない、不安と恐怖も混じっている。


「戯言です! 魔王がこの場にやってくるなど、ありえない!」

「ありえないも何も、私は魔王だよ。……ほら、ね? わかるでしょ?」


 イヴが己の力を放出する。

 魔王候補者から魔王になったときに、その力と叡智を引き継いだ。

 つい最近まで、その力を持て余してろくに使えてなかったが、ようやく馴染んだようだ。

 解き放たれた魔力は圧倒的であり、何よりその質が禍々しすぎた。

 力の一欠片を晒したに過ぎないのに、ある程度魔力を感じ取れるものは、その力に当てられ、凍りついた。

 億の言葉よりも説得力がある。

 こんな化物、魔王以外に存在しないと。

 聖帝ですら、理屈ではなく魂でイヴが魔王、あるいはそれに匹敵する存在だと理解してしまった。


「なぜだ、なぜ! 汚れた貴様が、神聖な我が国に、この場に! 人類の敵が!」

「うーん、そうだね。たしかに私たちは人類の敵かも。戦争してるし。でも、私たちからしたら、喧嘩を売ってきたのはそっちなんだけど」

「この清浄なる大地は我らが神により与えられたもの。汚れし命は消えなければなりません。これは聖戦です!」


 世界の中で魔族との戦争に積極的だったのは、戦うことでよそから援助を名目にさまざまなものを奪い取ったジオラル王国だけじゃない。

 ファラン教もまた、その教義のために魔族をすべて駆逐し、魔族領域を手に入れようと戦争を後押ししていた。

 ……まあ、だからジオラル王国とファラン教は大の仲良しだったのだが。


「うわぁ、そういうこと言うんだ。ちょっと不快だね。私たちだって生きてるんだけど。でも、いいよ。あなたみたいなのどうでもいい。私はケアルガ……あっ、今ケアルだっけ。ケアルたちと一緒になる。私たちを認めない人たちと仲良くしようなんて思わないもん、仲良くできる人たちと仲良くすればいいからね。でも、喧嘩を売るなら買うよ。そんな存在すらしない神様なんかに滅ぼされたくないからね」


 イヴは別に計算しているわけじゃないだろうが、たまに人の心をひどく的確にえぐる。

 最後の、存在すらしない神様なんて、という台詞は聖帝からしたらとびっきりの地雷ワード。


「この場にて、パナケイア王国を人類の敵と断定します! 世界すべてで、魔族に魂を売った悪しき国を魔族ごと浄化しましょう!!」


 聖帝の野郎ブチ切れて、とんでもないことを口走っている。

 それが何を意味しているのか、本当に理解しているのだろうか?

 イヴが口を開こうとするのを制止し、立ち上がる。

 少し、予定が狂ったがこの流れは想定の範囲内。エレンがその先のシナリオを用意してある。


「世界の敵として認識する? 馬鹿じゃないのか? ここは世界会議だ。世界各国の代表が集まり、合議で話を進める場だろう。司会とはいえ、独断で決める権限などない。これを言うのは二度目だ。少しは学習しろ」

「黙れ、魔族は人類の敵です!」

「魔族を人類の敵と決めつけて何百年も無駄に血を流し続けてきた。そんなばかみたいなことをまだ続ける気か? 俺はごめんだ。こうして魔王とだって話が通じる。俺たちパナケイア王国は同盟だって結んだ。なぜ、終わらせられる戦いをまだ続けようとする」

「それは神の意思! 汚れた命は浄化しなければならないのです!」

「それは世界の事情ではなく、おまえの事情だろう。ファラン教の教義なんて、知らないし、興味もない。パナケイア王国は宣言する。ファラン教の私物となったこの世界会議にもはや意味はない。パナケイア王国とその同盟国は世界会議を脱退し、真の意味での世界会議を設立する。むろん、そこには魔族領域も参加する。数百年続いた無駄な戦いを終わらせ、手を取り会い、先に進むために」


 俺の言葉に、さきほどパナケイア王国と同盟を結ぶと宣言した国が拍手を送る。


「世界を敵に回すつもりですか」

「これで三度目になるぞ。ファラン教(おまえ)は世界じゃない。第一、俺たちに勝てるつもりなのか?」

「ふふん、ケアルと私がいれば無敵だからね。別にこの場にいる全員敵に回しても問題ないよ」


 世界会議全体にとんでもない動揺が広がる。

 なにせ、世界を滅ぼしかけたブレットを超える化物と、魔王が手を組んだ。

 そして、自分たち以外を敵に回すことになんの恐れもなく、攻めてくるなら滅ぼすと明言した。


 加えて、同盟を表明した五国はどれも大国。軍事力だけでなく、経済力も。

 同盟国とそれ以外が戦った場合、その結果は誰の目にも明白。

 もともと、魔族だけで人類全てと数百年間拮抗して戦いをしていたところに、人類最強の力が加わる。そんなもの、勝てるわけがない。

 ……そうなれば、保身に長けたものたちはどうするか?


