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【社説】

改憲派3分の2割れ 政権運営は謙虚、丁寧に

 有権者は政治の安定を望んだが、改憲勢力に発議可能な議席を与えなかった。安倍晋三首相は強引な改憲でなく、謙虚で丁寧な政権運営に徹するべきだ。

    ◇

 自民党総裁の安倍首相には厳しい戦いだったに違いない。今回の参院選は大勝した二〇一三年の前々回からの議席減をどこまで食い止められるかが焦点だった。

 与党は首相が設定した勝敗ライン「非改選も含めた過半数」を超え、改選だけで過半数を獲得。一二年に党総裁に返り咲いた安倍氏は国政選挙六連勝となったが、与党と日本維新の会などを合わせた改憲勢力は改正発議に必要な三分の二を参院で割り込んだ。

◆白紙委任状は与えない

 首相は選挙戦で「最大の争点は安定した政治の下で新しい時代への改革を前に進めるのか、それとも再びあの混迷の時代へと逆戻りするのかだ」と繰り返し訴えた。

 首相は第一次内閣当時、〇七年参院選で惨敗。「ねじれ国会」による混迷を経て民主党に政権交代した。苦い思い出に違いない。

 有権者は与党に改選過半数を与え、非改選と合わせて政治の安定を優先させた。とはいえ、今の安倍政権の政策や政治姿勢のすべてを是とし、白紙委任状を与えたわけではないことを、首相はあらためて肝に銘じるべきだ。

 自民党総裁としての任期は二一年九月まで。連続四期目の総裁続投がなければ最後の参院選だ。

 首相が今回、改憲を正面に掲げて選挙戦に臨んだのも、二〇年の改正憲法施行という自らの目標達成を視野に入れたのだろう。

 憲法九条への自衛隊明記など改憲を目指す四項目に言及し、「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、国民にしっかりと自分たちの考えを示し、議論を進める政党や候補者を選ぶのか。それを決める選挙だ」と繰り返し訴えた。

◆改憲以外に課題が山積

 憲法九六条には改正手続きが明記されており、改憲自体は否定されないが、改憲しなければ国民の生命や権利、財産が損なわれる切羽詰まった状況ではない。有権者が参院で改憲勢力に三分の二を与えなかったことがそれを示す。

 自民党が条文イメージを提示した四項目は自衛隊の明記、緊急事態対応、(参院選での)合区解消・地方公共団体、教育充実だが、これらは現行憲法の下、法律での対応が可能なものばかりで、改憲が不可欠とは言い難い。

 首相は参院選結果を受けて「三分の二の多数は、これから憲法審査会の議論を通じて形成していきたい」と、改憲を目指す姿勢に変わりないことを強調した。議論を強引に進めるのなら、改憲ありきとのそしりは免れまい。

 改憲よりも喫緊の課題は山積している。例えば少子高齢化の中、経済的繁栄や暮らしをどう維持するのか。支え手の減少が避けられない年金制度をどう維持していくのか、膨らむ国・地方の借金をどう減らしていくのか、などだ。

 これらはいずれも困難な課題である。痛みを伴う政策には国民の理解が必要だし、政策を安定的に遂行するには、与野党を超えて政治力を結集する必要がある。

 衆参での与党多数という政治的資産は、緊急性に欠ける改憲などではなく、こうした難しい政治課題にこそ振り向けるべきだ。優先順位を間違えてはならない。

 十七日間の選挙戦を振り返ると、建設的な政策論議というよりは対立する政党や候補をののしったり、さげすむ場面が目立った。

 特に首相は、立憲民主、国民民主両党などに分かれた旧民主党勢力を「毎年首相が代わり、不安定な政治、決められない政治の下で重要課題は先送りされた。あの時代に逆戻りをさせてはならない」と繰り返し攻撃した。

 選挙だから舌鋒(ぜっぽう)が鋭くなるのは仕方ないにしても、政治指導者が敵対勢力を執拗(しつよう)に攻撃し、分断をあおるような手法の危うさに、そろそろ気付くべきではないか。

 低投票率の背景には、有権者がそうした不毛なののしり合いを嫌気した面もあるのではないか。

 参院選後の臨時国会は八月一日に召集の見込みだが、本格的な論戦は秋に持ち越される。

◆三権分立を機能させよ

 私たちは、国会が行政監視や国政の調査機能を果たしていないと指摘してきた。三権分立の機能不全であり、その原因は主として行政府である首相官邸への過度の権限、権力集中と、安倍政権による強引な政権、国会運営にある。

 有権者は参院選で政治の安定を選択したが、首相はこれ以上、三権分立の機能不全に拍車を掛けるような振る舞いをすべきでない。

 政権批判が強まるたびに、首相は「今後、慎重に謙虚、丁寧に政権運営に当たっていきたい」と繰り返してきた。いま一度、その言葉を思い起こすべきである。

 

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