なぜ激論に?「民主党政権は悪夢か」から経済・原発論争に 安倍vs岡田13分の全詳報
- 岡田氏が猛攻「撤回せよ」「自民党政権時代の反省を」
- 「全否定と言えばプラカード」安倍首相は野党のブーメラン指摘
- 「民主党政権は悪夢」議論はなぜヒートアップしたか
「撤回を!」岡田氏が噛みついた安倍首相の「悪夢の民主党政権」発言
2月12日の衆院予算委員会での安倍晋三首相と立憲民主党会派所属の岡田克也元副総理の質疑は、思いのほか激しい応酬となった。その議論を詳しくお伝えする。
議論の発火点は、2月10日の自民党大会で安倍首相が「悪夢のような民主党政権」と発言したことだった。この発言については、共感する声の一方で、野党以外に自民党内からも「過去に終わった政権のことを引き合いに自分たちは正しいんだというやり方は危ない」と懸念の声が上がっていたが、この発言が国会で議論された。
「立憲民主党・無所属フォーラムの岡田克也です」
この日の予算委員会は、去年まで無所属の会の代表を務めてきた岡田元副総理にとって、立憲民主党の会派に入って初めてとなる節目の国会質問だった。旧民主党政権の中枢にいた岡田氏は、本題の前にこの「悪夢の民主党政権」発言を取り上げ安倍首相に噛みついた。
岡田氏
「きょうは総理と北方領土問題を中心に議論したいが、その前に一つ。先般の自民党大会で総理はあの悪夢のような民主党政権が誕生したと言われました。もちろん民主党政権時代の反省は我々にあります。しかし政党政治で頭から相手を否定して議論が成り立つのか。私たちは政権時代に、その前の自民党の歴代政権の重荷も背負いながら政権運営もやってきました。そのことを考えたら、あんな発言は出てこないはずだと思います。撤回を求めます!」
野党席から「そうだ!」という声が飛ぶ一方、与党席からは「(岡田氏が)反省しろ!」「結果だよ!」というヤジが飛び交った。そして苦笑いを浮かべながら質問を聞いていた安倍首相が答弁に立った。
安倍首相の反論「岡田さんには反省が全然ないんですか?」
安倍首相
「まさに政党間で議論する。私は別に議論を受け入れていないわけではなく、先週も7時間を5日間ずっと議論させていただきました。みなさんは自分たちの政権の正当性であれば、いろんな場所で演説されたらいいんですよ。私は自民党総裁としてそう考えている。そう考えているということを述べる自由はまさに言論の自由なんですからあるわけでありまして。少なくともバラ色の民主党政権でなかったことは事実なんだろうと言わざるを得ないわけですが」
自民党総裁として旧民主党批判をするのは言論の自由であり批判はあたらないとしつつ、改めて民主党政権の失敗を指摘した安倍首相。さらに民主党政権批判を続けた。
「では何が私が一番言いたかったかというと、あの時若い皆さんの就職率低いじゃないですか。岡田さんにはそういう反省全然ないんですか?我々は、政権を失ったとき、なぜ政権を失ったか、我々は深刻に反省したんです。その中で、全国で車座集会を開きながら真摯に耳を傾け、我々は生まれ変わろうと決意したわけでございます」
ここで改めて安倍首相の自民党大会での発言を、前後も含めて見てみたい。
「12年前のいのしし年、亥年の参議院選挙、我が党は参院選挙におきまして惨敗をいたしました。当時、総裁だった私の責任であります。このことは片時たりとも忘れたことはありません。我が党の敗北によって政治は安定をしない、そしてあの悪夢のような民主党政権が誕生しました。今、皆さんにはしみじみと思いだしていただいたと思います。決められない政治、経済は失速し、後退し、低迷しました。若いみなさんがどんなにがんばったってなかなか就職できない、仕事がなかったあの時代、地方においても今よりも中小企業の倒産件数が3割多かった、あの時代。もう人口が減少していくんだから成長なんかできないと諦めていたあの時代にみなさん、戻すわけにはいかないんです」(2月10日 自民党大会)
安倍首相は確かに、民主党政権の“悪夢”として当時の経済状況を挙げていた。そして安倍首相は岡田氏に対し、民主党政権は野党議員とっても悪夢だったのではないかと攻撃に出た。
安倍首相の第2波攻撃「悪夢でないならなぜ民主党の名前を変えたのか」
「みなさん、悪夢でなかった、それを否定しろとおっしゃるが、ではなぜ民主党という名前を変えたんですか。私は非常に不思議だ。自民党という名前を変えようとは思わなかった。私たち自身が反省して生まれ変わらなければならないという大きな決意をしたんです。名前のせいで負けたわけではない。みなさんは民主党というイメージが悪いからおそらく名前を変えたんだろうと推測する人がたくさんいますよ。そういう意味では皆さんもそう思っておられるのではないですか」
岡田氏の再攻勢「自民党政権の反省はないのか?あなたたちのやったことで苦しんだ」
腕を組み憮然として安倍首相の反論を聞いていた岡田氏は、向けられた矛先を、安倍首相に再び向け返した。
岡田氏