「わっ、我々もパナケイア王国の同盟に加わる」

「我が国もだ」


 混乱の中、まっさきに二カ国が同盟への参加を表明した。

 実は事前に根回ししていたのは五カ国ではなく七カ国であり、彼らもこの会議が開かれるまえに同盟に加わることは決定していた。

 あえてこのタイミングにしたのには相応の理由がある。


「リーングランドも加わろう!」

「なら、タルニアも」

「セレンニも!」


 二カ国の参加表明を遅らせた理由とはさくらとするため。そうすることで世界会議を脱退しこちらに寝返る空気を作ることができる。

 寝返る最初の一人になるのはどの国も避けたい。

 だが、最初の一人がでなければ後は心理的な抵抗は消える。


 もともと、こちらのほうが強い。ならば、雪崩を打つようにこちら側へと流れ込んでくるのは自明の理。

 そして、参加国が多くなればなるほど、さらにその流れは加速する。

 気がつけば、ファラン教と強いつながりがある国以外のほとんどがこちらに回っていた。

 それを見て、聖帝がありえないと呟き、顔を青くしていた。


「困ったな……同盟が増えるのは嬉しいが、こうなれば、もはや脱退する意味がなくなってしまった。なにせ、こちらが最大勢力だ」


 やれやれと肩をすくめる。

 そう既に戦力だけじゃなく、国数だけでも世界会議参加国より、パナケイア同盟国のほうが多い。

 では、最終段階に入るとしよう。


「パナケイア王国から提案がある。現時点で世界会議の代表である聖帝どのには退場を願おう。なにせ、彼はさきほどから世界会議を私物化する発言が多すぎる。彼は相応しくない。……そして、これからは、このパナケイア王ケアルが仕切らせてもらう」

「とっ、通るわけがない、そんなもの!」

「いい加減にしろ学習能力がないのか? 最後にもう一度だけ言ってやる、ここはあんたの教会じゃない、世界会議だ。議論が行われる場であり、神の言葉よりも票数を優先する。……では、賛成のものは挙手を」


 多くの手が一気に挙がる。

 やるまえから結果は見えていたことだ。


「賛成多数で可決。では、これ以降の世界会議は、パナケイア王ケアルが仕切らせてもらう。そうだな、最初の議題は……人間と魔族の戦争終結について。この場で結論を出すことはどの国も難しいと思う。だが、いくつか話を聞き、持ち帰ってほしい。そして、三ヶ月後の会議にて決定しよう」


 緊急開催の場合を除き、世界会議は三ヶ月に一回ある。

 おそらく、その際に俺たちが描いた絵は完成し、本当の意味で人間と魔族の戦いは終わりを告げる。

 ……もっとも、それに伴って、様々な問題が噴出するだろうが。


 魔族との戦争を終わらせたくないものだって多い。

 戦いというのはさまざまな需要を生み出す、傭兵、武器、防具、薬、医者、宿、食料etc.

 戦いがあるからこそ潤っている人々や国があるのもまた事実。

 だが、そんなものは関係ない。

 俺がイヴと気持ちよく愛し合うために、こんなくだらない戦いは終わらせてやるのだ。

 注目が集まるのを感じつつ、ゆっくりと歩き中央の聖帝がいた場所にたどり着き、聖帝の肩を叩く。


「一般参加国となったんだ。いつまでもここに居ては駄目だろう?」


 血走った目で聖帝が俺を見る。

 だが、彼はもうなんの力もない。

 それが精一杯で力なく去っていく。

 そう言えば、散々、こちらを敵視し、嫌がらせをしてくれたな。

 俺だけじゃなく、セツナやグレンが嫌な思いをさせられた。


 礼をしてやらないと。ファラン教ごと徹底的にいたぶってやる。

 司会となった俺は淡々と用意していた台本を読み上げる。

 そうしつつ、エレンのほうを見る。……本当にエレンは化物だ。

 賠償金を回避する、そのついでに世界会議を手中を収めるシナリオを書くのだから。彼女が味方で良かった。

 こういう強さは、彼女だけのものだ。

 世界を手にした。これで今まで以上に好き勝手やれてしまう。

 戦いが終わる前に言った、リンゴを育てながらのんびりとはどんどん離れていくが、これはこれで面白いのでいいだろう。 

いつも応援ありがとうございます! 「面白い」「続きが気になる」と思っていただければ画面下部から評価していただけると幸いです!

また、7/1には書籍六巻が角川スニーカー文庫様から発売。今回の書き下ろしはめちゃくちゃ筆がノッた自信作なのでぜひ読んでください。↓に表紙と詳細があります

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