東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

「魂込めた作品 作り続けて」 京都アニメ創業者の兄 呼び掛け

放火事件を報じる新聞を読みながら京都アニメーション社員らを気遣う杉山卓さん、一美さん夫婦=浜松市北区で

写真

 京都アニメーションの放火事件は、世界のファンに衝撃を与え、日本のアニメ界の未来を心配する声も広がっている。同社創業者で専務の八田陽子さんの実兄で、手塚治虫を支え、創生期から日本アニメに携わってきた浜松市北区三ケ日町の杉山卓さん(82)は不安や悲しみに押しつぶされそうになりながら、「魂込めたアニメ作りをやめちゃ、だめだ」と呼び掛ける。 (鈴木凜平)

 杉山さんは東京都出身。二十歳の時、東映動画(現東映アニメーション)に入社。原画をトレースし、セル画を描く作業に関わった。一九六三年ごろ、手塚さんに「今必要なのは、漫画よりもアニメの人材だ」と請われ、手塚さんの虫プロダクションに入り、チーフディレクターに就いた。

 その姿に感化されたのか「アニメの勉強がしたい」と相談に来たのが陽子さんだった。虫プロを紹介し、手塚さんの下、色を塗る「仕上げ」を担ったという。

 陽子さんは八一年、京都で近所の主婦を集め、仕上げを請け負うようになった。その後、夫の八田英明さんを社長に据えて、京都アニメーションを設立した。

 スタジオを見学し、「若い人たちを一生懸命に育てている」と感じた杉山さん。自身も、八〇年公開の映画「火の鳥2772」で手塚さんと監督・脚本を務めた後、東映動画で同僚だった妻の一美さん(80)と専門学校で教えるようになり、数年前まで後進育成に努めてきた。

 十八日、放火事件が起き「残忍過ぎる」と言葉を失った。被害の全容すらつかめない現状をおもんぱかり、陽子さんに電話もできていない。犠牲になった三十四人の中には「教え子もいるのでは」と不安になる。

 だが、だからこそ思い出す光景がある。「どうしてもやりたいんだよ」と言いながら、アニメの原画を描く手塚さんの姿だ。その情熱は、陽子さんたちにも受け継がれている。「日本アニメが世界で人気なのは、作り手の魂が宿っているからだ。それを、忘れない」

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】