「驚きました。もちろん私たちは政権運営について反省はあると今申し上げました。しかしその前の自民党政権時代の反省はないのかと私は申し上げている。その重荷を背負って私たちは運営をした部分もある。あなたが本当に自民党政権時代の反省をしたというのであれば、あんな言葉出てこないはずですよ。一方的に民主党政権にレッテル張りしていますが、あなたたちがやったことで私たちも苦しんだこともある。そういったことについて謙虚な気持ちで、総理ですから発言してもらいたい。今の発言全く了解できませんよ。取り消しなさい!」
安倍首相
「取り消しなさいと言われても取り消しません(笑)。それを明確にさせて頂きたいと思います。反省がないというわけではないと申し上げましたよね。でも、みなさんに重荷を背負わせたというのは、これはわからない。皆さん政権を取ったんですから、自分たちの政策を進めればいいじゃないですか。重荷というのはなんですか?(ヤジ「財政赤字!」)財政赤字?例えば財政赤字ということについてはもちろん我々も財政赤字が溜まってきた。しかしこれはそれぞれ必要があってやってきたことであって漫然と行ってきたわけではない。それぞれあえて赤字を覚悟しても出さないといけない時もあるんですよ。例えば就職氷河期等を作ってはならない。その皆さんはずっと苦労するんですよ。そういう時には財政政策をするわけであります」
岡田氏が「重荷」と批判した自民党政権時代の原発対応
岡田氏の発言撤回要求について「取り消しません」と明確に拒んだ安倍首相。それに対し、岡田氏は、自らが苦しめられたという「自民党政権時代の重荷」の反省を求め、1つの具体的事例を挙げた。
岡田氏
「私は民主党政権時代の最大の苦しみ、そして申し訳なかったと思うことは、原発事故ですよ。あの福島の原発事故。もっとうまく対応できなかったか、私たち反省ありますよ。だけど同時に、その前の自民党政権にも責任があるんじゃないんですか?そこにあなたは責任を認めないんですか。はっきり答えてください!」
安倍首相
「原子力政策についてですね…失礼、過酷な事故が起こってしまったことについては、歴代政権として第一次安倍政権の時を含めて反省をしております。しかし総じてみれば、原発事故のことについて皆さんの対応をどうこう言おうというつもりはありません。そうではなくて経済政策について私は、そのあとの私の演説の文脈を見てくださいよ。経済政策において、この間、まさに失業率が今よりも、有効求人倍率においては我々の半分くらいですよね。都道府県について見てみれば、有効求人倍率は47すべての都道府県が1倍を超えています。これは史上初めてのことですが、民主党政権時代には7県8県であったのも事実じゃないですか。そういう時代を超えていかなければいけない、解消しなければいけないということで我々も努力してこういう状況を作り出したわけです。だからそういう批判をさせていただいた。だいたい批判をするなということ自体がおかしいのであって、皆さんが自由民主党に対して批判すればそれに対して反論しますよ。批判自体をやめろとか、そういうことを言ったことは、私は一回もない」
岡田氏
「批判するなと言っているのではなくて、全否定するようなレッテル貼りはやめろと言っているんです。では私が言った原発事故について、全会一致で設けた国会事故調の報告書はなんて言っていますか?総理、原発事故の根源的原因は何だと国会事故調の報告書は結論付けていますか?述べてください」
岡田氏は、自民党政権時代の原発対応が福島の事故を引き起こしたとして責任を追及したが、安倍首相はそれには乗らず、自らの民主党政権批判は経済が主眼だと反論した。岡田氏は、さらに食い下がるが、安倍首相はまたも反撃する。
全否定と言えば野党のお家芸?安倍首相「プラカード」での切り返し
安倍首相
「全否定するなと仰いますが、皆さん、例えば採決の時にアベ政治は許さないと全否定してプラカードを持ったのはどこの党の皆さんですか。名前が変わったらそれがもうなくなったということになるんですか。事故調の調査についてどういう見解を述べろということについては、質問通告していただかないと、政府として統一見解を述べないといけませんから、すでに述べていると思いますので、個人の見解は述べることはできませんからこの場においては。政府を代表して私ここに立っているんですから、それは通告していただかないと答弁することはできません。」
自ら口にした批判が同じ形で自らに帰ってくる、いわゆる「ブーメラン」を意識した安倍首相の反論。岡田氏はそれには答えず、あくまで原発事故を焦点に、自民党政権の反省を求めた。
岡田氏
「総理の見解を述べろと言っているのではないんです。国会事故調の報告書にどう書いてあるかということを聞いているわけです。私は驚きました。そんなことも総理は知らないんですか。国会事故調の報告書にはこう書いてありますよ。原発事故の根源的な原因は、平成23年3月11日以前に求められると、これが結論じゃないですか。その反省もできていないんですか。調査報告書覚えてもいないんですか。つまり3月11日以降の対応については私たちは反省しないといけないし、その前も私たちは責任を負いますよ。だけどあなたたちが、3月11日以前に歴代自民党政権が一体何をしてきたのか。この国会事故調の中(報告書)にはっきり書いてあるじゃないですか。(原発の)規制と推進を同じ役所、経済産業省の中に置いたこと。そして様々な提言を先送りした結果としてあの事故に至った。これが事故調の結論じゃないですか。そのことの反省はあなたには無いんですかと聞いているんですよ」
