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【芸能・社会】

手ごわい二人芝居 初共演と思えない 松尾スズキ&安藤玉恵

2019年7月21日 紙面から

大学教授キシ(松尾スズキ)(左)とアサダ(安藤玉恵)(引地信彦撮影)

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 松尾スズキと安藤玉恵の二人芝居「命、ギガ長ス」(作・演出松尾スズキ)が、めっぽう面白い。松尾が新たに立ち上げた東京成人演劇部の第1弾。ジワッとくるそこはかとないおかしみ、妙な動き、突拍子のない“小道具”が話の筋につながるこっけいさ、といったものがないまぜになりながら、社会問題への毒を含んだ、実は手ごわい作品なのである。

 認知症ぎみの母エイコ(安藤)とニートでアル中の息子オサム(松尾)の2人暮らしの様子を、大学生のアサダ(安藤)がドキュメンタリー作品にすべく撮影を続けている。10年前、風呂でおぼれ死んだ夫と同じように、オサムも死んだと思い込んでいるエイコは、炊飯器を墓石だと思って水をかけたりしている。

 2人とも素材になっていることを自覚していて、自分の惨めさを強調するような言葉を吐いたりする。それまでもドキュメンタリーへの“出演歴”があり、求められる役割を演じているようだ。

 悩まされるアサダは、大学教授キシ(松尾)に教えをこいつつ、映画祭への出品をちらつかされ不倫しているらしい。ドキュメンタリーに関して、なぜか厳しいオサムにやり込められる場面は、逆説的で一面の真理を突く。

 こうしたシチュエーションの中に、5080問題、年金、介護、格差社会の歪みなどが、サラリと盛り込まれ、笑っている場合か、と問い掛けられているようでもある。

 そんな中に、「平和な日本、北朝鮮にミサイル向けられても、割と普通にしていられる国、日本」などというドキリとする台詞が。

 それぞれ役の替わりどころも笑いのツボなのだが、初共演とは思えぬ息の合い方が小気味よい。松尾の怪優ぶりを堪能出来る上、安藤は声質を含めて大変魅力的な女優であることが分かった。

 付け加えるなら読んでも面白い戯曲で、安藤との解説対談では松尾の演劇観も語られている(白水社刊)。演劇の世界を志す若者には一読の価値がある。 (本庄雅之)

 ※21日まで東京のザ・スズナリ。この後、富山、大阪、北九州などで。

 

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