原発事故対応は反省するが、原発事故が起きてしまった原因は、自民党政権時代の政策、対応にあると強調した岡田氏。この点は、これまでも国会で追及されてきた部分で、自民党にとってはアキレス腱の面もある。
すれ違う岡田氏の原発事故議論と安倍首相の経済議論
安倍首相
「事故調に何が書いてあるかここで述べろと言われたら、私は事故調の文章をちゃんと見て述べなければいけない立場なんですよ。覚えていることをここで述べる立場には、内閣総理大臣ですからないわけですよ。そこでまた一言一句、私が記憶の中で答えたら、ここが違うのではないかと言われるわけですから、岡田さんもこちら側に立った立場があるんですから、その質問がどういう質問だったかは考えていただかなければいけないと思いますよ。お互いそういう質問をしあうのは非生産的の最たるものだと言わざるを得ないと思っています」
安倍首相としては、質問通告を受けての応答要領なしに、この原発問題を答弁することの危険性を察知したのかもしれない。突っ込んだ答弁を避け、再び経済に話題を戻した。
安倍首相
「そこで反省がないかと仰るわけですが、先ほどから、その点については我々も反省していると一番最初に述べたじゃないですか。その上で申し上げているが、政党同士ですから、そこはお互い戦いあっていくわけですよ。その中で相手の政策は間違っていたということで申し上げているわけで、私の党大会における演説は経済政策について主に批判させていただいている。原発の政策について私は一言も述べていないわけですから、ほかにもありますよ。外交にだって言いたいことはたくさん、全部言う時間がありませんでしたから経済について述べさせていただいた。つまり仕事がなかった、連鎖倒産が続いていたということを述べた。マクロ政策においても皆さんの時のマクロ政策は間違っていたと思いますよ、明確に。ですから私達は3本の矢という政策を打ち出した。その中でもはやデフレではないという状況をかなり早い段階で作りだすことができた。雇用状況が改善しているのは事実ですよ。昨年12月1日時点での大卒者の就職内定率は過去最高となっているわけであります。若い皆さんが、働きたいと思う人が、仕事があるという状況を作るのが政治の大きな責任だと思っている。申し訳ないですが残念ながら皆さんの時はそれを果たすことができなかったのは事実ですから、この事実を受け止めないのであれば、まったく反省していないと言わざるを得ないのではないですか」
岡田氏
「私が聞いてもいないことを長々と答弁されるわけですが、あの原発事故の時に本当に残念だったことは、津波が来て水に浸かった。予備電源が失われた。そして電源が失われたことによって水素爆発やメルトダウンが生じてしまった。もちろん我々の対応にも問題あったと思うけれども、なぜ予備電源が地下にあったのか、なぜ津波の水が超えて来た時に水没してしまうようなところに予備電源を置いておいたのか。この本当にばかげた失敗、これは自民党政権の時代の話なんですよ。そのことがわかっていたら、今のような答弁にならないですよ。私は3月11日以前にあったというこの事故調の報告書についてもう一度総理に読み直していただきたいと思っています。民主主義はお互いに相手を全否定したら成り立たないんです。ですから私はこれからも議論します。だけど、総理の党大会の言い方はほぼ全否定に近いような言い方、それでは私は、議論は深まらないし民主主義はどんどんおかしくなってしまう、そのことを申し上げたいと思います」
なぜ民主党政権への評価の議論はヒートアップしたか
結局、原発と経済と、議論がすれ違ったままこの議題は終わり、本来岡田氏がメインの質問としていた北方領土問題の議論に移っていった。
今回、一連の議論がヒートアップした原因は、民主党政権の評価、平たく言えば失敗という国民の多くの記憶が、安倍政権にとって重要な生命線の1つであり、野党にとっては最大のハードルだという現実だ。
第二次安倍政権は民主党政権から「この国を取り戻す」と掲げて誕生し、ことあるごとに、民主党政権時代と比べて、これだけ結果を出してきたと強調してきた。それは国民の間に一定の共感を生み、森友加計問題があっても、安保法制や消費税増税など国民の反発の根強い政策を通しても、安倍政権が一定の安定を保つ大きな原動力となってきた。
一方の野党にとっても、いかに民主党政権の負のイメージを払拭するかはこれまで大きな課題だったし、民進党への党名変更を突いた安倍首相の批判は、野党にとっては痛いところを突いたものだっただろう。そして、野党内には今、民主党政権時代の記憶を払拭するのではなく、政権のよかった部分については堂々と再評価を訴えイメージを変えないと、政権奪還は難しいとの意見も強まっている。
夏の参院選でも、投票行動を左右する隠れた重大要素となる、旧民主党政権の評価。その重要性が改めて露わになった安倍首相と岡田元副総理の議論だった。